No.1201



 1月17日、アメリカ・イギリス映画「ウォーフェア 戦地最前線」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。映画史上最もリアルな戦争映画と評判の作品ですが、本当に戦場にいるかのような臨場感で、凄まじい緊張感の連続でした。鑑賞中ずっと息を止めた状態が続き、95分間の上映が終了したとき、急に呼吸が楽になりました。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『シビル・ウォー アメリカ最後の日』などのアレックス・ガーランドとアメリカ軍特殊部隊の隊員の経歴を持つレイ・メンドーサが監督を務め、メンドーサ監督の実体験などを基にイラク戦争の実態を描いた戦争ドラマ。アルカイダ幹部の監視と狙撃の任務に就くアメリカ軍特殊部隊の小隊が、思いも寄らない事態に陥る。『地獄のサマーキャンプ』などのディファラオ・ウン=ア=タイ、『メイズ・ランナー』シリーズなどのウィル・ポールターらが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「2006年、イラク。通信兵メンドーサらアメリカ軍特殊部隊の小隊8名は、ラマディでアルカイダ幹部の監視と狙撃の任務に就いていたが、彼らの動きを察知したアルカイダ側に完全包囲されてしまう。激しい攻撃を受けて負傷者が続出し、メンドーサは救助を呼ぼうとするが本部との通信が閉ざされてしまう。パニックに陥った指揮官のエリックは部隊へ指示を出すことを放棄し、狙撃手エリオットは爆撃に巻き込まれて意識を失い、小隊は絶体絶命の状況に追い込まれる」
 
「ウォーフェア 戦地最前線」の共同監督の1人であるアレックス・ガーランドには、一条真也の映画館「シビル・ウォー アメリカ最後の日」で紹介した2024年のディストピア・アクション映画があります。舞台は、近未来のアメリカ。19の州が連邦政府から離脱する中、国内では大規模な分断が進み、カリフォルニア州とテキサス州が同盟を結んだ「西部勢力」と「政府軍」による内戦へと突入する。戦場カメラマンのリーをはじめとする4人のジャーナリストチームは、戦場と化した道をニューヨークから1000キロメートル以上も走り続け、大統領が立てこもるホワイトハウスがある首都・ワシントンD.C.へと向かうのでした。
 
「シビル・ウォー アメリカ最後の日」の戦闘シーンはリアリティ満点でした。まるで戦場にいるかのような感覚に囚われましたが、今回の「ウォーフェア 戦地最前線」はそれ以上の臨場感に包まれています。イラクのラマディで民家を占拠し、向かい側にいる敵を狙撃するべく狙いを定め続ける場面など、ものすごい緊張感で観ている方もれてしまいました。しかし、敵に気づかれてしまい、手榴弾を投げ込まれます。長い緊張と、突然の爆音の連続に、映画の観客であるわたしの心は完全に戦場にありました。ほとんどのシーンの撮影は、ロンドン郊外のスタジオで、ラマディの街並みを再現して行われたそうです。
 
 兵士役の俳優たちは見た目だけでなく、言動も兵士そのもの。25日間にわたる撮影の前に、3週間訓練を受け、通信や軍事用語、兵器の扱い、戦場での実践的動きを学んだといいます。強い絆で結ばれ、生死をともにする8名の精鋭部隊。戦闘の最中に指揮を放棄してしまう指揮官エリック役をウィル・ポールター、部隊を支える指揮役下士官サム役のジョセフ・クイン、砲手トミー役のキット・コナーのほか、狙撃手フランク役のテイラー・ジョン・スミス、通信係であり本作の監督でもあるレイ・メンドーサ役のディファラオ・ウン=ア=タイ、狙撃手であり、衛生兵でもあるエリオット役のコズモ・ジャーヴィス、航空支援のレラス役としてアダイン・ブラッドリーが登場。彼らは「傷(きず)」をともにする強い「絆(きずな)」を見事に表現しました。
 
 YouTubeには、敵兵に完全包囲されたアメリカ軍特殊部隊8名が、"全員生存での脱出"という不可能と思えるミッションを命じられる「脱出ミッション!特別動画」がアップされています。敵兵の先制攻撃を受け、市街地で突如、全面衝突へと突き落とされた部隊は、退路も救援もないという状況に陥りました。そんな彼らに突きつけられたのは「1:見えない敵の位置を把握せよ」、「2:指揮不能となった隊長に代わり、指揮を引き継げ」、「3:意識を失い瀕死の仲間を救え」、「4:手段は問わない95分で脱出せよ」というミッションでした。いずれも極限状態では想像を絶する困難を伴う任務です。動画には、脳震盪を起こし、救援の望みが断たれ、血と噴煙がた立ち昇る戦場でも、なお立ち向かい遂行しようとする隊員たちの姿が登場します。
 
