No.1255


 ゴールデンウィークの終わりに、NETFLIX映画「This is I」を鑑賞。ブログ「地獄に堕ちるわよ」で紹介したNETFLIXドラマが大きな話題を呼んでいますが、ネトフリの映画も観てみたいと思って選んだのが本作でした。しみじみと感動しました。松田聖子のヒット曲をはじめ、昭和歌謡の名曲が多く流れるのも嬉しいですが、ラストに流れた渡辺美里「My Revolution」が最高!
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「[Netflix作品]タレントのはるな愛が本当の自分を探し求めていた少年時代の日々と、はるなとの出会いをきっかけに性別違和に向き合った医師の実話を基にしたヒューマンドラマ。アイドルになりたい夢を持つ少年と一人の医師が出会い、苦悩を抱えながらも性別適合手術を行うことを決断する。出演ははるな役にオーディションで選ばれた望月春希、医師役に『零落』などの斎藤工ら。元放送作家で『極悪女王』などの企画に携わってきた鈴木おさむが企画を担当し、監督を『Winny』などの松本優作が務める」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、「アイドルになりたいという夢を持つ大西賢示(望月春希)は、自分らしさとは何かに悩んでいた。一方、過去に患者を救えなかったことを後悔し続けていた医師の和田耕治(斎藤工)は、賢示と出会い、性別違和の人の苦悩に真剣に向き合ったことで、賢示のために性別適合手術を行うことを決意する」となっています。
 
 はるな愛は、1972年(昭和47年)生まれのニューハーフタレント・歌手・俳優・実業家・YouTuber。本名は大西賢示。そして、トランスジェンダー当事者(MtF)です。その半生を描いた「This is I」は期待を裏切らない傑作でした。これまで、ネトフリのオリジナルドラマでは村西とおる、ダンプ松本、細木数子といった実在の人物を描いて大ヒットを飛ばしてきました。本作はドラマではなく映画ですが、基本的にはその流れの中にあります。ネトフリが人生を描く主人公たちは社会的にはアウトサイダーかもしれませんが、そのバイタリティは人間離れしています。
 
 村西とおるはAV監督、ダンプ松本は女子プロレスラー、そして細木数子は占い師です。はるな愛はニューハーフタレントですが、トランスジェンダー当事者でもあります。当然ながら、本作はLGBTQが主要テーマとなります。正直に告白すると、わたしはLGBTQをテーマにした映画があまり好きではありません。LGBTQそのものは理解しているつもりですが、映画では無理やりにラストのオチをLGBTQに持っていく作品が多く、それまでに描いてきたさまざまなテーマが薄れてしまうことが多いからです。でも、本作「This is I」の場合は最初から内容が予想できましたし、「世間から何と言われても自分らしく生きる」というメッセージが素直に入ってきました。
 
 主人公・はるな愛を演じた望月春希は良かったです。彼女はまだ18歳だそうですが、ネトフリの新人発掘力は凄いですね。東宝に匹敵すると思います。公開された特別映像では、無名の新人だった望月が、演技レッスンやワークショップを重ね現場の中心へと成長し、プロフェッショナルたちを唸らせていく様子が収められている。共演した斎藤工は、「お世辞でも大げさでもなく、このプロジェクト自体、太陽のように望月さんがいてくれることが全て」と断言。「彼に反射することで役ができた」と絶賛しています。さらに、はるな愛本人も「私に似ている部分がいっぱいあるけれど、想いもバックグラウンドも(私より)すごく大きく感じる。みんな望月ちゃんの笑顔が頼り」とその精神的な強さを称賛。
 
 しかし、「This is I」に登場する俳優陣では、何と言っても斎藤工が最高に素晴らしかったです。わたしは彼の大ファンで、俳優としてもですが、監督としてもリスペクトしています。ブログ「タキシードを着て、映画とグリーフケアを語る」で紹介したように、ご本人に一度お会いして映画談義をしましたが、その映画作りに対する真摯な姿勢に頭が下がりました。一条真也の映画館「大きな家」で紹介した齋藤工監督の作品は最高の感動を与えてくれました。同作は児童養護施設の子どもたちを描いたドキュメンタリー映画ですが、はるな愛も児童福祉に多大な関心を寄せており、現在、子ども食堂を4軒も運営しているそうです。これは売名行為などでは絶対にできませんし、そもその「はるな愛」の名前を一切隠して食堂経営ているとか
 
 頭が下がりますね。 斎藤工が演じたのは、和田耕治医師です。1953年(昭和28年)に宮崎県延岡市に生まれ、2007年(平成19年)に亡くなりました。性転換(性別適合)手術の専門医で、大阪市北区の美容・形成外科「わだ形成クリニック」の院長を務めました。1997年5月に日本精神神経学会が「性同一性障害の診断と治療に関する指針」(ガイドライン)を策定した後も、ガイドラインに束縛されることなく、患者の希望に沿い性転換(性別適合)手術を行いました。その手術数は、ガイドラインに則して国内の医療機関で行われた手術数をはるかに上回りました。映画「This is I」の最後には、「和田耕治医師は性別違和に悩む多くの人々に寄り添い、尽力的かつ安価に性別適合手術を行った。生涯で、その手術数は600を超えた」というクレジットが流れます。
 
