No.0301


 ここしばらく非常に忙しかったのと、体調がすぐれないこともあって、なかなか映画館を訪れることができませんでした。でも、ようやく体調も回復してきて、久々に映画館へ。ヒット中の日本映画「亜人」を観ました。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。


「桜井画門のコミックを原作に、不死身の主人公を『るろうに剣心』シリーズなどの佐藤健が演じ、『踊る大捜査線』シリーズなどの本広克行監督がメガホンを取って実写化。交通事故での死亡から一転、生還し、絶命と共に再生を始める能力を持つ新人類"亜人"であることが発覚した主人公が、国家権力やテロをもくろむ同種族の亜人との戦いを繰り広げる。ビルの屋上から飛び降りるなど不死身のキャラクターを生かしたアクション、生と死をモチーフにした深淵なストーリーに期待が高まる」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。


「2017年の東京。研修医の永井圭(佐藤健)はトラックと衝突し死亡するが、その直後、肉体が回復し生還。不死身の新人類"亜人"であることが発覚する。圭は追われる身となり、亜人研究施設に監禁されるが、"帽子"と呼ばれる亜人のテロリスト・佐藤に助けられる。しかし、佐藤は国家転覆計画に加担しない圭を敵視。圭は佐藤の暴走を止めるために立ち上がる」

 この映画は、「一条真也の読書館」で紹介した桜井画門によるコミック『亜人』が原作です。「good!アフタヌーン」(講談社)にて、23号(2012年7月6日発売)から連載中です。2015年に劇場3部作としてアニメ化され、15年から16年までにかけ3部上映。16年にはテレビアニメが分割2クールにて全26話が放送されました。

 そして、17年には実写映画が公開されたわけです。
 実写版のキャスティングには注目が集まりましたが、個人的にはなかなか良かったと思います。この映画館でも紹介した日本映画「君の膵臓をたべたい」に主演した浜辺美波が相変わらず可愛かったです。キミスイと同様に「亜人」でも病気の女の子の役でしたので、両作品のイメージがつながりました。

 そして、なんといっても主演の佐藤健演じる永井と綾野剛演じる佐藤とのバトルシーンが圧巻でした。2人ともよく身体を鍛えていて、アクションのキレも良く、見応えがありました。わたしはこの2人がけっこう好きなのですが、佐藤健は映画「リアル~完全なる首長竜の日~」、綾野剛は映画「怒り」での演技が強く印象に残っています。

 さて、「亜人」とは何か。それは、人類の中で新たに発見された、決して死なない新生物です。拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)でも述べたように、映画そのものが「不死」のメディアであると言えますが、「不死の者」というカテゴリーでは、吸血鬼やゾンビやミイラなどのモンスターが思い浮かびます。そういえば、「亜人」の冒頭には永井が延々と生体実験(何度も殺される実験)を受けるシーンが出てきますが、永井の顔は包帯でグルグル巻きにされていて、まるでミイラ男みたいでした。

 モンスター映画としての「亜人」は、同じく人類が自身の存亡をかけて超人的存在と戦う「進撃の巨人」シリーズを連想させます。
 じつは、原作コミックの第1巻が発売されたとき、ダークな世界観や亜人の設定を活かしたバトルシーンが口コミとネットでじわじわと好評を博しましたが、『「(進撃の)巨人」の次は「亜人」か!?』と、センセーショナルな評判が世間の耳目をさらいました。

 「進撃の巨人」とはバトルシーンのスピード感も似ていますが、「亜人」の場合は「絶対死なない」ことを自覚している亜人たちの戦い方が衝撃的です。何度死んでもリセットして甦る場面は、映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」も連想しました。ともに、いったん死んでもすぐに甦り、前回の失敗から学習して、新たな戦いに臨むわけです。

 亜人とは、不死の存在ではありますが、吸血鬼でもゾンビでもありません。もともと「死」がプログラムに組み入れられていない生物なのです。それにしても自分が亜人であるとわかった瞬間から、周囲の人間たちに追われる環境の変化は恐怖以外の何ものでもありません。これは「差別」や「いじめ」のメタファーであることは明白でしょう。それは、いつだって突然起こります。
 これは「進撃の巨人」にも言えることですが、「亜人」は「人間とは何か」を観客に問う映画です。「人類とは何か」と言い換えてもいいでしょう。「亜人」の場合は、さらに「共同体とは何か」「差別とは何か」「生命とは何か」「死とは何か」といった哲学的な問いを含んでいると思いました。