No.1134


 9月28日の日曜日、日本映画「俺ではない炎上」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。予告編を観たときは「面白そうだな」と思ったのですが、実際に鑑賞してみるとダメでした。開始早々に「こいつ怪しいな」と感じた人物が真犯人だったのはビックリ! これはシナリオというより原作に問題があるような気がします。
 
 ヤフーの「解説」には、「『六人の嘘つきな大学生』の原作などで知られる浅倉秋成の小説を実写映画化。ある日突然インターネット上で身に覚えのない殺人事件の犯人に仕立て上げられ、炎上状態に巻き込まれた男の悪夢を描く。監督は『AWAKE』などの山田篤宏、脚本は『護られなかった者たちへ』などの林民夫が担当。主人公を『ショウタイムセブン』などの阿部寛が演じ、『メタモルフォーゼの縁側』などの芦田愛菜、『追想ジャーニー』などの藤原大祐、『おいしくて泣くとき』などの長尾謙杜のほか、浜野謙太、夏川結衣らが出演する」とあります。
 
 ヤフーの「あらすじ」は、「大手ハウスメーカーの営業部長・山縣泰介(阿部寛)は、ある日突然女子大生殺人事件の犯人としてSNS上で名指しされる。彼は全く身に覚えのない事態に困惑するも、匿名の群衆が個人情報を特定して根拠の乏しい情報が独り歩きを始め、瞬く間に世間から追いかけ回され始める。無実を訴える泰介は、自分を陥れた真犯人を見つけようとする」となっています。
 
 原作小説『俺ではない炎上』(双葉社)について、アマゾンには「ある日突然、『女子大生殺害犯』とされた男。既に実名・写真付きでネットに素性が曝され、大炎上しているらしい。まったくの事実無根だが、誰一人として信じてくれない。会社も、友人も、家族でさえも。ほんの数時間にして日本中の人間が敵になってしまった。必死の逃亡を続けながら、男は事件の真相を探る」との内容紹介があります。作者の浅倉秋成は一条真也の映画館「六人の嘘つきな大学生」で紹介した日本映画の原作者でもありますが、どうも彼の小説にはすぐ真犯人がわかってしまう底の浅さを感じてしまいます。それとも、今どきの若い読者にはこういったライトなミステリーの方が受けが良いのでしょうか?
 
「俺ではない炎上」を観て、わたしは筒井康隆の『おれに関する噂』(新潮文庫)を連想しました。日本を代表するSF作家の1人である筒井が1974年に発表した短編集で、同名の短編もあります。主人公は森下ツトムというのですが、ある日、テレビのニュース・アナが、だしぬけに「おれ」のことを喋りはじめます。続いて、新聞が、週刊誌が、おれの噂を書き立てます。なぜ、平凡なサラリーマンであるおれのことを、マスコミはさわぎたてるのか? SNSが存在しない時代の黒い笑いと恐怖にみちた作品でした。1991年8月1日放送のフジテレビ「世にも奇妙な物語」で、萩原流行の主演で映像化されました。

 冤罪というと、普通は警察の誤認逮捕や裁判での不当判決を思い浮かべます。しかし現代の冤罪はSNSを中心としたインターネット上でも発生します。根拠不明な噂を発端にしてネット民たちが騒ぎ立て、冤罪事件が起こることがあるのです。中には私人逮捕を目指す迷惑系YouTuberなどもいて、ネットで罪の濡れ衣を着せられた当人にとっては生命の危機さえも感じる恐怖を味わうことになります。本作の主人公・山縣泰介はその恐怖から逃げ続けますが、演じる阿部寛が高身長なのがちょっと違和感がありました。あれでは、どこに逃げても目立ってしまう!

 ネタバレになるのを防ぐため気をつけて書きますが、真犯人は「自分は絶対に正しい」と思い込んでいる人物でした。世の中、こういう連中が多くて困りますが、自分は匿名のくせに他人の実名を晒して「あること、ないこと」書き込みまくる者は本当に困りますね。そういう卑怯千万な人間は法の裁きを受けるべきですし、本来は「匿名で他人を誹謗中傷する」こと自体を犯罪行為として認定すればいいと思います。わたしが山縣泰介のような目に遭った場合、もちろん、ネット問題にも強いわが社の顧問弁護士に相談します。まあ、匿名の卑怯者が言うことを信じる人間など皆無に近いですけどね。
 
 それから、「俺ではない炎上」には芦田愛菜が重要な役で出演しているのですが、彼女がどうにも良くなかったですね。もちろん子役時代から抜群の演技力で知られる彼女ですが、この映画では彼女の良さがまったく出ていませんでした。これまでの彼女の清純で明るいイメージから、ちょっと影のある役とか、ミステリアスな役というのは似合わないように思えます。しかし、それだと今後の女優としての活躍が制限されてしまいます。汚れ役をリアルに演じることが、これからの芦田愛菜の課題なのかも?