No.527
日本映画「総理の夫」を観ました。コメディタッチの政治映画ですが、ブログ「MINAMATA-ミナマター」、ブログ「空白」で紹介した超ヘビーな映画の後に観たこともあり、エンターテインメントとして楽しめました。この映画は、あくまでも大人のおとぎ話です。おとぎ話ですから、王子様やお姫様が登場しますが、お姫様役の中谷美紀がとにかく美しくて、シビれました!
ヤフー映画の「解説」には、「原田マハの小説『総理の夫 First Gentleman』を原作にしたドラマ。知らぬ間に妻が史上初の女性総理大臣になっていた鳥類学者が、政治に翻弄されながらも夫婦一丸となってさまざまな障害を乗り越える。メガホンを取るのは『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~』などの河合勇人。『mellow メロウ』『哀愁しんでれら』などの田中圭、『繕い裁つ人』ドラマ「ハル ~総合商社の女~」などの中谷美紀が、主人公の夫婦を演じる」と書かれています。
ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「少数野党の党首を務める凛子(中谷美紀)を妻に持つ、鳥類学者の相馬日和(田中圭)。もし総理大臣になったら不都合はあるかと凛子に尋ねられた日和は、それを気に留めることもなく野鳥観察の出張に向かう。電波の届かない孤島で彼が10日にわたって野鳥観察をしている間、凛子は日本史上初の女性総理大臣に選出される。突如、総理の夫となってしまったことに戸惑いつつ、妻を全身全霊で支えようとする日和だが、夫婦の愛と絆を試されるような問題が次々と降りかかる」
現実の世界では自民党総裁選が盛り上がっており、決選投票がほぼ確実となっています。そこでは、高市早苗、野田聖子という2人の女性議員も立候補しています。もしかしたら史上初めて女性が自民党総裁、そして総理大臣になるかもしれない(難しいとは思いますが)わけで、史上初の「総理の夫」が誕生する可能性も出てきました。映画公開のタイミングとしては最高だと言えます。しかし、高市候補はすでに離婚されていて、配偶者はいません。野田候補には配偶者がいますが、いろいろと過去の経歴が騒がれています。しかし、野田候補は毅然として「彼を信じます」と発言されており、その夫婦の絆の強さにわたしは感銘を受けました。また、主演の女性総理を演じた中谷美紀にちょっとだけ外見の雰囲気が似ているのは同じ自民党でも丸川珠代・五輪担当大臣です。まあ、映画では連立政権で野党の党首が総理になるわけですが......。
映画「総理の夫」で描かれている政治の世界は、腹黒いベテラン政治家・原九郎(岸部一徳)の暗躍などもありますが、基本的にクリーンです。現実の政治は、佳境にある自民党総裁選を見てもよくわかるわけで、その意味でも「総理の夫」はおとぎ話なのです。でも、おとぎ話には夢があります。中谷美紀演じる相馬凛子は凛々しく、カッコ良く、そして、どこまでもどこまでも美しかったです。日々多くの映画を観るわたしは、スクリーンに美女が映ることには慣れていますが、この「総理の夫」の中谷美紀は本当に美しかったです。45歳にして、この圧倒的な美を発揮できる彼女はもはや「美の女神」じゃありませんか!
