No.1252


 5月24日、この日から公開されたドイツ・フランス・マレーシア・日本の合作映画「LOST LAND/ロストランド」をユナイテッドシネマなかま16で観ました。全編を通じて、とにかく「やりきれなさ」を感じる作品でした。
 
 ヤフーの「解説」には、「故郷を追われたロヒンギャ難民の幼い姉弟が、命懸けで国境を越えようとする姿を捉えたヒューマンドラマ。家族との再会を夢見て難民キャンプを出た姉弟が、過酷な状況下でマレーシア移住を目指す。『僕の帰る場所』『海辺の彼女たち』などの藤元明緒が監督などを務め、俳優の河合優実が予告編ナレーションを担当する。200人のロヒンギャ難民が出演している」と書かれています。
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「イスラム系少数民族であるロヒンギャの9歳のソミーラと5歳のシャフィ姉弟は、難民キャンプで暮らしていた。家族と再会を果たすため、二人は叔母と共にはるか遠くのマレーシアへと旅立つ。その後パスポートを持っていない彼らは密航業者に言われるままに漁船に乗せられ、厳しい自然環境や人身売買の危機にさらされながらも前進する」
 
 この映画を観終わった後にまず感じたのは「やりきれなさ」でした。大きな起伏があるわけではなく、どちらかというと淡々とした作品でしたが、逆にそれがこのような不条理な出来事が日常的に起こっていることだと伝えているように感じました。9歳のソミーラと5歳のシャフィ姉弟は、とにかく喪失体験の連続でした。今まで住んでいた家の喪失、安全の喪失、家族の喪失・・・・・・それらを失うことは自らのアイデンティティの喪失になっていくのでしょう。これだけ重くて多くのグリーフが小さな子どもたちに容赦なく襲ってくることが、本当にやりきれない思いでした。
 
 この映画はドキュメンタリーではなく、ドラマです。
ですから、子どもたちは演技をしているわけですが、そのレベルの高さに驚きます。姉の表情が弟と遊ぶとき以外は無表情であったことに気づきました。彼女の表情が過酷さをより感じさせました。幼い姉弟を放ってはおけないと同じく密出国する同胞のところに連れてくる男性や、最後に弟を引き取ろうとする女性に同胞としての、そして人間としての温かさを感じたことは唯一の救いでした。しかしながら、最後に弟が1人でかくれんぼをするシーンは深い悲しみを感じさせ、やりきれない気持ちが深まっていきました。

 お腹を空かせた弟のために、姉が必死で食べ物を調達しようとする姿は涙を誘いました。わたしはもともと、子どもが空腹であるという現実が耐えられません。それで、ささやかな挑戦として「子ども食堂」なども手掛けてきました。物乞いをしたり、残飯を漁ったり、さらには畑の作物を奪ってでも必死に生きようとする幼い姉弟を見ると、日本人なら誰でもアニメ映画「火垂るの墓」(1988年)を連想するのではないでしょうか。昭和20年、神戸。14歳の少年と4歳の妹は、空襲で母が入院することになり、叔母のもとに身を寄せます。やがて母が死ぬと、叔母は兄妹を邪険に扱うようになり、2人は家を出ることにする。誰もいない防空壕で、新たな生活を始める子供たち。しかし、そこには厳しい現実が待っていたのでした。
 
 この映画に登場する難民は、ロヒンギャです。彼らは、ミャンマー西部のラカイン州を主な拠点としてきたイスラム教徒の少数民族です。長年の迫害と武装衝突によりミャンマーから逃れ、バングラデシュをはじめとする周辺国や日本などで避難生活を送る人々です。2017年の大規模な弾圧以降、100万人以上がバングラデシュの難民キャンプで過酷な生活を強いられており、その多くは「無国籍」の状態にあります。ミャンマー政府から国籍を認められておらず(無国籍)、移動や教育、就労などの人権が制限されています。91万人以上が過密な難民キャンプで生活しており、支援の縮小や治安の悪化が深刻な問題となっています。

 2021年の軍事クーデター後、ミャンマー国内の治安がさらに悪化し、帰還の目途が立たない状況が続いています。また、危険な海路でマレーシアやインドネシアへ脱出するケースも増加しており、多くの死者・行方不明者が出ています。支援金の削減により、難民キャンプ内では重度の栄養不良に陥る子どもが急増しています。7年以上続くキャンプ生活で、教育や働く機会が限られ、将来の展望が見えない「失われた世代」の教育が課題です。故郷を追われた経験による精神的なトラウマを抱える人々が多く、心のケアが必要とされています。日本には約300人のロヒンギャが生活していると推定されており、その多くが関東周辺に居住しています。
父の葬儀に参列したミャンマー大使と僧侶たち



 わたしは昔からミャンマーと縁がありましたので、ロヒンギャ問題のこともよく知っていました。わが社は北九州市にある日本唯一のミャンマー式寺院「世界平和パゴダ」の運営支援を長年続けており、2024年9月20日に逝去した父・佐久間進は宗教法人世界平和パゴダ奉賛会の会長を務め、没後にはミャンマー政府から勲章を授与されました。父も、わたしも、何度もミャンマーを訪れましたが、ロヒンギャ難民の惨状には心を痛めていました。わたしには『ミャンマー仏教を語る』(現代書林)などの著書があるほど、ミャンマー仏教とは関りが深いのですが、ロヒンギャはイスラム教徒なので、なかなか支援が難しい点があります。ミャンマー政府から亡父が勲章を授与されました

 
 
 日本で難民認定されたロヒンギャはこれまで非常に少数(19人程度)であり、認定の厳しさが指摘されています。日本のNGOや医療チームが現地キャンプでの学校運営や医療・心のケア、緊急募金などを実施しています。世界最大の人道危機とも言われるこの状況に対し、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)や各NGOが「食料や安全な水の供給」「避難シェルターの提供」「子どもたちのための教育と心のケア」「移動診療所による医療支援」などの支援を継続しています。ロヒンギャ難民に対する国際社会からの長期的な関心と人道支援が求められているわけですが、本作「LOST LAND/ロストランド」のような映画が作られ、多くの人々が鑑賞すれば何かが変わるのではと思うのは甘いでしょうか? わたしは、「映画で世界を変える」ことは可能であると思っているのですが・・・・・・。