No.1133
9月21日の日曜日、アメリカ・ドイツ合作映画「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。本年度カンヌ国際映画祭でのプレミア上映では7分半にわたるスタンディングオベーションを浴びた話題作だそうですが、わたしは「うーん、どこがそんなに凄いの?」と思ってしまいましたね。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』などのウェス・アンダーソン監督とベニチオ・デル・トロが組んだクライムコメディー。6度の暗殺未遂を生き延びた大富豪がビジネスの危機的状況を打開するため、長らく疎遠だった娘と共に資金調達の旅に出る。共演にはドラマ「I AM ルース」などのミア・スレアプレトン、『JUNO/ジュノ』などのマイケル・セラ、『静かなる侵蝕』などのリズ・アーメッドらに加え、トム・ハンクス、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチらがそろう」
ヤフーの「あらすじ」は、「1950年代の大独立国フェニキア。6度の暗殺未遂を生き延びたヨーロッパの大富豪ザ・ザ・コルダ(ベニチオ・デル・トロ)は、フェニキア全域に及ぶインフラを整備する『フェニキア計画』に巨額の資金を投じていたが、さまざまな妨害によって資金難に陥り計画が行き詰まってしまう。彼は疎遠になっていた娘で修道士のリーズル(ミア・スレアプレトン)を後継者に指名し、彼女を連れて資金調達の旅に出る。その道中、父娘はさまざまな事件に巻き込まれていく」です。
主人公ザ・ザ・コルダを演じた主演ベニチオ・デル・トロですが、ちょっとブラッド・ピットに似ていますね。もちろんブラピの方がハンサムですが、確かに似ています。でも、じつに中途半端な似具合なので、どうしてもモヤモヤ感が残ります。ちなみにブラピは現在61歳ですが、ベニチオは58歳ですね。彼はプエルトリコ出身の俳優ですが、1988年に『ピーウィーの空飛ぶサーカス」で映画デビュー。2000年の「トラフィック」でアカデミー助演男優賞と第51回ベルリン国際映画祭男優賞を受賞。外国語を話す役柄でのアカデミー助演男優賞受賞者は史上4人目、プエルトリコ人の俳優としては史上3人目でした。
2003年の「21グラム」では、ベニチオは「トラフィック」に続いて再びアカデミー助演男優賞の候補となっています。2004年に同作品の宣伝で来日した際には、熱狂的な日本人女性のファンから腕を噛まれる災難にあったことがあり、日本の新聞の紙面で「トロ様」と呼ばれました。また、宣伝用のフリーペーパーでは同じく助演男優賞で候補になった渡部謙との対談をしています。2008年公開のスティーヴン・ソダーバーグ監督の「チェ」では主人公のチェ・ゲバラを演じ、第61回カンヌ国際映画祭男優賞を受賞しました。今や、世界的な俳優となっています。
この映画、なかなかの豪華出演陣で、「フェニキア計画」への出資者の1人である鉄道王リーランドにトム・ハンクス。ザ・ザの"はとこ"ヒルダに、スカーレット・ヨハンソン。ザ・ザの異母兄弟ヌバルには、ベネディクト・カンバーバッチ。主役級のハリウッド・スターたちが、脇役それも癖のあるキャラクターたちを怪演して話題になっています。ただし、わたしは前日の疲れから上映中に爆睡してしまったため、なんとトム・ハンクスの出演シーンを見逃してしまいました。まあ、スカーレット・ヨハンソンの出演シーンもほんの一瞬だったので、トイレにでも行っていたら確実に見逃すところでしたね。危なかった!
ザ・ザの娘リーズルには、何百人もの中からオーディションで選ばれたミア・スレアプレトン。ザ・ザには10人の子どもがいましたが、娘はリーズル1人だけ。しかし、ザ・ザは9人の息子たちを差し置いて、リーズルを唯一の相続人に選びます。彼はリーズルを溺愛し、「娘がいれば、それだけで幸せだ」などと言いますが、これは共感してしまいました。ザ・ザがリーズルを後継者に指名したのは娘だから可愛いからだけでなく、修道女だった彼女にはピュアな心があったからではないかと思いました。ザ・ザは「強欲で汚い手を使う守銭奴」のように思われていますが、彼が構想する「フェニキア計画」は電力や鉄道などのインフラを総合的に整備する事業であり、これは「世のため人のため」という高い志がなければできないことです。基本的には、彼もピュアな心の持ち主だったと思います。
『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)
拙著『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)で、わたしは「どういう人物を後継者に選ぶべきか」という問題について「血液よりも思想が重要」と述べました。会社などの組織を後継する際には、血縁に頼るのではなく、創業者や先人の「思想」を継承することが重要だと主張したのです。もちろん、血縁も備わっていればさらに良いのでしょうが、最も大切なことは、創業者の精神や理念といった「思想」を深く理解している人物こそが後継者となるべきであり、そうすることで会社や関係者が最も良い状況を迎えられると述べています。思想の受け皿となるものが「心」です。ザ・ザはリーズルの中に自分と同じ「ピュアな心」を見つけたのでしょう。
わたしも、父から思想と事業を受け継ぎました。ブログ「日本人八美道」で紹介したように、父は「物の豊かさ(土地・家・車・金)の追求ではなく、心の豊かさ(礼節・信義・奉仕)の追求でありたい。物に価値を置くのではなく、心に価値を見出す生き方をしたい」と述べました。「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」の冒頭シーンには、プライベート・ジェットが登場します。わたしも父からの相続が完了(もちろん相続税はきちんと払いました)し、それなりの遺産も手にしました。でも、いくらお金があっても、プライベート・ジェットを購入したいなどとは絶対に考えません。父ゆずりで、物の豊かさの追求ではなく、心の豊かさの追求をしたいと思います。
「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」でウェス・アンダーソン監督が徹底的にこだわったのは、「本物」を揃えることでした。ザ・ザの邸宅を飾る美術品はなんと本物ばかり。それらは映画のエンドロールに登場しますが、ルノワールはナーマド・コレクション、マグリットはピーチ・コレクション、その他の作品はハンブルク美術館から提供を受けたとか。さらにリーズルの「世俗的なロザリオ」はカルティエ、リュックはプラダ、宝石で飾られたコーンパイプはダンヒルなど、一流の「本物」たちが本作に集ったわけです。プライベート・ジェットなどより、こういった贅沢は「心の豊かさ」にも通じることであり、素晴らしいですね。ちなみに、この映画、カンヌのプレミア上映での7分半にわたるスタンディングオベーションの他、アメリカでの先行公開で初週末3日間の館アベレージが今年の限定公開作の最高記録を達成、その後の拡大公開では興行収入ランキングのベスト10入りを果たしています。