「総理の夫」の共演者たちも、中谷美紀のただならぬ美には圧倒されたようで、初日舞台挨拶で貫地谷しほりは「大階段を降りてくるシーンはすさまじく美しくて」とため息をつき、工藤阿須加は「家に帰ってすぐ母親に電話して、『あんなキレイな女性いる?』って言っちゃいました」と語っていました。一方、「美しい」「キレイ」と称賛された中谷美紀は、「『神々しく美しく』って台本に書いてあるから、しょうがないから照明をいっぱい当ててやったよ~みたいなことを仰っていて(笑)相当、苦労されたみたいです、照明さんとしては」と笑っていました。
中谷美紀は、女優デビュー前、テレビ朝日「桜っ子クラブ」内のアイドルグループ・桜っ子クラブさくら組の一員として、1991年から1993年まで音楽活動をしていました。1993年、テレビドラマ「ひとつ屋根の下」(フジテレビ)で女優デビュー。その後は、多くのテレビドラマや映画、さらに日本石油のCM出演で知られるようになります。1996年、ミュージシャン・坂本龍一のプロデュースによるシングルCD「MIND CIRCUS」をリリースし、音楽活動を再開。翌1997年3月には、"中谷美紀 with 坂本龍一"名義で発売した「砂の果実」が初のオリコンシングルチャートトップ10入りし、33万枚を売り上げています。
その後の中谷美紀は映画「リング」(1998年)「リング2」(1999年)の高野舞役で話題となり、1999年、自身初の主演テレビドラマ「ケイゾク」が放送され大ブレーク、以降は多くの映画に出演します。2004年から翌年にかけては、女性雑誌「anan」(マガジンハウス)に初の連載エッセイ 「男子禁制!?」を執筆。また、インド一人旅の旅行記、『インド旅行記』(幻冬舎文庫)も出版するなど、バラエティ豊かな才女ぶりを発揮しています。2005年には、山田孝之主演の映画「電車男」に出演し、ヒロイン「エルメス」役を演じました。この映画の原作となった小説 『電車男』には、「エルメスは中谷美紀に似ている」という記述があることにより、実写化においても彼女がエルメス役を演じたといいます。
映画では、「壬生義士伝」(2003年)、「ゼロの焦点」(2009年)、一条真也の映画館「利休にたずねよ」で紹介した2013年の映画で日本アカデミー賞優秀助演女優賞、「阪急電鉄~片道15分の奇跡~」で紹介した2011年の映画で同優秀主演女優賞を受賞していますが、なんといっても彼女の最高傑作は日本アカデミー最優秀主演女優賞に輝いた「嫌われ松子の一生」(2006年)でしょう。わたしは、この映画が大好きで、もう何度観たかわかりません。中谷美紀の演技力と女優魂には脱帽した記憶があります。その他、2011年には舞台「猟銃」で初舞台にして1人3役に挑み、第46回紀伊國屋演劇賞個人賞および第19回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞しています。2014年のNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」では黒田光を、30代で10代の役から演じました。このように中谷美紀という人は、超弩級の女優なのです!
2018年、中谷美紀は、ドイツ出身でウィーン国立歌劇場管弦楽団とウィーン・フィルハーモニー管弦楽団でビオラ奏者を務めるティロ・フェヒナーと国際結婚したことを明らかにしました。こんな才色兼備の女性と結婚できるなんて羨ましい男性もいたものですが、映画「総理の夫」では、中谷美紀よりも8歳も年下の37歳の田中圭と夫婦役を演じています。映画はこの夫婦の愛と絆の物語なのですが、「日本を救う最大のポイントは結婚にあり!」とわたしは考えています。ブログ「『GoToウエディング』の実施を!」でも書いたように、昨年、菅新首相が誕生したとき、わたしは日本人が結婚式を挙げやすい政策を立てていただきたいとお願いしました。
日本は、いま最大の国難に直面しています。それは新型コロナウイルスの問題でも、中国の領土侵犯の問題でも、北朝鮮のミサイル問題でもありません。より深刻なのが人口減少問題です。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が発表した「日本の将来推計人口」(2017年)によれば、一〇〇年も経たないうちに五〇〇〇万人ほどに減少することが予測されます。ベストセラーになった『未来の年表』の著者である大正大学客員教授の河合雅司氏は、「こんなに急激に人口が減るのは世界史において類例がない。われわれは、長い歴史にあって極めて特異な時代を生きているのである」と述べています。人口減少を食い止める最大の方法は、言うまでもなく、たくさん子どもを産むことです。そのためには、結婚するカップルがたくさん誕生しなければならないのですが、現代日本には「非婚化・晩婚化」という、「少子化」より手前の問題が潜んでいます。
『儀式論』(弘文堂)
わたしは、『儀式論』(弘文堂)において、人間は儀式という「かたち」によって不安定な「こころ」を安定させ、幸せになれるのではないかと述べました。儀式とは人間が幸福になるためのテクノロジーであると言えるでしょう。結婚式があるから、多くの人は婚約し、結婚します。結婚するから、子どもが生まれ、結果として少子化対策となります。結婚がなくなれば、子どもの出生が少なくなり、子どもが成長して大人となり、老いていって次の世代へ繋がることもなくなります。すなわち、結婚は生命のサイクルの起点なのです。観光や外食と違って、結婚式は社会の維持のために絶対に必要です。冠婚業はけっして単なるサービス産業ではありません。日本という国を継続させていくエンジンのような存在なのです!
