No.436


 TOHOシネマズシャンテでスリラー映画「グレタ GRETA」を見ました。スリラーというより、愛する人を亡くした人の悲嘆を描いたグリーフ映画であると思いました。

ヤフー映画
の「解説」には、こう書かれています。
「ある女性と親しくなったヒロインが戦慄の狂気に巻き込まれるサイコスリラー。メガホンを取ったのは『クライング・ゲーム』などのニール・ジョーダン。フランスを代表する女優イザベル・ユペールと『キック・アス』シリーズなどのクロエ・グレース・モレッツが主演を務め、『イット・フォローズ』などのマイカ・モンロー、ジョーダン監督作『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』『マイケル・コリンズ』などに出演してきたスティーヴン・レイらが共演」


 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「ニューヨークの高級レストランでウエイトレスをしているフランシス(クロエ・グレース・モレッツ)は、地下鉄に置き忘れられたバッグを発見する。持ち主で夫を亡くしたグレタ(イザベル・ユペール)の家まで届けたことをきっかけに、二人は互いの孤独を埋めるように親しくなっていく。ある日フランシスは、グレタの家の戸棚を開くと自分が届けたものと同じ届け主の名前入りのバッグが大量に並べられているのを目にする」

 この映画、ずばり、女性のサイコパスの物語なのです。しかしながら、グレタもフランシスも、愛する人を亡くしており、グリーフケアに関わる内容でした。思ったほど怖くはなかったです。テンポが非常に早くて、映画の開始早々にグレタがサイコパスだということがわかってしまうので、先の展開が見えてしまいました。これまで、ベティ・デイヴィスとジョーン・クロフォードの競演が話題を呼んだ「何がジェーンに起こったか」(1962)、クリント・イーストウッドの初監督作である「恐怖のメロディ」(1971)をはじめ、「ミザリー」(1990)、「推定無罪」(1990)、「氷の微笑」(1992)、「エスター」(2009)など多くのサイコ女が登場する映画がありました。

 一条真也の映画館「ゴーン・ガール」で紹介した映画などもそうですが、それら過去の作品に比べて、本作「グレタ GRETA」にはそれほどインパクトを感じませんでした。というのも、主人公グレタを演じたイザベル・ユペールが上品すぎて、あまり「怖い人」に見えないことも一因かもしれません。フランスの至宝にして歳を重ねる度に魅力が増していることで知られる女優ですが、じつは、彼女「エル ELLE」(2017)という映画でも危ない女を演じています。彼女が演じる主人公ミシェルは、新鋭ゲーム会社の社長です。一人暮らしの瀟洒な自宅で、彼女は覆面の男に襲われます。その後も、送り主不明の嫌がらせのメールが届き、誰かが留守中に侵入した形跡が残される自分の生活リズムを把握しているかのような犯行にミシェルは周囲を怪しみますが、じつは事件の真相よりもミシェルの本性が恐ろしかったのでした。監督は、サイコ映画の名作「氷の微笑」のポール・ヴァーホーヴェン です。

「グレタ GRETA」のもう1人の主人公は、グレタに狙われるフランシスです。クロエ・グレース・モレッツが演じましたが、とても美しかったです。「キック・アス」(2010)の頃から彼女には注目していましたが、「かわい子ちゃん」から「きれいなお姉さん」に見事に変貌を遂げましたね。クロエ・グレース・モレッツといえば、ホラー映画「キャリー」(2013)での怪演が印象的でした。こちらもサイコ映画ですが、サイコパスではなく、サイコキネシス(念動力)のほうです。1976年にブライアン・デ・パルマ監督の映画のリメイクで、原作は人気ホラー作家スティーヴン・キングの代表作です。サイコキネシスの持ち主であるいじめられっ子の少女が、抑圧されていた怒りや苦しみを爆発させたことから起きる恐怖と悲劇を描いています。「グレタ」では、クロエ・グレース・モレッツとイザベル・ユペールの演技合戦が唯一の見物ではないでしょうか。

 さて、いま、「グレタ」でネット検索すると、「グレタ・エルンマン・トゥーンベリ」という人名が真っ先にヒットします。彼女は16歳のスウェーデンの環境活動家で、主に地球温暖化によってもたらされるリスクを訴えています。公共の場や政治家、議会に対しての率直なスピーチで知られ、気候変動の危機に立ち向かうため、すぐさま行動を始めるように呼び掛けています 。また、両親に飛行機旅行を断念させたり、肉を食べないなどを説得するなど、日常生活でも二酸化炭素排出量の少ないライフスタイルを実践しているそうです。この彼女について、「いかれた大人から洗脳された少女」「子どもを使ったプロパガンダ」などの見方もあるようですが、一体どうなのでしょうね。わたしはこの問題に詳しくないのでコメントを差し控えますが、非常に興味深い人物ではあると思います。もし本当に洗脳されていたとしたら、映画のグレタよりも怖いかも......。