No.1280
6月6日、スペイン・フランス合作映画「シラート」をユナイテッドシネマなかま16で観ました。「なんだ、これは!?」と岡本太郎みたいに目をひん剥きたくなるような、とんでもない映画でしたいやあ本当に、とんでもなかったです! こんな映画、他に観た記憶がありません。
ヤフーの「解説」には、「レイブパーティーに参加したまま失踪したある女性を捜す家族を描くミステリー。行方が分からなくなった娘を見つけようと、彼女の父親と弟が砂漠で行われるレイブパーティーの会場へ向かう。『ファイアー・ウィル・カム』などのオリベル・ラシェが監督などを手掛け、『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』などのペドロ・アルモドバルが製作を担当する。『ハリー、見知らぬ友人』などのセルジ・ロペスのほか、ブルーノ・ヌニェス・アルホナ、リシャール・ベラミらがキャストに名を連ねる」とあります。
ヤフーの「あらすじ」は、「ある女性が砂漠で行われたレイブパーティーに参加したまま行方不明になる。彼女を捜すため、その父親ルイスと息子のエステバンはモロッコの山岳地帯から砂漠へと車を走らせる。やがて彼らは混沌とした野外レイブの場所にたどり着くが、そこに女性の姿はすでになく、ルイスらは次の会場へと向かう」となっています。
本作の冒頭には、モロッコの砂漠で開催されるレイブパーティーが登場します。DJが流す電子音楽(テクノ、トランスなど)のダンスミュージックに合わせ、一晩中踊り続ける大規模な音楽イベントやパーティーのことです。一般的なクラブイベントのように毎週同じ場所で開催されるものとは異なり、野外、巨大な特設会場、倉庫といった特別な場所で単発、あるいは年に1回などの頻度で開催されるのが特徴です。スペインのイビサ島やタイのパンガン島のフルムーンパーティー、インド・ゴアの「サイケデリックトランス(ゴアトランス)」などが"世界三大会場"として有名です。
レイブの開催場所は、森林、ビーチ、廃倉庫、スタジアムなど、解放感のある非日常的空間が多く選ばれます。砂漠で開かれるというのは初めて知りました。流れる音楽ジャンルは、テクノ、ハウス、トランス、サイケデリックトランス、ドラムンベースなど、テンポが速く中毒性の高い電子音楽が中心です。夕方や夜からスタートし、翌朝(あるいは数日)までノンストップで続くことが珍しくありません。レイブカルチャーには PLUR(Peace:平和、Love:愛、Unity:団結、Respect:尊重)という精神が根底にあり、人種や性別を問わず誰もが受け入れられる空間を目指しているそうです。これはニューエイジ、さらに言えばヒッピー文化の流れですね。
レイブパーティーが誕生したのは、1980年代後半のイギリスです。「セカンド・サマー・オブ・ラブ」と呼ばれるムーブメントをきっかけに、若者文化として爆発的に普及しました。当時は警察の取り締まりを避けるため、場所が直前まで明かされないシークレットな違法パーティーも多く存在しました。現在では、「Tomorrowland」や「EDC(Electric Daisy Carnival)」のように、数万人から数十万人を動員する巨大な合法の商業音楽フェスティバルへと発展・洗練されています。一方で、現在でも本来の自由な雰囲気を残した「アンダーグラウンド・レイブ」が世界各地のコミュニティでひそかに開催されているそうです。映画「シラート」の冒頭に登場するのは、まさにアンダーグラウンド・レイブです。
このレイブパーティーのシーンは、200人以上のレイバーを集めて撮影したそうで、圧巻です。本作にはレイブパーティーで行方不明になった娘を探す父親ルイスが登場します。ルイスはレイバーたちに娘の写真を見せて、「この子を知らないか?」と片っ端から訊いて回るのですが、みな「知らない」と答えます。そのうち、「次のパーティーがやはり砂漠で開催されるから、そこに来るかも」という情報を得て、ルイスは息子のエステバンと一緒にオンボロ車で砂漠を走るのでした。そこで次々にとんでもない出来事が起こるのですが、ネタバレになるので、これ以上は書けません。
映画評論家の町山智浩氏が本作はサスペンス映画の金字塔である「恐怖の報酬」を彷彿とさせるとYouTube番組「たまむすび」で語っていましたが、わたしも同感です。「恐怖の報酬」は1953年のイタリア・フランス映画で、監督はアンリ・ジョルジョ・クルーゾーです。南米の油田で発生した大火災を消火するため、ニトログリセリンをトラックで運ぶ4人の男を描いた物語です。中盤からクライマックス、次々と襲いかかるトラブルをとてつもないサスペンスで描き出したクルーゾーの演出はそれだけでなく、男たちの人物描写にも最大限の効果を発揮し、吹きだまりに生きる男たちが一攫千金を夢見て危険な仕事に挑むという図式を克明に映し出しています。この名作は、ウィリアム・フリードキンによって1977年にリメイクされました。
本作の終盤近くで、砂漠に2個の巨大スピーカーを立て、即興のレイブパーティーを開くシーンがあります。ある出来事から深い悲嘆を抱いた者のために開いたグリーフケアとしてのパーティーでしたが、そこで重低音の電子音楽に合わせて、片足の男や片腕の男が身体を揺らします。他のレイバーたちも踊り、一緒にルイスも踊ります。そこでの人々の恍惚とした表情を見ていると、「これは大変な映画だな」と思いました。しかし、その先に"とんでもない"事態が発生します。タイトルの「シラート」とは『コーラン』に登場する天国と地獄を結ぶ橋ですが、糸のように細く、剣のように鋭いそうです。その「シラート」がまさに現実に出現したのでした。最後はなぜか第三次世界大戦まで勃発し、緊迫感がハンパありません。とにかく、前代未聞の凄い映画でした!