映画「総理の夫」の夫婦は助け合って、支え合って、本当に理想の夫婦だと言えます。この映画は政治映画であると同時に夫婦映画でもありますが、「夫婦」という摩訶不思議なモノの正体をしっかりと示していると思いました。では、夫婦の正体とは何か。一条真也の読書館『困難な結婚』で紹介した内田樹氏の著書には、「結婚しておいてよかったとしみじみ思うのは『病めるとき』と『貧しきとき』です。結婚というのは、そういう人生の危機を生き延びるための安全保障なんです。結婚は『病気ベース・貧乏ベース』で考えるものです」とあります。わたしは「安全保障」よりも「相互扶助」と呼びたいです。そう、夫婦とは「世界で一番小さな互助会」ではないでしょうか。この映画を観て、そのような考えを改めて痛感しました。
ハフポスト日本版より
ハフポスト日本版が配信した「中谷美紀さんからの感謝に『なんで?』と返したパートナー。その後の言葉に『素敵な関係』と反響」という記事には、中谷美紀がTOKYO FM「ディア・フレンズ」にゲスト主演したときのコメントが紹介されています。話題が彼女のパートナーでヴィオラ奏者のティロ・フェヒナーさんとの生活について及ぶと、彼女は「どちらかが、どちらかの犠牲になるのではなくて、お互いに自由に仕事もしつつ、尊重し合って」という関係を築けていると明かしました。また、フェヒナーさんは「洗濯物も下着とかも干してくれる」といい、中谷さんがそれに対し「ありがとう」と感謝を伝えると、「なんでありがとうってお礼を言うの?これ、自分の仕事だし、一緒に暮らしてるんだから当然でしょ」との答えが返ってきたといいます。素晴らしいですね! まさに、夫婦は世界で一番小さな互助会です!
この映画の原作は、原田マハさんの小説です。アマゾンの内容紹介には、「20XX年、相馬凛子は42歳にして第111代総理大臣に選出された。夫である私・日和は鳥類研究家でありながらファースト・レディならぬファースト・ジェントルマンとして、妻を支えようと決意する。凛子は美貌、誠実で正義感にあふれ、率直な物言いも共感を呼んで支持率ばつぐん。だが税制、エネルギー、子育てなど、国民目線で女性にやさしい政策には、政財界の古くさいおじさん連中からやっかみの嵐。凛子が党首を務める直進党は議席を少数しか有せず、他党と連立を組んでいたのだが、政界のライバルたちはその隙をつき、思わぬ裏切りを画策し、こともあろうに日和へもその触手を伸ばしてきた。大荒れにして権謀術数うずまく国会で、凛子の理想は実現するのか? 山本周五郎賞作家が贈る政界エンターテインメント&夫婦愛の物語」と書かれています。面白そうなので、読んでみたいです!
映画「総理の夫」の終盤近くでは、凛子の総理辞任会見の席に日和が乱入し、全国民の前で妻への愛を叫ぶシーンがあります。そのセリフは聴く者の心に響く感動的なものでした。わたしは原作小説を読んでいないのですが、おそらくその感動的なセリフは原田マハさんの書かれた言葉だと思います。一条真也の読書館『本日は、お日柄もよく』で紹介した小説でも、わたしは原田さんの書かれた言葉に感動しました。同書はスピーチライターの物語なのですが、登場人物たちのセリフが非常に練られています。読んでいるうちに自分の言語感覚まで研ぎ澄まされてくるような気がしてきます。特に、絶望の淵にある人に対しての次の言葉には感動しました。
「困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。3時間後の君、涙がとまっている。24時間後の君、涙は乾いている。2日後の君、顔を上げている。3日後の君、歩きだしている」
『死を乗り越える名言ガイド』(現代書林)
この『本日は、お日柄もよく』に登場する言葉は、まさにグリーフケアにぴったりだと思いました。それもそのはず、この言葉はスピーチライターの久美が15歳のときに交通事故で両親を同時に失ったとき、某政治家が語りかけてくれた言葉なのでした。このグリーフケアの宝物のような言葉を、わたしは『死を乗り越える名言ガイド』(現代書林)の「はじめに」で紹介させていただきました。原田さんには一度だけお会いしたことがありますが、人気作家なのに気取らず、とても人間味あふれる方でした。人の心を打つ言葉を生み出すのは、結局はその人の人間性にかかっているのでしょう。
原田マハさんと