No.1211


 7月12日、一条真也の映画館「GOOD BOY/グッド・ボーイ」で紹介したアメリカ映画をイオンシネマ戸畑で観た後、同館で日本映画「死神バーバー」を観ました。全国で45館しか上映されていない作品ですが、ネットでは非常に高評価です。「死」がテーマということで鑑賞しましたが、大傑作ではないけれどホロリとするハートフル・ムービーでした。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「死神が営む美容室で死ぬまでの数日間を過ごすことになった女性が、さまざまな出会いや別れを通して自らの人生を見つめ直すヒューマンファンタジー。日本大学藝術学部映画学科に在籍していた梅木陽一が課題で制作した企画書を原案に、『天国か、ここ?』などのいまおかしんじが監督、『この動画は再生できません』シリーズなどの谷口恒平が脚本を担当。主人公を『殺さない彼と死なない彼女』などの桜井日奈子、彼女を不思議な美容室へ導く死神を『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』などの日穏が演じる」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「仕事もプライベートもうまくいかず、いら立っていた佐伯美帆(桜井日奈子)は階段で足を滑らせる。意識を取り戻した彼女は、目の前にいた新米の死神・サクマ(日穏)に怪しげな美容室『冥供愛富』連れていかれる。そこでは死神美容師たちが亡くなった人にお色直しを施し、魂が冥土に送られる前に現世にいる大切な人たちとの最期の別れを手助けしていた。その後、サクマのミスで美帆の本当の死は数日後であることが判明し、彼女は死を迎えた人たちとの交流を通じて自身の人生を振り返る」
 
 昔から死神が登場する映画は多いですが、本作もその仲間入りしました。死神は、人間に死をもたらす、あるいは冥界へと魂を導くとされる超自然的な存在の総称です。世界各地の神話や信仰だけでなく、近代のポップカルチャーや伝統芸能にいたるまで、非常に幅広い文脈で語り継がれています。西洋における死神は黒いローブを羽織り、巨大な大鎌を手にした骸骨の姿が一般的です。寿命を迎えた人間の魂を、大鎌で肉体から切り離してあの世へと連れ去ります。日本神話には固定の「死神」はおらず、仏教の「死魔」(人に死を意識させる魔物)や、江戸時代の怪談、民間伝承からイメージが形成されました。
 
 古典落語には「死神」という演目があります。お金に困った男が死神と取引し、病人の枕元か足元のどちらに死神がいるかで生死を見分ける医者になるという話ですが、呪文の「アジャラカモクレン テケレッツのパー」や、自分の寿命を表す「蝋燭の火」を移し替えるハラハラする結末で知られています。ミュージシャンの米津玄師が、その古典落語をモチーフにした楽曲「死神」を発表し、大きな話題を呼びました。また、『BLEACH』や『DEATH NOTE』など、死神をテーマに据えたり、独自の特殊な能力を持つキャラクターとして登場させたりするヒット作品が数多く存在します。
 
 本作で死神を演じたSSTARGLOの日穏は、最初こそ不器用な演技でしたが、次第に独特の味わいを感じさせました。彼は「サクマ」という名で、わたしの本名と同じなのですが、岡部大が演じる死神の上司から「これはサクマのミスだからな。サクマが責任取れよ!」と映画の中で怒鳴られたときはドキッとしましたし、終盤で桜井日奈子演じる美穂から「サクマさん、ありがとう。わたし、サクマさんと会えて良かった!」と言われるシーンには、ホロリとしました。こんなセリフ、実際に言われてみたいものですね!
 
