No.1132


 9月19日、理事長を務める冠婚葬祭文化振興財団の経営会議の終了後、北九州に戻りました。この日は一条真也の映画館「男神」で紹介したわが出演映画の公開日。同日に公開された最大のライバルとされている日本映画「宝島」をローソン・ユナイテッド・シネマ小倉で鑑賞。戦後の沖縄を描いた感動の力作でしたが、上映時間191分はやはり長過ぎた!
 
 ヤフーの「解説」には、「太平洋戦争後の沖縄で、アメリカ軍基地から奪った物資を住民たちに分け与える『戦果アギヤー』と呼ばれた人々を描く真藤順丈の直木賞受賞作を映画化。ある夜、基地を襲撃した戦果アギヤーのリーダーが消息を断ち、残された仲間たちがリーダー失踪の謎を解き明かそうとする。メガホンを取ったのは『るろうに剣心』シリーズなどの大友啓史。キャストには『ある男』などの妻夫木聡と窪田正孝、『流浪の月』などの広瀬すず、『怪物』などの永山瑛太らが名を連ねる」とあります。
 
 ヤフーの「あらすじ」は、「太平洋戦争後、GHQ統治下の沖縄には、アメリカ軍の基地などから奪った物資を困窮者らに分け与える『戦果アギヤー』と呼ばれた若者たちがいた。その中心にいるオン、グスク、ヤマコ、レイは幼なじみで、最年長のオンがリーダーとして皆をまとめる存在だった。ある夜、基地襲撃の際に予想外の戦果を手にしたオンが突如姿を消す。残された3人はその後時を経て警察官、小学校教師、ヤクザになり、それぞれの思いを抱えながらオンの失踪の謎を追う」となっています。
 
 原作の『宝島』は、2018年に初版が刊行されました。アマゾンの内容紹介には、「◆祝!3冠達成★第9回山田風太郎賞&160回直木賞受賞!&第5回沖縄書店大賞受賞!◆希望を祈るな。立ち上がり、掴み取れ。愛は囁くな。大声で叫び、歌い上げろ。信じよう。仲間との絆を、美しい海を、熱を、人間の力」として、「英雄を失った島に新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染みーーグスク、レイ、ヤマコ。生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり、同じ夢に向かった」という【あらすじ】が紹介されています。
 
 わたしはもちろん「男神」チームの一員なのですが、わが社にとって沖縄は重要な拠点であることもあり、沖縄の戦後をドラマティックに描いた「宝島」にも心を揺さぶられました。いま、同じシネコンでは一条真也の映画館「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」「国宝」で紹介したスーパーヒット作も上映中なのですから、本当に凄いことになっています。「宝島」はミステリー要素も強い作品なのでストーリーの詳しい紹介は控えますが、沖縄の人々の悲嘆や苦悩が深く描かれるあまり、ウチナンチュ―とヤマトンチュ―は永遠に理解し合えないというメッセージが込められている気がして哀しくなりました。

「宝島」は、とにかく、妻夫木聡、窪田正孝、永山瑛太の戦果アギヤーの3人を演じた男優の演技が素晴らしかったです。主演の妻夫木聡は置いておいて、戦果アギヤーのリーダー役であるオンを演じた永山瑛太の存在感がハンパではなかったですね。なんというか、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのジャック・スパロウみたいで、和製ジョニー・デップという感じでした。オンの弟であるレンを演じた窪田正孝も狂気が炸裂して良かったです。ただし、広瀬すずだけは正直言って違和感ありました。 一条真也の映画館「遠い山なみの光」で紹介した公開中の日本映画では素晴らしい演技を見せていますが、「宝島」での彼女の役は沖縄出身の女優に演じてほしかったです。
 
 さて、主演の妻夫木聡ですが、彼は沖縄を舞台にした映画に似合いますね。というのも、一条真也の映画館「涙そうそう」で紹介した2006年の日本映画でも沖縄出身の青年を演じたのですが、これが最高に良かったのです。同作は、日本中で愛されている名曲「涙そうそう」をモチーフに、「いま、会いにゆきます」(2004年)の土井裕泰監督が手掛けた感動ドラマです。沖縄で生まれ育った血のつながらない兄妹が織りなす、切ない愛の物語を描きます。素朴で優しい兄・洋太郎を人気俳優の妻夫木聡が、兄の愛情を一身に受けてまっすぐに育った妹・カオルを長澤まさみが好演。また、彼らを取り巻く人々を、小泉今日子、麻生久美子、塚本高史ら豪華俳優陣が演じました。

 もう20年以上前の映画ですからストーリーを明かしますが、「涙そうそう」では、兄が亡くなってしまいます。兄の葬儀を終え、砂浜に座って海を見つめる妹に、平良とみ演じる祖母が優しく声をかけ、「兄さんはニライカナイで幸せに暮らすんだよ」と言うのです。死者が海の彼方の理想郷で生きているというファンタジーを大切にする沖縄の人々は、本当に心ゆたかであると思わずにはいられません。そして妹の元に亡くなった兄から荷物が届きます。それは妹の成人式用の着物でした。兄は、たった1人の妹に成人式の晴れ着を買ってやるために、無理をして働いていたのですね。そのために若くして命を落としてしまったわけですが、そんな兄の深い愛情は妹の心にしっかりと届くのでした。そう、「涙そうそう」は成人式や葬儀の素晴らしさを描いた‟ザ・冠婚葬祭映画"の名作でした!