 和田医師は学界や社会からは異端視されましたが、この映画によって名誉回復がなされたように思います。日本では1960年代のブルーボーイ事件の裁判以降、医師による性別適合手術の執刀は違法と見なされるようにされてしまったのですが、しかし、身体も自身の望む性別にしたいと願うトランスウーマンはたくさん存在しました。和田医師は、そんな人々のために安価で手術を引き受けはじめました。実は、そのきっかけとなったのが、はるな愛その人だったのです。はるなが大阪のショーパブで働いていた頃、和田医師が病院のスタッフと共に打ち上げに訪れたのが最初の出会いでした。当時はるなは性別適合手術を行っておらず、美容外科の先生と聞き、手術を要望した。この映画を観れば、「なぜ、和田医師は逮捕の危険を冒してまで手術を決意したのか?」「はるな愛は、和田医師にとってどんな存在だったのか?」という核心部分がよくわかります。
 
 2007年5月、和田医師は自分のクリニックで寝泊まりを常態としていましたが、出勤した看護師が病室で倒れている和田医師を発見。死因は麻酔薬物の摂取による事故かと思われましたが致死量の証拠不十分でした。検視が行われ不眠症による過労死と死体検案書が出さましれた。葬儀は親族と関係者のみの密葬にて執り行われました。はるなは、後に「(和田医師が)『僕の自己責任で手術をしてあげる』と了解してくれたときは、感激しました。私が先生の第1号で、お店の後輩が2号、3号と続いています。先生はよく『君が僕の人生の始まりだよ。君に引っ張られたようなもんやわ』と冗談っぽく言ってました。それをずっと嬉しく思ってましたが、亡くなったと聞いて『ごめんなさい』と思いました。やっとこれから恩返しできると思っていた矢先だったのに・・・・・・」と振り返っています。
 
 生前の和田医師は「法律や社会が許さないといっても、そんなものは無視してよい・たとえ罰せられても医師としての覚悟の上だ・国や法律ができる前から医療は存在してるんだというのが私の信念です」と語っています。和田医師の突然の訃報を聞き、クリニックが入居するビルの管理室には、「お花を供えたい」と訪ねるニューハーフの姿がしばらく絶えなかったそうです。映画「This is I」のラストでは、海が見える場所に建てられた和田医師のお墓の前で、はるな愛をはじめとした多くのニューハーフたちが渡辺美里の「My Revolution」を歌って踊ります。それは、彼女たちによる和田医師への供養そのものでした。はるな愛によれば、「This is I」を観終わって、はるなの家族と和田医師の遺族が抱き合って泣いたそうです。それを聴いて、わたしは非常に感動しました。そして、「映画は、愛する人を亡くした人への贈り物」という持論を噛みしめました。
 
「PRIDE JAPAN」の「はるな愛が愛として生きられるようにしてくれた医師の真実が明かされる――関西らしい笑いあり涙ありの名作"アイドル"映画『This is I』」という記事で、映画ジャーナリストの後藤純一氏は、本作について「自分は女性なのに間違って男の体に生まれてきてしまったから、何とかこの邪魔なものを取りたい、体もちゃんと女になって男に愛されたい、という切実な願いは太古の昔から変わらずにあったわけですし、(和田先生がおっしゃっていたように)医療というものも国や法律ができるずっと前から存在していました。普遍的な人類の営みです。であれば、女性が女性として生きられるよう、切実な願いに寄り添い、医療行為を行うことに一体どんな不正義があるというのか?(国が規制することこそ問題だ)と、この作品は問いかけています」と書いています。まったく同感です!
 
 また、後藤氏は「誰もが観て理解できて楽しめるようなベタで庶民的な作品でありながら、トランス女性の実存に寄り添い、彼女たちの喜びや悲しみを生き生きと描き、そして、性別適合手術をめぐる日本社会の差別や体制の問題をもわかりやすく伝えています。スゴいことです」と本作の魅力を訴えていますが、これも同感です。わたしは企業経営者であり、作家でもありますが、どちらも「フツー」ではないので、変人のように思われることがあります。しかし、本作で斎藤工演じる和田医師が「変というのはまったく理解者がいないということで、1人でも理解者がいればもう変じゃないと思うんだ」という言葉に救われた気がしました。救われたというのは大袈裟かもしれませんが、少なくともわたしのハートに大いにヒットしました。これからも、自分らしく生きていきたいと思います。最後に、本作を観たきっかけが、日本のお笑い芸人でYouTuberの大島育宙氏による動画だったことを告白します。大島氏は、本作を「これNetflixオリジナル史上最高傑作じゃない?」と絶賛しています。