No.1303
7月2日の夜、一条真也の映画館「君は映画」で紹介した日本映画をTOHOシネマズ日比谷で観た後、ヒューマントラストシネマ有楽町に移動して、イタリア映画「ダイヤモンド 私たちの衣装工房」を観ました。2024年イタリア映画最大のヒット作ですが、かなり疲れていたにも関わらず、とても面白くてスクリーンに見入ってしまいました。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『カプチーノはお熱いうちに』などのフェルザン・オーツペテクが監督などを務め、自身の助監督時代の思い出を基に、1970年代のローマの衣装工房を舞台に描くヒューマンドラマ。それぞれに事情を抱えるお針子たちが、苦難を乗り越えて成長していく。『マリア・カラス 最後の恋』などのルイーザ・ラニエリ、『マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド』などのジャスミン・トリンカのほか、ステファノ・アコルシらがキャストに名を連ねる」
ヤフーの「あらすじ」は、「1970年代、ローマ。ある姉妹が営む衣装工房では、一人で子供を育てる帽子担当のパオリーナや、夫からの暴力に耐えるニコレッタらお針子たちが忙しく働いている。一見華やかな衣装制作の裏で、彼女たちはそれぞれ複雑な事情を抱えていた。ある日、新作の依頼のために有名な衣装デザイナーが工房を訪れ、そのニーズに応えるため、縫い子たちの奮闘が始まる」となっています。
本作には、イタリア映画黄金時代へのオマージュと職人が支える天才デザイナーのクリエイティビティが溢れています。本作には、さまざまな衣装に関するアイデアが紹介されており、ブライダルドレス店を各地で展開するわたしにも大変興味深かったです。アカデミー賞受賞歴のある世界的に有名な衣装デザイナーが自ら持ち込んだのは、精肉店の冷気を逃さないようにするカーテンのビニール素材でした。最初はお針子たちも驚きますが、次々にインスピレーションを口にして意見交換し、慌ただしい中でもクリエイティブに協力し合っている制作過程が描かれています。
本作の舞台である姉妹が営む衣装工房では、映画監督や衣装デザイナーと衝突を繰り返しながらも、「奇跡の1着」というべき印象的な赤いドレスを完成させます。このドレスは、細かなディティールまでお針子たちの手作業で作り込まれた逸品で、映画の終盤で圧倒的な存在感を見せます。2025年大阪・関西万博のイタリア館で展示され注目を集めました。デザインしたのは、ミラノ・コルティナ冬季オリンピックの閉会式の衣装も記憶に新しい、伝統の継承者でもある若き天才ステファノ・チャミッティです。
本作では、衣装制作の伝統へ敬意を表しており、貴重なアーカイブからルキノ・ヴィスコンティの「山猫」(2004年)などの衣装が劇中に登場します。第16回カンヌ映画祭でパルムドール(グランプリ)に輝いたヴィスコンティの最高傑作ですね。統一戦争に揺れるイタリア。そこに暮らす山猫の紋章の名門貴族のサリーナ公爵(バート・ランカスター)。新時代の幕開けを前に、彼は輝かしい未来を甥のタンクレディ(アラン・ドロン)とその婚約者のアンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)に託すべく、2人の身分違いの婚約を認めるのでした。
本作のフェルザン・オズペテク監督は、1959年トルコ共和国最大の都市イスタンブールで生まれました。1977年にイタリアへ移住し、ローマにあるローマ・ラ・サピエンツァ大学に学びました。のちにシルヴィオ・ダミーコ国立演劇芸術アカデミーの演出コースに通い、やがて、マッシモ・トロイージ、マウリツィオ・ポンツィといった映画監督の助監督として働きます。1997年、「ハマム」で監督としてデビュー。彼はゲイであることをオープンにしており、いくつかの作品でセクシャリティの問題を扱っています。
本作の映画コピーには「人生のほころびを繕って、幾度もやり直す」「永遠に輝き続ける女性たちの物語」とあります。豪華で美しい衣装制作の裏側にはそれぞれに事情を抱えるお針子たちの人生の物語がありました。衣装制作という共同作業から生まれるかけがえのない歓びを見事に描いていますが、女性が働くことの難しさも描きます。夫や子どもに悩まされながらも必死で生きている女性たちの姿は胸を打ちました。1970年代のローマだけでなく、現在も世界中でさまざまな問題を抱えながら女性たちは頑張っています。そんな彼女たちへのエールのような映画でした。そして、衣装工房を経営する姉妹は、ある深い悲嘆を共有していたのです。「すべての映画はグリーフケア映画」とはわたしの考えですが、本作はグリーフケア映画の傑作でした!


