No.1162
日本映画「港のひかり」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で鑑賞。いわゆる「お涙頂戴」というか、力づくで泣かせる古いタイプの日本映画という気もしましたが、舘ひろしの迫真の演技が素晴らしく、たまらず貰い泣きしました。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「年齢に差がある二人の男性の長年にわたる友情を描くヒューマンドラマ。北陸の港町を舞台に、裏社会で生きてきた男性と目の見えない少年の出会いと、数十年におよぶ彼らの絆を映し出す。監督などを務めるのは『正体』などの藤井道人。『終わった人』などの舘ひろし、『ブルーピリオド』などの眞栄田郷敦のほか、尾上眞秀、黒島結菜、斎藤工、椎名桔平らがキャストに名を連ねている」
ヤフーの「あらすじ」は、「今は漁師として生きる元ヤクザの三浦(舘ひろし)は、事故で視力を失った少年・幸太(尾上眞秀)を偶然見かける。交通事故で両親を亡くした幸太と三浦の間には次第に世代を超えた友情が芽生えるが、ある日三浦は幸太の目の手術費用を残して突然姿を消す。12年後、目が見えるようになり、警察官となった幸太(眞栄田郷敦)は、恩人の三浦の行方を捜していた」となっています。
この映画、なんといっても主演の舘ひろしが渋かったです。彼は現在75歳ですが、高身長でスタイルも姿勢も良く、大スターの貫禄があります。ブログ「第48回日本アカデミー賞授賞式」で彼を至近距離で見たことがありますが、そのオーラはハンパなかったです。舘ひろしといえば、「あぶない刑事」シリーズや一条真也の映画館「終わった人」で紹介した2018年の日本映画のようなコメディ・タッチのものも多いですが、やはりシリアスなヒューマンドラマが似合いますね。
前半の尾上眞秀が演じる幸太少年は、目が不自由なために同級生たちからいじめられたり、引き取られた叔母の家で虐待されます。そのシーンは見ていて、とても辛かったです。目に障害のある子どもがここまで酷い目に遭うというのもちょっとリアリティに欠ける気もしましたが、幸太の目の手術が成功し、成長して刑事となり、舘ひろし演じる三浦と再会したシーンは泣けました。そのとき三浦も泣き崩れるのですが、それを見て、わたしの涙腺はさらに崩壊しました。
幸太の両親は交通事故でともに亡くなり、彼は叔母の元に引き取られますが、この叔母がヒモのようなクズ男と同棲しており、幸太はクズ男から毎日暴力を振るわれます。その後、三浦の計らいで幸太は児童養護施設に入居することができました。その費用も、幸太の目の手術の費用も、すべて三浦が用意しました。わたしは三浦の漢気に涙し、自分も利他の精神で生きたいと思いました。昨年亡くなった父から相続された遺産などは、子どもの貧困問題のために使いたいです。
舘ひろしが元ヤクザ役ということで、この映画には暴力団が登場します。舘が演じる三浦が若頭を務めていた頃の河村組長(宇崎竜童)は覚醒剤を扱うことを禁じていました。河村は三浦を気に入っていましたが、一緒に釣りをしているとき、三浦に「生きるために必要なことは何だ?」と問います。三浦は「強さだと思います」と答えるのですが、「じゃあ、強さって何だ?」とさらに問われて答えられず、「わかりません」と言います。すると、河村は「強さっていうのは、他人のために命を張ることだよ」と語るのでした。この親分の言葉は、若き三浦の心に強い影響を与えたのでした。
三浦は人望もあり、次期組長と目されていました。しかし、河村の親心でヤクザの世界から足を洗ってカタギになります。新しい組長となった石崎は覚醒剤の取引を中心に悪どい所業を重ねました。石崎を演じた椎名桔平は北野誠監督の「アウトレイジ」(2010年)で大友組若頭の水野役を演じて以来のヤクザ役でした。石崎の右腕には八代という狂犬のような男がいますが、これをなんと斎藤工が演じています。八代は、これまで無数のヤクザ映画を作ってきた東映作品の中でも最低のクズでした。こんな役を一条真也の映画館「大きな家」で紹介した児童養護施設の子どもたちをテーマにしたドキュメンタリー映画を作った斎藤工が演じたことが信じられません。正直、こんなクズの役はやらないでほしかった!
