No.388


 一条真也の映画館「ファースト・マン」で紹介した映画に続いて、映画「アクアマン」を観ました。わたしは「アベンジャーズ」とか「ジャスティス・リーグ」のようなオールスター総登場のヒーロー映画は好きですが、単独のヒーロー映画は基本的に観ません。でも、この映画は知人からの薦めで観ました。理屈抜きで面白いエンターテインメント大作でした。敵役の「ブラックマンタ」などは、ちょっと平成版「仮面ライダー」にでも出てきそうな感じでしたが......(苦笑)。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「海洋生物と意思の疎通ができるヒーロー・アクアマンが主人公のアクション。人類存亡の危機に立ち向かうアクアマンの活躍が描かれる。監督は『ソウ』『インシディアス』『死霊館』シリーズなどに携ってきたジェームズ・ワン。『ジャスティス・リーグ』でアクアマンを演じたジェイソン・モモアが続投し、『ラム・ダイアリー』などのアンバー・ハード、『めぐりあう時間たち』などのニコール・キッドマンらが共演する」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、こうです。
「海底王国アトランティスの末裔であるアクアマン(ジェイソン・モモア)は、人間として育てられた。ある日、彼はアトランティスが人類の支配を目的とした侵略を始めたことを知る。人類の想像をはるかに超える文明を持つアトランティスの強大さを知る彼は、海を守るべきか地上を守るべきかの選択を迫られる」

 わたしは「アクアマン」という名を一条真也の映画館「ジャスティス・リーグ」で紹介した映画で初めて知りました。「ジャスティス・リーグ」とは、DCコミック(ディーシー コミックス、DC Comics)の刊行するアメリカン・コミックスに登場する架空のスーパーヒーローチームです。DCコミックスはアメリカの漫画出版社で、マーベル・コミックと並ぶ二大アメコミ出版社のひとつです。「ジャスティス・リーグ」は人気ヒーローの競演が特徴であり、オールスターチームでもあります。名前は、結成当時に人気のあったメジャーリーグ(ナショナルリーグ、アメリカンリーグ)から「ジャスティス・リーグ」と付けられました。

 Wikipedia「ジャスティス・リーグ」の「概要」によれば、ジャスティス・リーグ創立メンバーは、以下の7人とされます。映画「ジャスティス・リーグ」にはマーシャン・マンハンターと2代目グリーンランタンが入っておらず、代わりにサイボーグが入っていますね。

●マーシャン・マンハンター
本名、ジョン・ジョーンズ。火星人で、怪力、飛行、透明化、すり抜け(壁などを貫通する)、テレパシー、変身など、多彩な能力を持つ。弱点は火。

●2代目フラッシュ
超高速で行動できる「スピードスター」と呼ばれるタイプのヒーロー。 本名、バリー・アレン。後に戦死。

●2代目グリーンランタン
パワーリングのエネルギーを自在に操るヒーロー。本名、ハル・ジョーダン。

●アクアマン
地上での名はアーサー・カリー、本名はオリン。海底国家アトランティスの王。水陸両棲の海底人で、地上人よりもタフでパワーもある。

●ワンダーウーマン
アマゾン族の王女、ダイアナ・プリンス。怪力・飛行などの能力を有する。

●スーパーマン
普段の姿は、新聞記者クラーク・ケント。 クリプトン星の生まれで地球育ち。怪力、飛行能力、目から放つ熱線やX線が特徴で、DCコミック最強のヒーロー。弱点はクリプトナイト。

●バットマン
大富豪ブルース・ウェインの隠された姿。
闇の騎士、世界最高の探偵などと呼ばれる。スーパーパワーは持っていないが、極限まで鍛え抜かれた体力・知力を武器とする。

さて、アクアマンですが、Wikipedia「アクアマン」の「人物」には、「アトランティス人としての名前はオリン、地上での名前はアーサー・カリー。地上名は養父の名前を頂いたものである。特殊能力は、水陸両棲・テレパシーの他に、時速160キロで泳ぎ、怪力と耐久力に秀でている。また、音波による探査能力も有している。性格は短気」「アトランナ女王と魔術師アトランの間に誕生したオリンは、水棲生物とテレパシーで意思の疎通ができたが、それゆえに産まれてすぐに追放されてしまう。ポームというイルカに育てられた後、灯台守の地上人アーサー・カリーに拾われて地上人の言葉や文化を習った」と書かれています。

 元来、アクアマンはアトランナ女王と魔術師アトランの間に誕生し、灯台守の地上人アーサー・カリーに拾われたことになっていますが、この映画ではアトランナ女王と灯台守の間に生まれた子という設定に変更されています。
 映画評論家の牛津厚信氏も指摘していますが、映画「アクアマン」は出だしが見事です。シガー・ロスの楽曲に乗せて、灯台守と海底人との出会い。育まれる愛。そして新たな生命の誕生などがテンポ良く描かれています。わたしの好きなニコール・キッドマンがアトランナ女王に扮したのも嬉しかったです。

