No.1299
NETFLIXが2017年に製作したアメリカのホラー映画「1922」を観ました。一条真也の映画館「ロングウォーク」で紹介した作品と同じく、スティーヴン・キングの小説が原作です。ネットでの評価はあまり高くありませんが、キングには珍しいシンプルな怪異譚で面白かったです。
映画「1922」は、スティーヴン・キングの同名中編小説を実写映画化し、妻を殺した男の苦悩と破滅を描いたサスペンススリラーです。初老の男ウィルはホテルの一室で、過去に犯した妻殺しの顛末を書き記していきます。監督・脚本は、ザック・ヒルディッチ。主演は「パニッシャー」(2004年)、「ミスト」(2007年)のトーマス・ジェーン。NETFLIXで2017年10月20日より配信。
映画.comの「あらすじ」は、以下の通りです。
「1922年。ウィルは妻アルレットや14歳の息子ヘンリーと農場を営んでいた。しかし田舎暮らしを嫌うアルレットは、自身が権利を持つ農場の土地を売り払って都会に引っ越したいと言い出す。農場を離れたくないウィルは、強引に土地を売り出そうとするアルレットの殺害を決意。同じく都会行きを嫌がるヘンリーを説得して片棒を担がせ、計画を実行に移すが・・・・・・」
1930年頃のこと。とあるホテルの一室で初老の男ウィルフレッド(トーマス・ジェーン)がペンを取り、過去に自らが犯した罪について書き記しているところから物語は始まります。遡ること数年前の1922年、ウィルフレッドは妻アルレット(モリー・パーカー)と14歳の息子ヘンリー(ディラン・シュミット)とネブラスカ州の片田舎で広大な農場を経営していました。だが、田舎が嫌で都会暮らしに憧れていたアルレットは、自分が権利を持っている農場と家を売って都会に行くと言い出します。
しかし、ウィルフレッドはこの地を離れる気はなく、また隣の家の娘シャノン(ケイトリン・バーナード)と恋愛していたヘンリーも、やはり離れる気はありませんでした。ウィルフレッドはヘンリーを引き込み、2人でアルレットを殺害、死体を井戸に棄て、彼女が失踪したかのように偽装工作を行います。しかし、次第に罪の意識に耐えられなくなった2人は精神的にも肉体的にも追い詰められていき、やがて破滅の時を迎えるのでした。
この映画には、主人公ウィルフレッドが殺した妻アルレットの幽霊が登場します。その意味では立派なホラー映画なのですが、これはウィルフレッドの妄想という見方もでき、そうなるとサスペンス映画あるいはスリラー映画ということになります。殺人などの重大な罪を犯した者が抱える激しい罪の意識や「良心の呵責」は、心理学や脳科学において、被害者の幻覚や幻聴(幽霊の知覚)を引き起こす原因となり得るとされています。刑務所内で自分が殺した犠牲者の幽霊を見て、精神錯乱を起こす受刑者(加害者)もいるそうです。
ウィルフレッドが見た妻の幽霊
強いストレスやトラウマ、自責の念は、脳の情報処理にエラーを起こしやすくします。その結果、抑圧された記憶や感情が「現実のもの」として切り離されて知覚されることがあります。脳の機能と知覚の変容としては、脳の視覚・聴覚をつかさどる領域の機能異常や、脳内物質(ドーパミンなど)のバランスの乱れにより、実際に存在しない人物が見えたり声が聞こえたりします。つまり幽霊現象を体験するわけですが、これらは「幻覚の脳科学」として医学的に解明されています。
「恋する強盗」のヘンリーとシャノン
ウィルフレッドの息子であるヘンリーは、14歳にしてガールフレンドのシャノンを妊娠させてしまいます。シャノンが修道院に入れられ、生まれた赤ん坊は養子に出されると知ったヘンリーは家出して、修道院からシャノンを連れ出します。その後、彼らは「恋する強盗」と称して罪を重ねながら逃げ続けますが、わたしは「俺たちに明日はない」(1967年)のボニーとクライドを連想しました。彼らはアメリカ中西部に実在した男女二人組の強盗ですが、「1922」の舞台であるネブラスカも中西部なので、非常にイメージが重なりますね。おそらくは、原作者のスティーヴン・キングも意識していたと思います。
ボニーとクライドは、大恐慌時代のアメリカ30年代に実在しましたが、彼らの凄絶な生きざまを描いた映画が「俺たちに明日はない」です。アメリカン・ニューシネマの先駆け的作品として知られます。ケチな自動車泥棒だったクライドは、気の強いウェイトレスの娘ボニーと運命的に出会い、コンビを組んで強盗をやりはじめます。2人は順調に犯行を重ねていきますが、最後はマシンガンで蜂の巣にされるのでした。このとき、ボニーは23歳、クライドは25歳でしたので、ヘンリーとシャノンの2人のおよそ10歳年上ですね。ヘンリーとシャノンがあと10年生きたら、ボニーとクラウドのようになったかもしれません。
「1922」を観て、連想した映画は他にもあります。本作にはわたしの大嫌いなネズミがたくさん登場するのですが、「ウイラード」(1971年)を思い出しました。小動物の突然の集団異変による恐怖を描いた作品で、ネズミの大群が現われ、次々と殺人を犯していくというスリラーとなっています。製作総指揮はチャールズ・A・プラット、監督はダニエル・マン、スティーブン・ギルバートの小説「ネズミ男の手帖」をギルバート・A・ラルストンが脚色。主人公ウィラードは、「いちご白書」(1970年)のブルース・デイヴィソンが演じました。「ウイラード」は1974年7月10日に日本テレビ系の「水曜ロードショー」で放映されたのですが、当時11歳だったわたしはトラウマ級の恐怖を味わいました。さらにネズミが大嫌いになりました。
「ウイラード」の続編が「ベン」(1972年)です。ウイラードの死体が家で発見された。状況から、ネズミに襲われて死んだものと判断され、続いてパトロール中の警官が襲われました。その頃、ウイラードの家のすぐ近所に住んでいるダニー(リー・ハーコート・モンゴメリー)という少年が、家に入ってきた1匹の黒いネズミと出会っていました。病弱で友達がいないダニーにとって、そのネズミはかけがえのない親友となりましたが、やがてダニーは、そのネズミが、警察から追われているベンであると知るのでした。前作の大量のネズミが殺人を犯すという物語から内容が大幅に変更され、少年とネズミの友情をテーマにした構成になりました。エンディングで流れるマイケル・ジャクソンの「ベンのテーマ」は、アメリカ本国及び日本でもヒットしました。
最後にタイトルの「1922」についてですが、1922年はまさに激動の年でした。日本では、2月11日にグリコ(菓子)発売。22日、江崎グリコ設立。3月3日、全国水平社創立。4月2日、日本初の週刊誌「サンデー毎日」創刊。7月15日、日本共産党結成。11月1日、第1回ラグビー早慶戦開催。世界では、11月1日、トルコ革命。4日、ハワード・カーターらがツタンカーメン王の墓を発見。11日、チリでマグニチュード8.5の大地震。14日、イギリス放送会社(後のBBC)がラジオ放送を開始。そして12月30日には、ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)が誕生しています。このように物語の時代背景を知れば、映画がさらに興味深くなりますね。


