No.0302


 ブログ「亜人」で紹介した映画に続いて、日本映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を観ました。「一条真也の読書館」で紹介した人気作家・東野圭吾氏のベストセラー小説『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を映画化したものです。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

「人気作家・東野圭吾の小説を、『やわらかい生活』などの廣木隆一監督が映画化。現在と過去が手紙でつながる不思議な雑貨店を舞台に、養護施設育ちの若者と、町の人の悩み相談を聞く店主の時を超えた交流を描く。32年前から届く悩み相談の手紙に触れるうちに、人を思いやる気持ちを抱く主人公を『暗殺教室』シリーズやテレビドラマ『カインとアベル』などの山田涼介、雑貨店店主を数多くの作品で独特の存在感を見せてきたベテラン西田敏行が演じる」

 ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

「2012年、古くからの友人たちと悪事をした敦也(山田涼介)は、かつて悩み相談を請け負っていた『ナミヤ雑貨店』に身を隠す。敦也は廃業しているはずの店の郵便受けからした音に気付き調べてみると、32年前に書かれた悩み相談の手紙があり、さらに郵便受けは1980年につながっていた。三人は困惑しつつも店主に代わり返事を書くと、また手紙が投函され...」

 さて、映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を観た感想ですが、正直言って「イマイチ」でした。キャスティングは、なかなか面白いと思いました。鮮魚店の夫婦を小林薫と根岸季衣が演じており、わたしは「あ、『ふぞろいの林檎たち』の仲手川家だ!」と思いました。こういう遊び心のあるキャスティングは嬉しいですね。それから、老婆役の吉行和子は「亜人」でも同じような老婆役で出演していました。「義之和子、健在なり!」という感じですね。

 しかしながら、この映画、誰が主人公だかわかりにくいのです。山田涼介演じる敦也なのでしょうが、まったく存在感がありません。また、タイムスリップ映画でありながら時系列がわかりにくいという致命的な欠陥があります。西田敏行演じるナミヤ雑貨店主の33回忌に出した手紙が彼が存命中に届く不思議の描き方が中途半端で、これでは観客は混乱するだけです。もっと丁寧に説明する必要があります。

 なんでも、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は「東野圭吾史上最も泣ける感動作」であり、世界で累計800万部を売り上げたそうです。わたしも刊行直後に読みましたが、優れたファンタジー小説だと思いました。拙著『死が怖くなくなる読書』(現代書林)でも紹介しています。しかし、この映画には原作の素晴らしさがほとんど生かされていませんでした。原作の中にはナミヤ雑貨店の店主が相談の返事として書いた手紙の数々の名言が出てきます。商売に行き詰まって夜逃げを計画している中学生に宛てた手紙の最後には、「どうか信じていてください。今がどんなにやるせなくても、明日は今日より素晴らしいのだ、と」という言葉が登場します。

「今がどんなにやるせなくても、明日は今日より素晴らしい」は、桑田佳祐の名曲「月光の聖者達~ミスター・ムーンライト」の歌詞の一節です。わたしのブログ記事「桑田佳祐の祈り」にも書きましたが、「明日は今日より素晴らしい」という言葉は、最高の祈りの言霊だと思います。そして、この言葉は本書全体を貫くメッセージにもなっています。なんでも、著者の東野圭吾氏は桑田佳祐氏の大ファンで、両者の間には親交があるそうです。自分が感動した歌の歌詞を、自分が書く小説の中に入れ込むなんて最高に素敵なことですが、これが映画版にはまったく出てこない。映画主題歌は山下達郎の「REBORN」で、劇中でも門脇麦が演じる"Seri"がこの曲を歌います。この曲も悪くはないのですが、ここはぜひとも「月光の聖者達~ミスター・ムーンライト」を主題歌にしてほしかったですね!

 この作品では、「ナミヤ雑貨店」の他に児童養護施設「丸光園」が重要な舞台となります。そして、丸光園を創設し、自身の人生を丸光園に恵まれない子どもたちへの世話に捧げた1人の女性が登場します。丸光園の初代園長であった彼女が亡くなる前の最期の言葉が「心配しないで、私は空の上からみんなの幸せを祈っているから」というものでした。この「空の上から祈りを」は、「明日は今日より素晴らしい」と並ぶ本書のメッセージであると言えるでしょう。そして、わたしは「空の上から祈りを」とは「月から祈りを」という意味に受け取りました。わたしが、月こそ死者の世界であり、なつかしい故人は月から愛する人の幸せを祈っていると、多くの著書で訴え続けてきたことはご存知かと思います。わたしのブログ記事「月への送魂」で紹介したように、今月4日の夜には「中秋の名月」に向かって魂を送るセレモニーを行いました。

