No.1163


 11月20日、各種の打ち合わせの後、インド映画「KILL 超覚醒」をヒューマントラストシネマ有楽町で観ました。ネットでの評価はかなり低く、この日の劇場はわたしを含めて観客が5人でした。でも、格闘シーンの迫力が超弩級で、わたしはすごく面白かったです!
 
 ヤフーの「解説」には、「寝台列車を舞台に対テロ特殊部隊の隊員と強盗団が激突するアクション。親に結婚を決められて婚約式に向かう恋人を止めようと、彼女が乗る特急寝台列車に乗った対テロ特殊部隊の隊員が、列車内で強盗を働く一団に立ち向かう。監督はニキル・ナゲシュ・バート。ドラマ『ボリウッドをかき乱せ!』などのラクシャ、ドラマ『トゥース・フェアリー ~恋のヒト噛み~』などのターニャ・マニクタラのほか、ラガヴ・ジュヤル、アシーシュ・ヴィディアルティらが出演する」と書かれています。

 ヤフーの「あらすじ」は、「演習先にいた対テロ特殊部隊の隊員アムリト(ラクシャ)は、恋人のトゥリカ(ターニャ・マニクタラ)から、あるメッセージを受け取る。それは彼女が父親のタークル(ハーシュ・チャーヤ)に見合い相手を決められ、翌日に婚約式が行われるというものだった。アムリトは、部隊の同僚で親友のヴィレシュ(アブヒシェク・チョウハン)と共にトゥリカの乗る特急寝台列車に乗車し、彼女を見つけてプロポーズする。だが、列車内に紛れ込んでいた40人の強盗団が乗客たちを襲い始める」となっています。
 
 この映画、列車強盗の物語なのですが、わたしはまず「いつの時代の話だよ?」と思いましたね。ハイジャックでもシージャックでもなくて、列車強盗とは! それもブログ「新幹線大爆破」で紹介したような最新の情報機器を駆使しての頭脳戦といったものでもなく、単純に強盗団が大人数で列車に乗り込むという超アナログな犯罪。その人数がまた40人(!)というのですから、思わず「アリババと40人の盗賊」を連想してしまいました。この列車に主人公のアムリト(ラクシャ)が乗り込むわけですが、最初は強盗団に立ち向かおうなどとは考えず、求められるがままに大人しく財布を差しだしたりしていました。

 ところが、強盗団が恋人のトゥリカ(ターニャ・マニクタラ)に危害を加えられたときから、大人しかったアリㇺトは覚醒します。彼が覚醒(邦題は「超覚醒」)した時点で上映開始から約40分が経過していましたが、このとき初めてスクリーンに「KILL」というタイトルが大映しになります。そこから、アリムトの大暴れが始まりますが、なんといっても相手は40人。しかも狭い車内での戦いなので、1人1人相手に倒していくしかありません。相手も手強く、アリムトの戦闘能力を上回るような猛者もいました。それでも、覚醒したアリムトは血だらけになっても戦い続けます。

 この映画、狭い車内でのバトルシーンがリアルな描写で、格闘技フリークのわたしを喜ばせました。対テロ特殊部隊の隊員であるアリムトはもちろん強いのですが、相手も手強いです。狭い空間では、ハイキックとか関節技などはなかなか使えません。パンチやヒジやヒザでの攻撃、締め技などは使えまず。もちろんピストルやナイフの使い手は有利でしょうが、素手の格闘技でいえば、こういう場所ではボクシング、ムエタイ、空手、柔道・柔術の技などが有効かと思います。でも、最も実戦向きなのは相撲かもしれません。巨体の力士が張り手で暴れまわるのが一番強いのではないかと予想しました。それにしても、「鬼」のような強盗団を蹴散らすアリムトのことを誰かが「鬼神だ!」と言っていましたが、なるほど鬼を超える存在とは鬼神なのですね。
 
 興味深かったのは、強盗団がすべて一族から構成されており、40人がそれぞれ家族や親戚だったことです。アリムトが彼らの命を奪うたびに彼らはいちいち「叔父貴がやられた!」とか「親父が殺された!」「息子が死んでしまった!」とか大仰に泣き叫ぶのですが、自分たちは何人も罪のない人々を殺しておいて「それはないだろう」と思ってしまいました。とんだお角違いのグリーフですが、身内には情け深くて、外部には敵意剥き出しというのは困ったものです。でも、かつての西部劇でも、正義のガンマンから兄弟を撃たれたりすると、「兄貴が撃たれた!」とか「よくも弟を殺しやがったな!」などと悪党が錯乱していたシーンを思い出しました。意外と、ありがちな話かもしれませんね。

 最後に強盗団を退治したアリムトは瀕死の状態で列車の外に出ます。すると、彼の隣にはある死者が微笑んでいました。これはまだ息のあるアリムトが幽霊を見ているのか、それともアリムト自身が死者となってしまったのか......解釈が分かれるところです。巷のレビューでの評価は低めですが、わたしには大変面白い痛快娯楽映画でありました。ボリウッド映画の大作のようなダンスシーンこそありませんが、アクションシーンは超弩級。大いに堪能しました。「ジョン・ウィック」シリーズのチャド・スタエルスキ監督によるハリウッド・リメイクも決定しています。こんな作品も作れるとは、インド映画の底力は凄いですね。