No.1131
18日の夜、映画関係の打ち合わせを終えた後、アメリカ・台湾・日本映画「Dear Stranger/ディア・ストレンジャー」をTOHOシネマズシャンテで観ました。ニューヨークが舞台ですが、暗くて不快指数の高い物語でしたね。ヒロインのグイ・ルンメイは美しかったです!
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「息子を誘拐された夫婦の姿を描くサスペンスドラマ。ニューヨークに暮らすアジア人夫婦が、何者かに息子をさらわれたことをきっかけに、お互いが抱えていた秘密をあらわにしていく。監督は『ディストラクション・ベイビーズ』などの真利子哲也。『ドライブ・マイ・カー』などの西島秀俊、『ザ・ビッグ・コール 史上最強の詐欺師たち』などのグイ・ルンメイらが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、「ニューヨークで生活している日本人の賢治(西島秀俊)と台湾系アメリカ人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)は、仕事や育児、介護に追われる日々を送っていた。ある日、幼い息子が誘拐され、殺人事件にまで発展してしまう。深い悲しみに沈む賢治とジェーンだったが、それまで黙っていたお互いに対する本音や秘密が明らかになり、二人の間に大きな溝が生じる」です。
わたしは真利子哲也監督作品を観るのは初めてなのですが、非常に落ち着かない印象を受けました。まず、登場する夫婦ですが、夫は廃墟の研究者、妻は人形劇の演者というだけで、かなり奇妙であり、マージナルな印象さえ受けます。しかも、冒頭のショットはかなり引いたものであり、観客はどこを観ていいのかわかりません。しかも、英語による男女の会話ははっきりと聞こえるのです。これは落ち着かないというか、かなりストレスフルな映画です。物語そのものも、どんどん不穏な方向に流れていきます。
ニューヨークに住む幸せそうな一家は、次々に災難に遭います。まずは、妻のジェーンが店番をしていた両親の店に強盗が押し入る。次に、ジェーンがスーパーで買い物をしている間に、駐車場に停めていた自動車が何者かによって大きく「BLANK」と落書きされる。そのスーパーでの買い物中、ジェーンが目を離した隙に息子のカイの姿が見えなくなる。必死に探すジェーンはカイを探しだし安堵するも束の間、その後、カイは本当に誘拐されてしまう。息子を誘拐した犯人を追う父の賢治は悪夢のような体験をする......とにかく陰気で不穏な物語が続くのです。
「Dear Stranger/ディア・ストレンジャー」には息が詰まるような閉塞感および救いようのない悪夢感がありますが、わたしは「この感じ、何かに似ているな」と思いました。そして、それが黒沢清監督の映画、それも一条真也の映画館「蛇の道」で紹介した2024年の作品を思い出しました。「蛇の道」は1998年に公開された同名映画を、黒沢清監督自らリメイクした復讐劇です。幼い娘の命を何者かに奪われた父親が、謎の精神科医の力を借りてリベンジを果たそうとします。8歳の娘を何者かに殺害された父親のアルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)は、娘を殺した犯人を突き止めて復讐を果たすことを望み、それを支えにして生きていました。精神科医の新島小夜子(柴咲コウ)と偶然出会い、彼女の協力を得たアルベールは、ある財団の関係者ら二人を拉致しますが、やがてある真相が明らかになるのでした。
幼い子がいなくなったときの不安は大きいです。それが母親ならば、なおさらでしょう。カイの姿が見えなくなって必死で息子を探すジェーンの姿を見て、わたしは一条真也の映画館「ミッシング」で紹介した日本映画を思い出しました。失踪した娘を捜す母親が焦りや怒り、夫婦間の溝、インターネット上での誹謗中傷などにより心をむしばまれていく物語です。沙織里(石原さとみ)の娘・美羽(有田麗未)が失踪して3か月。沙織里は世間が事件への関心を失っていくことに焦り、夫の豊(青木崇高)との間にも溝ができ、二人は言い争うことが増えていました。そんな中、美羽の失踪時に沙織里がアイドルのライブに行っていたことが露見し、彼女はインターネット上で誹謗中傷を受けるようになるのでした。
夫婦間の溝を描いた作品といえば、一条真也の映画館「ドライブ・マイ・カー」で紹介した村上春樹原作・濱口竜介監督の2021年公開の日本映画もそうでした。西島秀俊が主演ですが、最初は「Dear Stranger/ディア・ストレンジャー」も「ドライブ・マイ・カー」みたいな作品を予想していましたが、ちょっと違いましたね。でも、夫婦の心の距離の遠さを描いている点では、両作品は共通しています。また、人形劇ではありませんが、チェーホフの戯曲の舞台シーンが作品全体に非日常感を漂わせています。
映画「Dear Stranger/ディア・ストレンジャー」完成報告会見で、真利子監督は、西島秀俊について「ボロボロになるのが似合う」と述べ、そのオファー理由を明かすしました。確かに、「ドライブ・マイ・カー」にしろ、わたしの大好きな一条真也の映画館「サヨナライツカ」で紹介した2010年の中山美穂との共演映画でも、西島秀俊はボロボロになっています。でも、真利子監督は「西島さんは、こちらを信頼してすべて受け止めてくださり、本当に頼りがいのある方だと感じました」とも語っています。
一方、台湾人女優のルンメイについては「何事にも感謝の気持ちを持っていて、誰よりも懸命に取り組む方です。お芝居も普段の立ち居振る舞いも全く嘘がなく、物事に対する謙虚さを常に持っています。だからこそ、すべてを吸収して、想像以上の表現をしてくださる。そこから感じ取れる危うさのようなものもまた魅力的でした」と語るのでした。わたしも、ルンメイは魅力的だと思います。スクリーンで初めて見ましたが、一発でファンになりました!