No.1309
7月11日の朝、アイスランド・スウェーデン・デンマーク・フランス合作映画「きれっぱしの愛」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。ネットでの評価は低かったのですが、ヒューマントラストシネマ有楽町のようなミニシアターで上映されているヨーロッパ映画が小倉のシネコンで鑑賞できるというので、少し迷いながらもチケットを購入しました。イメージのきれっぱしを集めたようなアート系の作品でしたが、それなりに面白かったです。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「アイスランドの田舎町で暮らす家族の日常を描くヒューマンドラマ。芸術家の母親と彼女と同居する3人の子供たちと愛犬、そして別れたはずの夫との何げない日々を映し出す。監督などを手掛けるのは『ゴッドランド/GODLAND』などのフリーヌル・パルマソン。サーガ・ガルザルスドッティル、『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』などのスヴェリル・グドゥナソンらがキャストに名を連ねる」
ヤフーの「あらすじ」は、「アンナは芸術家としての道を模索しながら長女イダ、双子のグリムールとソルギス、そして愛犬パンダと共にアイスランドの田舎で暮らしていた。若いころに結婚した彼女と元夫のマグヌスは夫婦関係をすでに解消したが、彼はあれこれ理由を並べてはアンナたちの家を訪問し、食事を共にするのだった」となっています。
この映画を観てまず思ったのは、娘と双子の息子を育てるアンナに対する違和感です。離婚した元夫マグヌスがアンナたちの家を訪問し、食事を共にするのですが、マグヌスは復縁を希望しているにもかかわらず、アンナは「子どもたちが混乱する」の一点張りで、元夫を追い返します。子どもが混乱するのであれば、最初から家に入れなければいいと思うのですが。まあ、マグヌスも子どもたちの父親であることには変わりはないので、それはOKなのでしょうか?
このマグヌス、15000トンの漁船に乗って家族(とはいってもアンナとは離婚)のために働いており、実直で真面目そうな男です。一生懸命アンナに語りかけて復縁しようとする彼の姿を見ていると、なんだか可哀想になってきます。可哀想といえば、本作のエンディングには彼のこの上なく気の毒な姿が流れます。これにはもはや同情を通り越して、「いくらなんでも、あんまりだな」と思いました。というか、こんな悲惨なラストシーン、前代未聞では?
一方のアンナは長身でなかなかの美人ですが、芸術家だけに気難しいところがあります。娘からは「感情過多のアーティスト」などと呼ばれますが、まさにそんな感じでした。この娘と双子の男の子は、なんとフリーヌル・パルマソン監督の本当の子どもたちだそうです。それゆえ、自然な演技ができたのでしょうが、作中には性教育の授業のような子どもたちによる赤裸々なセックスに関する会話も多かったです。こういうシーンを実の父親が撮るのは、子どもたちもやりにくかったのではないでしょうか。まあ北欧なので、セックスの話題にはオープンなのかもしれません。
サーガ・ガルザルスドッティルが演じる主人公アンナは芸術家ですが、この映画そのものアート系作品の香りを放っています。それが最もよく表れているのがピクニックのシーンで、アンナは紐を使って自分の顔を歪めます。その変顔を家族に見せて喜んでいるのですが、いかにも芸術家らしい奇行でした。それからサマー・ドレス姿のアンナが寝ているマグヌスの顔の上を跨ぐシーンがあり、当然ながらマグヌスはアンナのスカートの中を見てしまいます。それがすごくエロティックであり、神秘的でもありました。アンナのパンティが太陽のように輝くのを見たとき、わたしは上野千鶴子の「スカートの中の劇場」、平塚らいてうの「元祖、女性は太陽であった」という2つの言葉を同時に思い浮かべました。
子どもたちだけではなく、映画に登場するアイスランド・シープドッグのパンダも監督の愛犬だそうです。自分の3人の子どもと愛犬がそのまま"子ども役と愛犬役"として出演しているわけですから、監督はありのままの家族の風景を切り取ったかのようなナチュラルな作品を作ることに成功したのでしょう。ちなみに、アイスランド・シープドッグはアイスランド原産の唯一の固有犬種であり、スピッツ系の牧羊・牧畜犬です。歴史が古く、9〜10世紀頃にバイキングによって持ち込まれた犬たちが祖先とされています。本作に出演したパンダは、第78回カンヌ国際映画祭のパルム・ドッグ賞を受賞し、スター犬として注目されました。
本作「きれっぱしの愛」は私的でありながら、豊かな陰影に満ちたビターでスウィートな家族劇です。第78回カンヌ国際映画祭への正式出品を経て、第98回アカデミー賞のアイスランド代表作としても選出されました。若くして結婚したものの、今やもう夫婦ではなくなったはずの元夫と元妻がいまだに情を断ち切れず、食卓を囲み、ピクニックにまで付き合う日々を描きます。気がつけば、まるで「まだ家族」であるかのような日常を送っています。確かに日本人のわたしから見れば「奇妙な疑似家族」なのですが、それだけに「家族とは何か?」ということを観客に問いかけます。
フリーヌル・パルマソン監督は、「ゴッドランド/GODLAND」(2024年)で注目されました。デンマークの統治下にある19世紀後半のアイスランド。辺境の村に教会を建設するため、若きデンマーク人の牧師ルーカスは布教の旅に出ます。はるか遠方の目的地を目指す道中は、想像を絶する困難の連続でした。デンマーク嫌いなアイスランド人の老ガイド・ラグナルと衝突し、想定外のアクシデントにも遭遇したルーカスは、やがて狂気にとらわれていくのでした。第96回アカデミー賞国際長編映画賞のショートリストに選出されたほか、数々の映画賞で高い評価を得た作品です。わたしは未見ですが、U-NEXTやアマゾン・プライムで視聴できるそうなので、近いうちに観たいです!