 また、YouTubeには、"ミリタリー識者も驚く究極までリアルなポイント"を切り口に本作の魅力を掘り下げる解説映像もアップされています。まず、戦闘機の爆音が轟く威嚇飛行をはじめ、人が感じる「反響音」を巧みに利用した音響表現を捉えたシーンを紹介。映画館のスピーカーで体験すると、聴覚にとどまらず皮膚感覚にまで訴えかけます。続いて、銃撃戦の緊張感が生々しく伝わってくるシーンが登場。飛び去る銃弾、迫り来る銃弾、さらにはマズルフラッシュ(発砲時に銃口から放たれる光)の後にわずかに遅れて銃声が届くという現実の現象も忠実に再現。さらには、冷戦時代に13台しか製造されなかった激レア戦車であるイギリス陸軍のFV43を"ブラッドレイ"風に改造した車両紹介もされています。狙撃兵のスコープに映る人物のサイズ感や兵士たちが実際に使用していた私物を含め、装備の95%以上は当時のものを再現している点など、"本物を徹底的に追及"したディテールには本当に驚くばかりです。
 
 ラマディはアルカイダ武装勢力の拠点と目されてきた場所です。危険人物を見つけ出し、必要とあらば掃討することが、アメリカ軍特殊部隊の小隊8名の役割でした。怪しい動きを見せる者がちらほらいるものの、しばらく何も起こりません。「このまま何も起こらないのかも?」と観客が油断した頃に、状況は大きく動き出します。不意に敵から先手を打たれ、手榴弾が爆発、敵陣からの銃声が響き、叫び声と血と煙に包まれた四面楚歌の状況に追い込まれます。何とか脱出しなければならないのですが、事は思うように運びません。本作でガーランドとともに監督を務めたメンドーサは、海軍退役後、ハリウッド映画の軍事アドバイザーなどとして活躍した人物です。ガーランドが監督した「シビル・ウォー アメリカ最後の日」でスタントコーディネイターを務め、本作では共同監督となりました。脚本は、メンドーサとその戦友たちの記憶に基づいており、脚色や装飾は施されていません。
『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』
 
 
「ウォーフェア 戦地最前線」では、アメリカ特殊部隊の存在を知って騒然となり、「全イスラム教徒に告ぐ。アメリカ兵を殺すべし!」と街中に放送されるシーンが出てきます。また、「ジハード」という言葉も聞こえます。ジハードはしばしば「聖戦」と訳されます。その概念はしばしば誤解されており、テロリズムと混同する人もいれば、軍事紛争のみに矮小化する人もいれば、その軍事的側面を全く軽視する人もいます。しかし、拙著『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』(だいわ文庫)にも書きましたが、イスラム教の聖典である『コーラン』によれば、ジハードは平和的な闘争と、必要に応じて武装抵抗の両方を包含する、より微妙な概念であることがわかります。イスラム教は平和主義の宗教ではなく、自己防衛など特定の状況での正当な暴力は許容しますが、人々の信仰に基づく不当な暴力は許容しません。
 
『コーラン』と預言者の教えは、ときに文脈を無視して解釈され、イスラム教は非イスラム教徒に対して本質的に暴力的だと描写されることがあります。しかし、本来は信者に宗教的信念のみに基づいて戦うことを教えるものではありません。正当な暴力と不当な暴力を区別し、暴力が必要または正当化される場合のニュアンスを理解する必要があります。「ウォーフェア 戦地最前線」はもちろんアメリカ側の視点のみで描かれていますが、日本人観客であるわたしはイラク側の視点も想像してみました。アメリカ軍にわが家を破壊されていく住人たちの絶望の表情が目に焼き付いています。
 
 米兵たちが任務から離れるまでの間は、途切れることのない緊迫感とスリルにくぎ付けにさせられる映画ですが、すべてが終わった後に残るのはアクション映画にありがちの爽快感などありません。家だけでなく日常を破壊されたイラク人家族の悲しみ。幼い少女たちに残るであろう強烈なトラウマ。終幕に聞こえてくるイラク人家族の悲痛な叫びはこの映画が「グリーフ」映画でもあるということを示していました。そして、そこに「ケア」は存在しません。「戦争とは死者とグリーフの発生装置であり、グリーフケアこそは究極の平和思想である」というわが持論を思い出しました。