No.1301


 7月2日、グリーフケア委員会の会議を終えた後、アメリカ映画「エレノアってグレイト。」をシネスイッチ銀座で鑑賞。女優スカーレット・ヨハンソンの初監督作品ですが、グリーフケアの名作でした。残念ながら10月25日で閉館が決まった同館で、じっくりと感動を味わいました。
 
 ヤフーの「解説」には、「『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』などの俳優スカーレット・ヨハンソンが監督などを務めたヒューマンドラマ。ヨハンソン監督と彼女の家族のルーツであるユダヤカルチャーをベースに、一つのうそをきっかけに出会ったある高齢の女性とジャーナリスト志望の学生との友情を描く。『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』などのジューン・スキッブ、『28年後・・・白骨の神殿』などのエリン・ケリーマンのほか、ジェシカ・ヘクト、キウェテル・イジョフォーらが出演する」とあります。

 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「長い間共に暮らした親友のベッシー(リタ・ゾーハー)を亡くしたエレノア(ジューン・スキッブ)は、胸に穴が空いたような気がしていた。ある日、ホロコースト生存者の自助グループの会に偶然参加した彼女は、ホロコーストを生き抜いた亡き親友ベッシーの体験を自分が体験したかのように語ってしまう。ジャーナリスト志望の学生ニナ(エリン・ケリーマン)は彼女の話に感動し、エレノアに接近する」
 
 主人公のエレノアが親友のベッシーの体験をわが事のように語ったのは、けっして悪意があったわけではありません。そうではなく、それぐらいベッシーの悲しみをエレノアが深く共有していたからだと思います。本来、悲しみの深さや形は人それぞれ異なり、完全に同じように共有することはできません。それでも、気持ちを吐き出し誰かに寄り添ってもらうことは、回復への大切なプロセスとなります。悲しみを共有する際のポイント悲しみは無理に抑え込む必要はありません。適切に表現し、信頼できる相手や専門家と分かち合うことで、心が軽くなることがあります。

 ユダヤ人であるベッシーには兄がいました。アウシュビッツに送られる列車から飛び降りた兄に続いてベッシーも飛び降ります。兄は銃弾を14発も浴びて変わり果てた姿で絶命しましたが、妹は生き延びます。それ以来、彼女は「なぜ兄だけが死んで、わたしが生きているのか」を疑問に感じ、自分を責め続けます。わたしは、同じくホロコーストの悲劇を描いた1982年のアメリカ映画「ソフィーの選択」を連想しました。ユダヤ人女性のソフィー(メリル・ストリープ)には息子と娘がいましたが、ナチから「どちらか1人を選べ」と言われ、苦渋の末に息子を選びます。この映画では、兄が生き延び、妹が犠牲となるのでした。

 兄の変わり果てた姿を見つけたベッシーは泣き叫びますが、兄をユダヤ教のやり方で弔ってあげたいと思い、たった1人で森の中で兄を埋葬します。このシーンは映像ではなくベッシーの告白だけですが、極限の状況の中でもなんとか死者を弔おうとするユダヤ人少女のエピソードから、一条真也の映画館「サウルの息子」で紹介した2016年のハンガリー映画を連想しました。強制収容所で仲間たちの死体処理を請け負うユダヤ人の主人公が、息子と思われる少年をユダヤ人として正しい儀式で弔うために収容所内を駆けずり回る2日間を描いた感動作です。ちなみにユダヤ教では火葬は死者が復活できないとして禁じられており、土葬が基本となっています。
 
 それにしても、あのスカーレット・ヨハンソンがこのように感動的な長編映画のメガホンを取ったとは驚きです。彼女は「モンタナの風に吹かれて」(1998年)に出演したとき、監督を務めたロバート・レッドフォードの仕事ぶりを目の当たりにし、「いつか監督になりたい」という気持ちが芽生えたそうです。脚本は、やはり本作が初長編脚本となるトリー・ケイメンが担当。彼女がかつて祖母と過ごした大切な時間に着想を得て、フィクションへと変換させた内容になっています。彼女の祖母は95歳にしてフロリダからニューヨークへ引越しましたが、エレノアはケイメンにとっての祖母のイメージそのものだそうです。
 
 本作では主人公エレノアを演じたジューン・スキッブも素晴らしい存在感を示しましたが、ニナを演じたエリン・ケリーマンが輝いていました。1998年にイギリスのスタッフォードシャー・タムワース生まれの彼女は、父親がジャマイカ系、母親がアイルランド系です。「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」(2018年)の盗賊団クラウド=ライダーズを率いるエンフィス・ネスト役をはじめ、これまでは勇敢な戦士役を演じることが多かったですが、本作では母親の死を語るたびに涙を流す繊細な女性を演じています。監督のスカーレット・ヨハンソンは、「エリンには限界というものがありません」と絶賛しています。
10月25日に閉館する「シネスイッチ銀座」で鑑賞