 そう、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は「月の文学」なのです。この作品で起こった不思議な出来事の数々は、すべて満月の夜に起こっています。原作の冒頭に、主人公の泥棒3人組が忍び込んだ建物と小屋の隙間から夜空を見上げる場面があります。そして、そこで著者はしっかり「真上に丸い月が浮かんでいた」と書いているのです。「空の上から祈りを」と並ぶ、この小説のもう1つのメッセージが「明日は今日より素晴らしい」です。この言葉も、月の下でつぶやかれるべきでしょう。なぜなら、この言葉の出自は「月光の聖者達~ミスター・ムーンライト」という名曲だからです。
生者には、「明日は今日より素晴らしい」。
死者には、「空の上から祈りを」。
そして、その両方ともに月に関連したメッセージなのです。

 ということで、大の月狂いであるわたしは、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』という「月の文学」を非常に気に入ってしまったわけですが、映画版には月の気配を感じることができませんでした。残念です。ただ、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は「月の文学」であるとともに、「手紙の文学」でもあります。ナミヤ雑貨店のポストに投函される悩み相談の手紙も、牛乳入れに置かれる返事の手紙も時間を超えて届きます。現代ならば、このような悩み相談は手紙ではなく、おそらくはブログなどのネット上で行われることでしょう。でも、この物語の時代は1980年であり、当時はネットそのものが存在しませんでした。

 わたしは、この映画館でも紹介した日本映画「ポプラの秋」を連想しました。湯本香樹実氏の小説を実写化したヒューマンドラマです。父を亡くした少女が、天国に手紙を送り届けるという老人と織り成す交流を描いています。この映画も、拙著『死が怖くなくなる読書』で詳しく紹介していますが、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」との共通点は、時空を超える手紙が重要な役割を果たすことです。ちなみに、古代エジプトでは手紙は生者と死者とのコミュニケーションを担うメディアでした。手紙とは、もともとスピリチュアルなものなのです。


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   『なぜ、一流の人はご先祖さまを大切にするのか?』(すばる舎)


 映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」に登場する手紙にまつわるエピソードで印象的だったのは、店主が悩みの相談に答えてきた多くのアドバイスが本当に有効だったのかどうか不安になり、自分の死後32年後にそれを確認してほしいと息子に依頼する場面でした。死後の評価を気にするということで、わたしは拙著『なぜ、一流の人はご先祖さまを大切にするのか?』(すばる舎)の内容を思い出しました。同書で、わたしは以下のようなことを書きました。

「ひとたび作家の手によって生み出された作品は、死後も他人から読まれる運命にあります。わたしは作家として、これまでに多くの本を書いてきました。本を上梓するにあたって、いつも思っていることがあります。それは『この本は娘たちや、孫や、子孫が読むかもしれない。彼らが読んでも恥ずかしくない本を書こう。彼らが一条真也を少しでも誇りに思ってくれるような本を書こう』ということです」


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   『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)


 本というものは、少々不正確なことでも言い切ったり、極論を述べたり、面白おかしくウソを混ぜたり、読者を脅迫したりしたほうが読まれることが多々あります。『なぜ、一流の人はご先祖さまを大切にするのか?』ならば、「先祖供養をすれば、年収が倍になる」とか、「先祖供養をしないと、祟られる」などと書いたほうが売れる可能性が高いのかもしれません。でも、わたしはそんなことは書きません。それはウソですし、ウソを書くことは読者に対して不誠実なばかりか、わたしの子孫に対しても顔向けができないからです。「金儲けをして何が悪い」などと言う人は、どうか、未来の子孫の顔を思い浮かべてほしいです。本は未来に残るものであり、死後も他人から読まれる運命にあることを忘れてはならないのです。本を書くことへの想いは、拙著『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)でも述べています。


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   『あらゆる本が面白く読める方法』がベストセラー1位に!


 最後に、本といえば、とても悲しい出来事がありました。わたしの著書の多くを刊行して下さった出版社「三五館」が倒産したのです。少し前から経営状況が良くないということが耳に入り、心配をしていた矢先でした。
 じつは、この「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を観終わって映画館から出た直後に、「出版界の青年将校」こと編集者の中野長武さんから電話があり、同社の事業停止を知りました。皮肉なことに、ネットで関連記事を調べていたとき、『あらゆる本が面白く読める方法』がアマゾン「読書法の売れ筋ランキング」で1位になっていることも偶然知りました。同書も三五館から生まれた我が子の1人で、中野さんと二人三脚で作った本でした。タブレットでアマゾンの画面を見ていると、無性に悲しくなってきました。


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   「REBORN」を信じています!


 三五館が倒産したという報せには、わたし自身、大変なショックを受けました。今年も残り少なくなってからの倒産ということで、星山社長をはじめ、元社員のみなさん、そのご家族の不安な心中を思うとたまらない気分です。
 わたしには何もできませんが、せめて、「明日は今日より素晴らしい」という祈りの言葉をお贈りしたいと思います。わたしは、鑑賞直後に悲報に接した映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」をけっして忘れないでしょう。夜空から消えた月はまた新月として蘇ります。わたしは、出版界のミッショナリー・カンパニーであり続けた三五館の「REBORN」を信じています!