 その「涙そうそう」では、長澤まさみが妻夫木聡のことを「にいにい」と呼びましたが、「宝島」では広瀬すずが同じく「にいにい」と呼んでいましたね。また、「涙そうそう」では「なんくるないさー」が口癖だった妻夫木演じる洋太郎でしたが、「宝島」ではアメリカへの恨みを爆発させたグスクが「なんくるないで済むか!」とコザ暴動のときに激怒した場面が印象的でした。この「宝島」という映画を観ると、MPによって米兵の犯罪(殺人・レイプ・交通事故)などがことごとく揉み消されてきたことへの怒り、本土復帰しても基地は残されるという絶望。沖縄の人々のさまざまな感情がリアルに描かれていて、観ていて辛くなりました。今ではGHQに帰属するMPというものは存在しませんが、沖縄には今でも基地は存在します。
嘉手納基地の前で



 2011年4月19日、沖縄市に待望の「中部紫雲閣」がオープンしました。場所は嘉手納基地のすぐ近くです。映画「宝島」でも嘉手納基地が主要な舞台ですが、中部紫雲閣の竣工式の社長挨拶で、わたしは「どうやら騒音問題などで住民の方々と嘉手納基地がうまくいっていないようなので、ここで『隣人祭り』をすればいいと思います。もちろん、わたしたちサンレーがお手伝いさせていただきます」と述べた後、わたしは「この館 カデナの基地に 近けれど さらに近きは ニライカナイよ」という道歌を詠みました。「ニライカナイ」とは、沖縄人にとっての死後の理想郷、すなわち天国です。この会館から、多くの御霊を平和なニライカナイへお送りしたいと思いました。
守礼門にて「天下布礼」の旗を掲げる!



 2015年4月、豊見城市豊崎に「豊崎紫雲閣」をオープンしたとき、辺野古の基地建設問題で国と沖縄県の翁長知事(当時)が対立していました。政治的な問題は別として、わたしは「軍事基地の反対はセレモニーホールではないか」という意見を発信しました。本当に、セレモニーホールとは究極の平和施設ではないかと思うのです。なぜなら、「死は最大の平等」であり、亡くなった人々の御霊は平和な魂の理想郷へと旅立つからです。沖縄は「守礼之邦」と呼ばれます。もともとは琉球の宗主国であった明への忠誠を表す言葉だといいます。しかし、わたしは「礼」を「人間尊重」の意味でとらえています。沖縄の方々は、誰よりも先祖を大切にし、死者の供養をされます。日本でも最高の「礼」を実現していると言えるでしょう。先祖供養という点においては、「本土復帰」ではなく、本土が「沖縄復帰」するべきだと思うのです。

 沖縄の先祖供養の深さは、死者儀礼そのものによく表れています。「宝島」の終盤では、ある登場人物の遺骨が発見され、それを縁ある人々が洗骨するシーンがありました。わたしは、一条真也の映画館「洗骨」で紹介した2019年の日本映画を思い出しました。これも沖縄愛の強い作品でした。土葬または風葬した遺体の骨を洗い再度埋葬する「洗骨」の風習を通じ、バラバラだった家族が再生していく物語です。新城家の長男・剛(筒井道隆)が、4年前に他界した母・恵美子(筒井真理子)の洗骨のため故郷の粟国島に戻ります。実家に住む父・信綱(奥田瑛二)は母の死後、酒に溺れており生活は荒んでいました。妻に先立たれた父親役を演じた奥田瑛二が良かったですね。沖縄は男性よりも女性のほうが強い地域として知られますが、「頼りない男」そして「情けない父親」を見事に演じました。
死者とともに生きる』(産経新聞出版)



 琉球王国の王室は、戦前まで洗骨を経て納骨されていたと記録に残っています。沖縄における洗骨の意味は、洗骨されないうちは死者は穢れていて、神仏の前に出られないという信仰があるからとされます。このように、映画「宝島」は沖縄の儀礼文化という視点でも興味深い作品でした。ちなみに、わたしは本日20日、父の一周忌法要、墓石開眼供養および納骨を行います。最後に、「宝島」で米軍を相手に暴動を起こす沖縄の人々の姿を見て、わたしはその背後に死者の存在を感じました。太平洋戦争の沖縄戦では、じつに沖縄県民の4人に1人が犠牲になりましたが、戦後の沖縄の人々の心にはつねに「死者との共闘」という意識があったように思います。「死者との共闘」については、戦後80年記念出版の『死者とともに生きる』(産経新聞出版)の中で詳しく書きました。沖縄戦のことも書いていますので、よろしければ、ご一読下さい。
ローソン・ユナイテッド・シネマ小倉の通路