No.361
日本映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」を観ました。
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『サニー 永遠の仲間たち』を、『モテキ』シリーズや『バクマン。』などの大根仁監督がリメイクした人間ドラマ。舞台を韓国から日本に移し、仲の良かったコギャルたちの22年後の姿を、1990年代の音楽やファッションを交えて描く。40歳の主人公とその高校生時代を『アンフェア』シリーズなどの篠原涼子と『ちはやふる』シリーズなどの広瀬すずが演じるほか、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、池田エライザ、板谷由夏らが出演する」
また、ヤフー映画の「あらすじ」には、以下のように書かれています。
「夫と高校生の娘と暮らす40歳の専業主婦、阿部奈美(篠原涼子)は、日々の生活に空しさを感じていた。一方、独身で39歳の社長・伊藤芹香は、ガンで余命1か月を宣告されてしまう。およそ22年ぶりに再会した芹香にもう一度みんなに会いたいと告げられた奈美は、ある事件が原因で音信不通になった仲良しグループ"SUNNY(サニー)"のメンバーを捜そうとする」
わたしの自宅のPCには、なぜか「広瀬すず」と名乗る人物がつぶやいたツイートがよく送られてきます。彼女のフォロワーになった覚えはないし、わたしはツイッタ―というものが基本的に嫌いなので、誰のツイートもフォローしていないのですが、まあ「広瀬すずなら可愛いから、このままでいいか」ということで、彼女のつぶやきをいつも読まされています。最近は、この「SUNNY 強い気持ち・強い愛」の話題がよく出てきます。この映画を観て感動したという人の感想をリツイートしたものが多いのですが、それらを読んでいるうちに「そんなに泣ける映画なの?」ということで、映画館に足を運びました。
観終わった感想は、「ああ、面白かった!」、そして「泣けたあ!」です。わたしは6回泣きました。この映画、想像を遥かに超えた感動作でした。
韓国のヒット映画のリメイクということで、「安易な商業主義ではないか」と最初は思ったのですが、日本の90年代の仇花ともいえるコギャル文化に置き換えたところはナイスでした。茶髪にガングロ、ルーズソックスのコギャルを改めて見ると、「こりゃ無敵だな」と思ってしまいますね。個人的には苦手ですが・・・・・・。
それに、この映画にはオザケンや安室奈美恵などの90年代ヒットソングがふんだんに盛り込まれているので、当時オリジナルを熱く支持した人たちは感涙モノだったのではないでしょうか。わたしの場合は、22年前の1996年といえばすでに33歳でしたので、大人の1人として90年代後半の文化は遠巻きに見ていました。これが広末涼子が主演した「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」の時代背景のようにもう少し前の90年代の初期であれば、わたしのハートにもヒットしたと思います。
役者がみんな素晴らしかったです。広瀬すずをはじめ、篠原涼子、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、板谷由夏・・・・・・みんな良かったです。女子高生・広瀬すずが22年の歳月を経て、専業主婦・篠原涼子に成長する。最初は無理があるかなとも思いましたが、どうしてどうして、映画では見事に2人で同一人物を演じていました。ともに演技力があるがゆえでしょうが、ちょっと雰囲気も似ていると思いました。自分の高校生時代を広瀬すずが演じると知ったとき、篠原涼子は「広瀬すず似の整形して下さい」などと発言して笑いを取っていましたが、彼女の若い頃も非常にチャーミングでした。
篠原涼子の高校生時代を演じた広瀬すずだけでなく、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、板谷由夏らの高校生時代役の子たちもよく雰囲気が似ていました。「よくぞ、これだけ似たのを集めたなあ」という感じですが、高校生役の女優は、ブログ「ルームロンダリング」で紹介した映画に主演した池田エライザと広瀬すずを除いて、ほとんど無名に近いです(違っていたら、ごめんなさい)。池田エライザは高校時代と現在の二役をクールに演じていましたが、広瀬すずと篠原涼子のコンビは圧倒的な知名度と人気があるわけで、この広瀬・篠原の2人の「格」のバランスが取れていることも良かったと思います。
それにしても、広瀬すずは、あいかわらず可愛いですね。明星チャルメラのCMで黒ネコに扮し、「チャルメニャー!」と言う姿もチョー可愛い!
