No.1135


 9月30日、日本映画「沈黙の艦隊 北極海大海戦」を、前日に舞台挨拶したばかりのローソン・ユナイテッドシネマ小倉で鑑賞。一条真也の映画館「沈黙の艦隊」で紹介した2023年の日本映画の続編です。主演の大沢たかおをはじめとする俳優陣が素晴らしい熱演で、「世界平和」や「理想の指導者」について考えさせられました。当然ながら、自民党の次期総裁についても想いを馳せました。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「独立国『やまと』を宣言した原子力潜水艦が引き起こす混乱を描いた、かわぐちかいじのコミック『沈黙の艦隊』を実写化したポリティカルアクションのシリーズ第2弾。国連総会へ出席すべくニューヨークへ向かう『やまと』と、その撃沈を命じられたアメリカの最新鋭原潜が、北極海で激突する。監督の吉野耕平、海江田四郎役の大沢たかお、市谷裕美役の上戸彩など、前作のスタッフとキャストが顔をそろえている。津田健次郎、渡邊圭祐、風吹ジュンらが、新たに共演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、「原子力潜水艦『やまと』の艦長・海江田四郎役(大沢たかお)は、東京湾でアメリカ第7艦隊を倒し、国連総会出席のためにニューヨークへ針路を取る。ベーリング海峡に差し掛かったとき、やまとの背後に一隻の潜水艦が迫る。それはアメリカのベネット大統領(リック・アムスバリー)がやまと撃沈のために差し向けた、最新鋭の原潜だった。そのころ、日本ではやまと支持を訴える竹上登志雄首相(笹野高史)が新党を立ち上げて解散総選挙に臨み、民自党幹事長・海渡真知子(風吹ジュン)と激しい戦いを繰り広げる」となっています。
 
 映画原作の『沈黙の艦隊』は、かわぐちかいじによる日本の漫画作品です。『モーニング』(講談社)にて、1988年から1996年まで連載。1990年に第14回講談社漫画賞一般部門を受賞。2023年1月時点で紙・電子を合わせた累計発行部数は3200万部を突破しています。アニメ・ラジオドラマ化もされています。潜水艦戦を描いた戦記物に、核戦争や国際政治等の問題提起を絡ませ、各方面から注目を集めました。「沈黙の艦隊」とは、「潜水艦戦力」を意味する英語の「Silent Service」の直訳です。足掛け8年・全32巻という長期に渡って連載された物語ですが、劇中で実際に経過した時間はわずか2ヶ月。折しもその連載中にソビエト連邦の崩壊・冷戦終結など現実世界の世界情勢が劇的に変化しており、本作の設定やストーリーにも影響を及ぼしています。
 
 漫画『沈黙の艦隊』の初の映画化となった2023年公開の前作では、海上自衛隊の潜水艦がアメリカ軍の原潜と衝突し、艦長・海江田四郎(大沢たかお)ら全乗員76名が死亡したと報じられます。だが乗員は生存しており、事故は彼らを日米極秘開発の原潜シーバットに乗務させるための偽装工作でした。シーバット艦長に任命された海江田は、シーバットに核ミサイルを搭載し、潜航中に許可なくアメリカ艦隊の指揮下から離脱して姿を消します。アメリカがシーバット撃沈を決める中、海自のディーゼル艦たつなみの艦長・深町洋(玉木宏)はアメリカより先にシーバットを捕獲しようと動くのでした。
 
 2024年には、プライムビデオで全8話の連続ドラマ「沈黙の艦隊 シーズン1 東京湾大海戦」が配信されました。2023年公開の劇場版にはない未公開シーンや、劇場版の続きとなる沖縄沖海戦、そして東京湾海戦というクライマックスまでを含め、連続ドラマとして描いています。このドラマシリーズはAmazon MGMスタジオが日本で手掛けた作品の中で歴代1位の国内視聴数を記録するなど大ヒットとなりました。核兵器、国家、戦争、世界平和といった数々のテーマに挑む極上のアクション・ポリティカル・エンタテインメント作品として、幅広い層から高く評価されたのです。
 
 前作映画、全8話のドラマシリーズに続いて公開されたのが映画「沈黙の艦隊 北極海大海戦」です。本作では、まるで世界中の海底地形図が丸々頭に入っているかのように、深海で潜水艦を自由自在に動かすことができる海江田四郎の超人的な操艦技術が嫌というほど見せられます。かつて日露戦争の日本海海戦において世界最強のバルチック艦隊を撃破した連合艦隊総司令官の東郷平八郎も真っ青の奇策を仕掛け、敵の裏を何度もかき、たった1隻でアメリカの第7艦隊を圧倒するという離れ業を見せてくれます。海江田を演じる大沢たかおはスリムでクールですが、同時期に「キングダム」シリーズのマッチョな王騎将軍を演じていたかと思うと、大沢たかお自身がスーパーマンのように思えてしまいます。
 
 主演の大沢は、この映画のプロデューサーも務めています。彼は、本作「沈黙の艦隊」シリーズや「キングダム」シリーズのプロデューサーである松橋真三と日本の未来像についてよく語り合い、その中からこの漫画の実写化案が生まれたそうです。改めて漫画を読み直した大沢は「ウクライナ侵攻の前でしたが、中国と台湾の間の緊張が高まるなどしており、日本はどうしたらいいのかを考えるきっかけになるような映画を作ってもいいのではないかと考えました」と語っています。大沢はかわぐちかいじへの企画説明の際のほか、防衛省や自衛隊への協力要請の際にも自ら連絡を取るなどプレゼンテーションに奔走し、同じくプロデューサーの松橋真三と共に各地へ足を運んだといいます。
 