石崎が組長となった後の組織は外道の極みでした。先代の河村の法要が行われることを知った三浦は寺に出向いて行きますが、石崎が「兄貴、この後、飲みましょうよ」と言って、無理やり三浦を誘います。しかし、自分たちは上座に座って、元兄貴分の三浦を下座どころかテーブルにも着かせずにソファーに座らせるなど無礼にもほどがありました。また、この組は親分に対して子分が「ご苦労様です」と言うのですが、これも礼に反しています。「ご苦労様」というのは上の者が部下に対して言う言葉であり、下の者からは「お疲れ様です」と言うべきです。そんなことも知らないチンピラ・ヤクザに「礼」や「仁義」を語る資格はありません。
三浦は親分だった河村の「強さとは、他人のために命を張ること」という教えを守って生きていきますが、それは「任侠」そのものの考え方です。任侠とは、単なるヤクザではありません。それは、もともと仁義を重んじ、弱きを助け強きを挫くために体を張る自己犠牲的精神や人の性質を指す言葉です。ヤクザ史研究家の藤田五郎氏によれば、正しい任侠精神とは正邪の分別と勧善懲悪にあるといいます。仁侠(じんきょう)、義侠心(ぎきょうしん)、侠気(きょうき)、男気(おとこぎ)などとも呼ばれます。そんな任侠の精神を描き続けてきた映画会社こそ東映でした。
元ヤクザを演じた舘ひろしですが、ヤクザの親分役をやったことがあります。一条真也の映画館「ヤクザと家族 The Family」で紹介した2021年の日本映画です。この作品も藤井道人監督がメガホンを取りました。1人のヤクザの生きざまを3つの時代に分けて描くヒューマンドラマです1999年、覚醒剤が原因で父親を亡くした山本賢治(綾野剛)は、柴咲組組長の柴咲博(舘ひろし)の危機を救ったことからヤクザの世界に足を踏み入れます。2005年、ヤクザとして名を挙げていく賢治は、自分と似た境遇で育った女性と出会い、家族を守るための決断をします。それから時は流れ、2019年、14年間の刑務所暮らしを終えた賢治だったが、柴咲組は暴力団対策法の影響で激変していたのでした。
それにしても、本作「港のひかり」は主演の舘ひろしをはじめ、なかなかの豪華キャストでしたね。幸太の少年期を演じた尾上眞秀は13歳の歌舞伎役者で、まさに前途有望です。青年期の幸太を演じた眞栄田郷敦はも、一条真也の映画館「ブルーピリオド」で紹介した日本映画で主演して以来の熱演でした。脇を固めた田辺智之役の市村正親、荒川定敏役の笹野高史、大森美和子役のMEGUMI、浅川あや役の黒島結菜、河村時雄役の宇崎竜童らもみんな良かったです。先述の石崎剛役の椎名桔平、矢代龍太郎役の斎藤工も意外ではありましたが、狂気のヤクザを熱演しました。他にも、ヤクザ役でピエール瀧、刑事役で一ノ瀬ワタルなども出演しており、「おいおい、ネトフリかよ!」と思ってしまいました笑
初日舞台挨拶で、「舘ひろしさんが渡哲也さんの姿にかぶって見えました」という感想に、舘は照れ笑いを浮かべると「自分ではあまり意識しているつもりはないのですが、僕の俳優人生は、渡さんにはじめて会ってから40数年、ずっと一緒でしたから。いつも渡さんを見ていたので、きっとどこか似てくるんでしょうね」と腑に落ちる部分があったと述べました。渡哲也には「仁義の墓場」(1975年)というヤクザ映画の大傑作があります。戦後の混乱期に、ヤクザ社会の中でもルールを無視して強烈に生きたひとりの男の物語です。昭和21年、新宿。ここではテキ屋系の4大勢力が縄張りを分け合っていた。河田組にいた石川力夫は仲間を伴い、"山東会"の賭場を襲い金を奪って逃走した。これをきっかけに石川たちと山東会の抗争が勃発。石川らは山東会をあっさり壊滅させてしまうのでした。
実在の人物をモデルに、渡哲也が狂気と暴力の男を鬼気迫る迫力で演じた「仁義の墓場」を、わたしは東映の歴史の中でも最高傑作だと思っています。有名な、妻の遺骨をかじりながら歩くシーンはあまりにも衝撃的でした。何を隠そう、わたしも「港のひかり」で舘が演じる三浦に渡の面影を感じました。舘は、「『西部警察』をやっていると渡さんだけが『ひろし、お前には華があるな』と言ってくれたんですね。その言葉だけを頼りに今もやっている感じです。そんなこと言ってくれる俳優、いませんでしたから。その後も渡さんはいつも作品を見てほめてくれました。いつも僕に自信をつけてくれるんです」と語っています。舘ひろしにとっての渡哲也は、きっと、わたしにとっての鎌田東二先生のような存在だったのでしょう。そんなことを思いました。