わたしは、この映画館でも紹介した映画「海街diary」で初めて彼女を見たのですが、整った顔立ちの中に凛とした「強さ」のようなものを感じさせました。彼女が中学の同級生と自転車に相乗りして桜が咲き乱れるトンネルの下を走ったり、鎌倉の海岸を歩いたりする場面はとても絵画的な情景で、広瀬すずは日本人ではなくフランス人女優のようでした。彼女が誰かに似ていると思って、しばらく考えてみたのですが、「あ、ソフィー・マルソーだ!」と気づきました。広瀬すずは、「ラ・ブーム」でデビューしたときの可憐なソフィー・マルソーの雰囲気を感じさせてくれたのです。
すると、「SUNNY 強い気持ち・強い愛」では、広瀬すずが三浦春馬演じる大学生からクラブで後からヘッドフォンを付けられ、耳に甘いラブソングが流れてくるというシーンがありました。これは「ラ・ブーム」でソフィー・マルソーがダンスパーティーでイケメンの男の子からされたこととまったく同じです。このシーンを観て、わたしはちょっと驚きました。大根仁監督も「広瀬すずは日本のソフィー・マルソーだ!」と思っていたのでしょうか。それとも、もしかして、わたしのブログを読まれ、「広瀬すず=ソフィー・マルソー」説を知ったのでしょうか? もしそうだとしたら、すごく嬉しいですね。
『死ぬまでにやっておきたい50のこと』(イースト・プレス)
さて、「SUNNY 強い気持ち・強い愛」では、板谷由夏演じる伊藤芹香が末期がんに冒され、余命1ヵ月とわかったときに、「昔の仲間に会いたい」と思います。わたしは、拙著『死ぬまでにやっておきたい50のこと』(イースト・プレス)の内容を連想しました。同書では、死ぬまでにやっておきたいことを50個考えることを提案しています。死の直前、人は必ず「なぜ、あれをやっておかなかったのか」と後悔します。さまざまな方々の葬儀のお世話をさせていただくたびに耳にする故人や遺族の後悔の念・・・・・・。そのエピソードを共有していけば、すべての人々の人生が、いまよりもっと充実したものになるのではないかと考えました。
『死ぬまでにやっておきたい50のこと』の41番目の項目に「お世話になった人に会いに行く」というものがあります。「一条真也の読書館」で紹介した『あなたにあえてよかった』では、著者の大浦静子さんは最愛の娘さんである郁代さんをがんのために34歳の若さで亡くされました。この本はその郁代さんが生まれたときから亡くなるまでの「いのち」の記録です。郁代さんは余命半年を宣告されたときにお別れの旅を始められました。病身にもかかわらず、国内で30人、海外で30人のお友だちに会い続けられたそうです。それは延命治療をしないという選択の結果でした。そのことが2007年の日本テレビ系列の「24時間テレビ 愛は地球を救う」で取り上げられました。
「24時間テレビ 愛は地球を救う」では、再現ドラマがオープニングで放映されました。がんが進行するなか、郁代さんは友だちと笑顔で再会し、そして「また会いに来るからね」と別れの言葉を残していきます。そのときに日本武道館でクラシック歌手の秋川雅史さんが「千の風になって」を歌い上げたのでした。
郁代さんの最期の言葉は「これまで(の人生)完璧だった」でした。静子さんは、「自分にとって良いことも、嫌なこともあったのに、世界を全肯定したような言葉に聞こえました。死を前にして賜った、命の讃歌でした」と書かれています。わたしは、たとえ34年の生涯だったとしても、心から家族と愛し合うことができた郁代さんとご両親は幸せだったのではないかと思います。 わたしは幸い、そんなつらい別れを経験したことはありません。でも死を意識したとき、懐かしい人、お世話になった人、ともに時代を生きてきた人たちに別れを告げたいと思います。
『葬式は必要!』(双葉新書)
そして、お別れのセレモニーといえば、なんといっても葬儀です。この「SUNNY 強い気持ち・強い愛」の最後に登場する葬儀のシーンは素晴らしく感動的で、これまでの日本映画の歴史の中でも葬儀シーンではナンバーワンではないかと思います。ネタバレにならないように気をつけて書きますが、血縁も地縁も希薄化する無縁社会の中で、高校時代のかけがえのない出会いによって「縁」を得て「絆」を強めた仲間が集い、心から故人を大切に思って見送ってあげる・・・・・・改めて、葬儀とは「縁」と「絆」を見える化するセレモニーなのだなと思いました。かつて、わたしは、『葬式は必要!』(双葉新書)を書きましたが、誰がなんと言おうが、葬式は必要です!
その素晴らしい葬儀を取り仕切った私立探偵を演じたのがリリー・フランキーだというのも嬉しかったです。わたしは彼と同い年なのですが、正直これまで良い印象を持っていませんでした。というのも、彼の大ベストセラー『東京タワー』の中で葬儀や互助会を一方的に批判していたからです。
この映画館でも紹介したで紹介した映画「万引き家族」で演じた役では、お世話になった老婆が亡くなっても葬式もあげずに年金を不正受給していたことも気に入りませんでした。でも、そんな彼がスクリーンの中で最高の葬儀を見せてくれたのです。嬉しいじゃありませんか!
わたしは、一発でリリー・フランキーが大好きになりました。
「サンデー毎日」2017年7月30日号
「SUNNY 強い気持ち・強い愛」に素晴らしい葬儀のシーンが登場したのは、、やはりオリジナルが韓国映画だったからかもしれません。韓国では儒教が盛んです。儒教は何よりも葬礼を重んじますが、日本では、家族葬や直葬など、葬儀の簡略化が進む一方です。この点では、葬礼を重んじる韓国のほうに孔子の思想は生きていると言えます。この映画についても、「韓国映画が原作なら観ない」などと言い放つ嫌韓派もいますが、葬儀で故人を弔うという「人の道」に日本も韓国もありません。そういうヘイト・ピープルこそ、この映画を観てほしいですね。