 ちなみに、死神の上司はサクマに「死神っていうのはな、死んだ人間を死後の世界に連れて行って、少しだけ怖くないようにサポートする仕事なんだ」という場面があります。なるほど、死神というのはケア業なのですね。そういえば、美穂が勤務する美容室のオーナーに「わたしたちの仕事って、髪が伸びたらそれを切って、また伸びたら切っての繰り返しですよね。何も残せないのが虚しくないですか?」と問うシーンがありました。オーナーは「いや、この店を残せたし、君たちに指導して技術も残せた」と言うのですが、わたしは美容師や理容師というのは髪を切りながら「こころ」をケアする方々ではないかと思っています。
 
 日穏は、公式HPに「このたび『死神バーバー』でサクマ役を演じました日穏です! サクマは死神歴1000年以上の若手死神で、人間に対して疑問ばかり抱いているキャラクターです。台本を読んだ時、真っ直ぐで硬い雰囲気の言動が多く見られたのでそのイメージで現場に入ったのですが、監督に初めからそのイメージを壊されて、結構ユニークな役になったと思います。笑 この物語は『死』を軸に話が進んでいくのですが、その一見重い題材に聞こえるものが、この映画を見たあとには変化していると思います。常に死と隣り合わせの私たちが、今後どう過ごしていくか、そしてその後もどうなるのかをポジティブに考えさせられる作品だと思います! ぜひご覧ください!」と述べています。
 
「死神バーバー」はいくつかのショート・ストーリーが連なる連作ドラマとなっています。思いもかけず亡くなって死神に連れて行かれるのは、夫婦で経営する喫茶店の奥さん、漫才師の片割れ、コンカフェ嬢に貢ぐ中年男性などですが、いずれの物語も切なくて、ちょっと泣かせます。彼らはこの世の最後に大切な人に想いを伝えるのですが、わたしは一条真也の映画館「想いのこし」で紹介した2014年の日本映画を連想しました。金と女に目がない青年が、ひょんなことから現世に未練を遺した幽霊たちを成仏させようと奔走しながら騒動を巻き起こしていくさまを、涙と笑いを交えて綴る物語です。
 
「想いのこし」には、考えることは金と女のことばかりで、お気楽に毎日を過ごすことがモットーの青年・ガジロウ(岡田将生)が登場します。ある日、交通事故が縁となって幽霊となったユウコ(広末涼子)ら、3人のポールダンサーと年配の運転手に出会う。小学生の息子を残して死んだのを悔やむユウコをはじめ、成仏できぬ事情を抱える彼らは遺(のこ)した大金と引き換えに無念の代理解消をガジロウに依頼。それを引き受けた彼は、花嫁姿で結婚式に出席したり、男子高校生に愛の告白をしたりと、それぞれの最後の願いをかなえていくのでした。
 
 新米死神・サクマのミスから余命数日となってしまう主人公・美帆を演じた桜井日奈子は久々に見ましたが、良い女優になっていましたね。この人は笑顔がチャーミングなので、コメディエンヌが似合います。本作は、当時学生だった梅木陽一が授業の課題として提出した企画書を原案だそうですが、彼は「コロナ禍に家族や友人との交流、新しい出会いが途絶え、感染拡大によって大切な人との別れに立ち会うことすら叶わない状況の中で、改めて『死』と向き合う時間を過ごしました。当時、大学で映画を学んでいた私は、映画を通して少しでも明るく、死や別れと向き合う方法はないかと考え、この作品を構想しました」と述べています。主題歌はFurui Riho書き下ろしの「太陽になれたら」ですが、これは心に沁みる名曲です!
 
「死神バーバー」は、馬鹿で愛おしい人間たちの人生最後の1日、そしてヒロイン・美帆と新米死神・サクマの奇妙で愛おしい日々を、優しく包み込むように描いたヒューマン・ファンタジーでした。その上映前に「時給三〇〇円の死神」の予告編が流れました。西畑大吾(なにわ男子)と福本莉子が主演を務め、小説家・藤まるが2017年に発表したライトノベル『時給三〇〇円の死神』(双葉社)を実写映画化したヒューマンドラマです。10月2日公開ですが、わたしは福本莉子がけっこう好きなので、これは観なければなりません。それにしても、死神映画の上映前に死神映画の予告編とは! もしかして、いま、死神がトレンドなの?