No.540


 公開されたばかりの映画「イン・ザ・ハイツ」を観ました。ニューヨークを舞台にしたブロードウェイ・ミュージカルの映画化です。上映時間が長いとか、ストーリーが凡庸とかのレビューが散見されますが、魂が叫ぶような歌とダンスが素晴らしかったので、ハッピーです!

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『モアナと伝説の海』などに携ったリン=マヌエル・ミランダによるブロードウェイ舞台劇を、彼自身の製作で映画化したミュージカル。ニューヨークの一角に暮らしながら、自分の夢を追いかける青年たちの姿を映し出す。メガホンを取るのは『クレイジー・リッチ!』などのジョン・M・チュウ。『アリー/スター誕生』などのアンソニー・ラモス、『ブラック・クランズマン』などのコーリー・ホーキンズのほか、レスリー・グレイス、メリッサ・バレラなどが出演する」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「ニューヨークの片隅にある街、ワシントン・ハイツ。祖国を離れてそこに暮らす人々は、ストリートに繰り出しては歌とダンスに興じていた。うだるような暑さだった真夏のある夜、大停電が発生。進学、仕事、恋で悩みを抱えながらも夢に向かってまい進していた若者4人の運命が、停電をきっかけに思わぬ方向へと動き出す」

 冒頭のパワフルな群衆ダンスと、若者たちが人生の問題に悩みながら前向きに生きるさまは、一条真也の映画館「ラ・ラ・ランド」で紹介したミュージカル映画の名作を連想しました。2016年に公開された「ラ・ラ・ランド」は、俳優志望とピアニストの恋愛を描いたミュージカル映画で、脚本・監督はデミアン・チャゼル、主演はライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが務めました。第89回アカデミー賞では「イヴの総て」(1950年)、「タイタニック」(1997年)に並ぶ史上最多14ノミネートを受け、監督賞、主演女優賞(エマ・ストーン)、撮影賞、作曲賞 、歌曲賞、美術賞の6部門を受賞した名作です。

「ラ・ラ・ランド」のオープニングでは、画面が横に長く広がり、「シネマスコープ55」と出るのですが、これは「略奪された七人の花嫁」「スタア誕生」「オクラホマ!」「回転木馬」「王様と私」などのハリウッド黄金時代のミュージカル大作に多く使われたワイドスクリーン方式であり、よってミュージカル・ルネッサンス宣言との見方ができます。また、「フォーリング・ダウン」「裏窓」「今晩は愛して頂戴ナ」「8½」「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」「ニューヨーク・ニューヨーク」「巴里のアメリカ人」、「雨に唄えば」という映画史上に残る数々の名作から引用されています。まるで、『ミュージカル映画事典』のような印象の作品ですね。一方の「イン・ザ・ハイツ」も、「ブルース・ブラザース」、「サタデー・ナイト・フィーバー」、「百万弗の人魚」、「恋愛準決勝戦」などの名作へのオマージュが感じられます。ジョン・M・チュウ監督のミュージカル映画愛が溢れていると言えるでしょう。

 もっとも、「ラ・ラ・ランド」の舞台はロサンゼルスで、「イン・ザ・ハイツ」はニューヨークです。ニューヨークが舞台のミュージカル映画といえば、やはりブロードウェイ舞台劇の映画化作品として有名な「ウエスト・サイド物語」(1961年)が思い浮かびます。ジェローム・ロビンズ原案、アーサー・ローレンツ脚本、レナード・バーンスタイン音楽、スティーヴン・ソンドハイム歌詞のブロードウェイ・ミュージカルは1957年の初演でした。シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」に着想し、当時のニューヨークの社会的背景を織り込みつつ、ポーランド系アメリカ人とプエルトリコ系アメリカ人との2つの異なる少年非行グループの抗争の犠牲となる若い男女の2日間の恋と死までを描きました。主題歌の「トゥナイト」は名曲として知られます。

「ウエスト・サイド物語」で、主演のナタリー・ウッドとリチャード・ベイマーはマンハッタンのアパートの非常階段で「トゥナイト」を歌います。「イン・ザ・ハイツ」にも同じような非常階段が登場しますが、若い男女がアパートの壁面も縦横無尽に自由に歩き回りながら歌うシーンが印象的でした。「ウエスト・サイド物語」では、「トゥナイト」に加えて、「アメリカ」「マンボ」「クール」「マリア」など映画の中で歌われる曲が多くの観客を魅了し、サウンドトラック・アルバムも空前の売り上げとなりました。「イン・ザ・ハイツ」のサントラ盤も大ヒットを記録するでしょうか?

 マンハッタンの片隅の街・ワシントン・ハイツでは、いたるところからいつも音楽が流れています。実際に存在する賑やかな移民の街ですが、彼らがプエルトリコ、メキシコ、ドミニカ、キューバなどの中南米の国々の国旗を掲げて激しく踊る狂う場面は圧巻できた。スクリーンから放たれる移民たちの熱気に生きるエネルギーを貰いました。「映画.com」で映画評論家の矢崎由紀子氏は、「オリジナルの舞台ミュージカルはブッシュ政権下で誕生し、トランプ政権下で映画化された。とくに、『違法に国境を越えた者は例外なく起訴する』というトランプ政権の不寛容政策が、映画に大きな影響を与えている。主人公ウスナビ(アンソニー・ラモス)の従兄弟の不法滞在がプロットに絡むのは、映画版のオリジナルだ」と書いています。

 ワシントン・ハイツで育ったウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニーはつまずきながらも自分の夢に踏み出そうとしていますが、ある時、街の住人たちに、住む場所を追われる危機が訪れます。これまでも幾度と困難に見舞われてきた彼らは今回も立ち上がります。そして突如起こった大停電の夜、夢に踏み出す4人の若者の運命が大きく動き出すのでした。4人の中でも、わたしが最も魅了されたのは美容サロンで働きながら、ファッションデザイナーを目指すヴァネッサです。メキシコ出身の女優メリッサ・バレラが演じました。彼女は演技、歌、ダンスをこなし、世界中から熱い視線を集める、アップカミングな女優であり、Netflixの新ドラマ「Breathe(原題)」で主演を務めることが発表になったばかり。

 また、メリッサ・バレラは、クリニークのグローバルアンバサダーにも就任しています。彼女が演じるヴァネッサは美しいだけでなく、夢をけっしてあきらめない不屈の精神の持ち主です。わたしはヴァネッサに、ある知人の日本女性の面影を重ねました。彼女は大のニューヨーク好きで、大の映画好き。ニューヨークで撮影された映画のロケ地を紹介するブログやYouTubeを立ち上げ、さらに大きな夢に向かって羽ばたこうとしています。すべての夢に向かって頑張っている人たちに、希望と感動のミュージカル映画「イン・ザ・ハイツ」をぜひ観てほしいですね!