「アクアマン」では、アトランティス帝国の王の座をめぐって兄と弟が闘います。拙著『孔子とドラッカー新装版』(三五館)の「悌」の項にも書きましたが、 世の中には仲が悪く、対立している兄弟は多いです。しかし、もともとは同じ親から生まれているのですから、力を合わせればこんなに心強い味方はいません。

 わたしには弟が1人います。兄と違ってきわめて優秀な弟で、現役で合格した東大法学部を卒業した後は、大手の都市銀行に入って働いていました。現在は同じ会社にいます。年齢が6歳も離れていることもあり、子どもの頃からほとんど喧嘩はしませんでしたが、性格は同じ両親の子とは思えないほど正反対です。
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孔子とドラッカー新装版』(三五館)


よく、同じ会社に兄弟がいるのは良くないという人がいます。必ず対立して、会社がおかしくなり、結果として社員を不幸にしてしまうというのです。なるほど、それを実証するような事例はいくらでもあります。特に日本人は、古くは源頼朝と義経から、最近の若貴まで、とにかく兄弟を対立構造で見るのが好きです。
 しかし、わたしは非常に弟を頼りにしています。わたしが広告代理店出身で企画・営業向きだとしたら、銀行出身の弟は財務・管理向きで、それぞれの足らない部分をうまく補い合っていると思っています。でも、わたしのほうが助けられることが圧倒的に多いです。自分には過ぎた弟だと思っており、いつまでも一緒に仕事ができたらいいと心から願っています。

 さて、映画の中のアクアマンは人間と水棲人との間に生まれた存在です。人間と水棲人との恋といえば、一条真也の映画館「シェイプ・オブ・ウォーター」で紹介した映画が思い浮かびます。1962年、米ソ冷戦時代のアメリカで、政府の極秘研究所の清掃員として働く孤独なイライザ(サリー・ホーキンス)は、同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)と共に秘密の実験を目撃します。アマゾンで崇められていたという、人間ではない"彼"の特異な姿に心惹かれた彼女は、こっそり"彼"に会いにいくようになります。ところが"彼"は、もうすぐ実験の犠牲になることが決まっており、イライザは救おうとするのでした。映画「シェイプ・オブ・ウォーター」には、"彼"とイライザとの種族を越えた愛が描かれています。
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涙は世界で一番小さな海』(三五館)

 わたしは、「アクアマン」を観ながら、拙著『涙は世界で一番小さな海』(三五館)の内容を思い出していました。「童話の王様」と呼ばれたアンデルセンは、涙は「世界でいちばん小さな海」だといいました。「アクアマン」の中で、ニコール・キッドマン演じるアトランナ女王が「海中では涙は洗い流される」と言うと、灯台守が「地上では涙は頬をつたう」というシーンがあります。そして、わたしたちは、自分で小さな海をつくることができます。その小さな海は大きな海につながって、人類の心も深海でつながります。たとえ人類が、宗教や民族や国家によって、その心を分断されていても、いつかは深海において混ざり合うのです。

 まさに、その深海からアンデルセンの人魚姫はやって来ました。人類の心のもっとも深いところから人魚姫はやって来ました。彼女は、人間の王子と結ばれたいと願いますが、その願いはかなわず、水の泡となって消えます。

 孤独な「人魚姫」のイメージは、サン=テグジュペリの「星の王子さま」へと変わっていきました。王子さまは、いろんな星をめぐりましたが、だれとも友だちになることはできませんでした。でも、本当は王子さまは友だちがほしかったのです。7番目にやって来た地球で出会った「ぼく」と友だちになりたかったのです。
 星の王子さまとは何か。それは、異星人です。人間ではありません。人魚も人間ではありません。人間ではない彼らは一生懸命に人間と交わり、分かり合おうとしました。人間とのあいだにゆたかな関係を築こうとしたのです。それなのに、人間が人間と仲良くできなくてどうするのか。戦争などして、どうするのか。殺し合って、どうするのか。わたしは、心からそう思います。

涙は世界で一番小さな海』では、アンデルセンの『人魚姫』『マッチ売りの少女』、メーテルリンクの『青い鳥』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、サン=テグジュペリの『星の王子様』を取り上げ、それらのハートフル・ファンタジーがじつは繋がった1つの物語であることを説きました。アンデルセン、メーテルリンク、宮沢賢治、サン=テグジュぺリ...ハートフル・ファンタジー作家たちは「死」や「死後」や「再会」を描いて、わたしたちの心の不安をやさしく溶かしてくれます。それと同時に、生きているときによい人間関係をつくることの大切さを説いているように思います。
 そして、究極の人間関係が「夫婦」ではないかと、わたしは思います。同じ日に鑑賞した「ファースト・マン」も、この「アクアマン」も、ラストシーンでは、夫婦の感動的な再会が描かれていました。「夫婦が一緒にいることこそ、最高の幸福」であると、今年の5月20日で結婚30周年を迎えるわたしは思うのでした。