 プロデューサーで主演の大沢は、役づくりの一環として、劇場版「沈黙の艦隊」本編撮影前に広島県江田島にある海上自衛隊幹部候補生学校を訪れ、候補生との交流や所作指導を受けました。撮影は広島県呉市にある海上自衛隊呉史料館「てつのくじら館」に展示されている潜水艦あきしおの非公開エリアなど、日本で初めて海上自衛隊潜水艦部隊の撮影協力を得て、実際の海上自衛隊潜水艦が使用されています。また潜水艦内でのリアルな動きを表現するために、動線やヘッドホンの使い方など些細なことでも海上自衛隊の潜水艦乗組員に所作指導を受けるなど、リアルな描写を追求し、熱意を持って撮影に臨みました。その映画魂には頭が下がりますね。
 
 大沢たかお以外の俳優陣も素晴らしかったです。特に、明らかに自民党をモデルにした民自党の幹事長である海渡真知子を演じた風吹ジュン、防衛大臣で大悟派代表である曽根崎仁美を演じた夏川結衣の2人の女優が存在感を示していました。どちらかというと、2人とも失礼ではありますが「くたびれたオバサン」のような役が多い印象でしたが、ともに大物女性政治家を見事に演じ切っていました。ドスのきいた低音で話す風吹ジュンは非常に威圧的で貫禄があり、「極道の妻たち」シリーズの岩下志麻をも連想させました。また、 ブログ「俺ではない炎上」で紹介した日本映画で優柔不断な主婦を演じた夏川結衣も打って変わって、夏目雅子演じる鬼龍院花子のような迫力を見せていました。女優って、凄いですね!
 
 その他、内閣総理大臣の竹上登志雄を演じた笹野高史が良かったです。質実剛健を絵に描いたような実直な人物で、「こんな真っすぐな人が首相になれるほど政治は甘くないのでは?」と思わせるほどでした。彼はどんな政敵であっても、自分に矢を向ける人物であっても、礼を尽くして深々とお辞儀をします。その姿がわたしのハートにヒットしましたし、結局は彼が首相になるわけですから、「礼法は最強の護身術」という言葉を思い出しました。ブログ「笹野高史講演会」で紹介したように、わたしは笹野さんと映画談義をしたことがありますが、ご自身も竹上登志雄のように誠実な方でした。
 
 映画「沈黙の艦隊 北極海大海戦」を観ると、「誰が日本のリーダーになるべきか」ということが頭に浮かび、いよいよ近づいてきた自民党総裁選の行方が気になります。そして、海江田が命をかけて実現しようとしている「世界平和」についても想ってしまいます。わたしの愛読書の1つに、1795年にイマヌエル・カントによって著された政治哲学の名著『永遠平和のために』があります。フランスとプロイセンがバーゼルの和約を締結した1795年にケーニヒスベルクで出版されました。同書で、カントには永遠平和の実現可能性を示す具体的な計画を示すことが求められます。「沈黙の艦隊 北極海大海戦」を観ながら、根本的に平和の問題を論考した同書の内容を思い出していました。映画「沈黙の艦隊 北極海大海戦」には、鏡水会代表の大滝淳という国会議員が登場します。津田健次郎が演じていましたが、大滝は「軍事力の永久放棄」という途方もない政策を打ち上げますが、その具体的方法とは「やまと」に各国が保険を掛けるというものでした。
 
「世界平和」について考えた場合、カントとともに、織田信長のことも心に浮かんできました。わたしは人間尊重の思想を世に広めるという意味で「天下布礼」を掲げています。当然ながら、信長の「天下布武」という言葉から生まれた造語ですが、この「天下布武」は信長が印章に用いた言葉で、一般的には「武力で天下を平定する」という意味で捉えられがちです。しかし、本来は「武力ではなく徳をもって世の中を治める」という平和的な意味合いも含まれています。ということは、「天下布武」と「天下布礼」は同じ意味に近づいていくのです。武力だけで国際政治を進めていくと、最後は核戦争に行き着きます。そこには、どうしても相手を尊重する「礼」の思想が求められます。
 
「礼」とは、2500年前の中国の春秋戦国時代において、他国の領土を侵さないという規範として生まれたものだとされています。その「礼」の思想を強く打ち出した人物こそ孔子です。そして、逆に「礼」を強く否定した人物こそ秦の始皇帝でした。それは、始皇帝は自ら他国の領土を侵して中国を統一する野望を抱いていたからです。始皇帝は『論語』をはじめとする儒教書を焼き払い、多くの儒者を生き埋めにしました。世に言う「焚書坑儒」であり、人類史上に残る愚行とされています。しかし、始皇帝が築いた秦帝国はわずか14年間しか続きませんでした。しょせんは「人の道」を踏み外した人間の作った国など、長続きしなかったのです。「礼」こそは究極の平和思想であり、だからこそ、わたしは「天下布礼」の道を目指したいと思います。映画の最後で、「やまと」は世界の平和について話し合う国際連合総会に出席するため、ニューヨーク港に入港しました。この先を描く続編が楽しみです!