No.616
7月29日から公開のSF大作映画「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」をシネプレックス小倉で観ました。一条真也の映画館「ジュラシック・ワールド」、「ジュラシック・ワールド/炎の王国」で紹介した映画の続編で、「ジュラシック」シリーズとしては6作目となります。わたしは本シリーズの大ファンですが、今回も面白かったです!
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「現代によみがえった恐竜たちを描く『ジュラシック』シリーズ完結編。人類と恐竜たちが混在する世界を舞台に、両者の行く末が描かれる。監督などを務めるのは『ジュラシック・ワールド』などのコリン・トレヴォロウ。前作にも出演したクリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワードをはじめ、『ジュラシック』シリーズ初期作品のキャストに名を連ねていたローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラム、サム・ニールらが出演する」
ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「メイジー・ロックウッド(イザベラ・サーモン)の決断により、イスラ・ヌブラル島からアメリカ本土へ送られた恐竜たちが世界各地に解き放たれて4年が経過する。恐竜の保護活動に力を注ぐオーウェン(クリス・プラット)とクレア(ブライス・ダラス・ハワード)は、ロックウッド邸で保護したメイジーを大事に育ててきたが、ある日、メイジーがヴェロキラプトルとともに連れ去られる」
まず、この映画の前前作となる「ジュラシック・ワールド」(2015年)から振り返りましょう。スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務める「ジュラシック」シリーズ第4弾となるアドベンチャー大作です。恐竜をテーマにした巨大テーマパークを舞台に、遺伝子操作によって生み出された新種の恐竜が脱走、人間や恐竜を襲うさまを臨場感たっぷりに描き出しました。世界的な恐竜のテーマパーク「ジュラシック・ワールド」恐竜の飼育員オーウェン(クリス・プラット)が警告したにもかかわらず、パークの責任者であるクレア(ブライス・ダラス・ハワード)は遺伝子操作によって新種の恐竜インドミナス・レックスを誕生させます。知能も高い上に共食いもする凶暴なインドミナス。そんな凶暴なインドミナスが脱走してしまう事件が起こります......この作品の全世界のトータル興行収入は16億7000万ドルを突破、日本でも2015年度公開映画の"年間興行収入No.1"となる興収95億円というメガ・ヒットを記録しました。
前作となる「ジュラシック・ワールド/炎の王国」(2018年)は、「ジュラシック」シリーズ誕生25周年という節目を迎えた年に公開されました。前前作でハイブリッド恐竜インドミナス・レックスとT‐REXが死闘を繰り広げ崩壊したテーマパーク「ジュラシック・ワールド」を有するイスラ・ヌブラル島で「火山の大噴火」の予兆が捉えられていました。迫り来る危機的状況の中、人類は噴火すると知りつつも恐竜たちの生死を自然に委ねるか、自らの命を懸け救い出すかの究極の選択を迫られます。そんな中、恐竜行動学のエキスパート、オーウェン(クリス・プラット)はテーマパークの運営責任者だったクレア(ブライス・ダラス・ハワード)と共に、行動を起こす事を決意、島へ向かったその矢先に火山は大噴火を起こし、生き残りをかけた究極のアドベンチャーが繰り広げられます。
そして、「ジュラシック」シリーズ6作目となる「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」では、人間と恐竜との共生が描かれます。しかし、恐竜たちを管理するバイオシン社は、ひそかにイナゴの巨大化実験を企てていました。巨大化したイナゴの大群が各地に出現すれば、その農作物はすべて食い荒らされ、世界中で食糧危機が発生してしまいます。そんな罪深い行為に、なぜ、バイオシン社は手を染めるのか。それはやはり人類の命運を自分たちが握って、莫大な利益を得ようとするからでしょう。ハリウッドでは公害企業の隠蔽工作をジャーナリストや市民活動家が暴く映画がよく作られますが、「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」もそれらに似た企業告発映画の側面がありました。まあ得体の知れない悪の秘密結社などよりも金儲け主義の企業の方がリアリティがありますね。
イナゴの大群といえば、『旧約聖書』の「出エジプト記」10の第八の災い「イナゴ」が有名です。主はモーセに「あなたの手をエジプトの国に差し伸べなさい。イナゴが出て来て国中を覆い、雹の害を免れた物を食い尽くそう」と命じました。モーセが杖を上げると、神はまる一昼夜、東風を吹かせました。朝になると、東風がイナゴの大群を運んで来ました。イナゴはエジプト全土の隅々まで埋め尽くしました。エジプト史上、これほどのイナゴの大群は、後にも先にも一度も見ないものでした。 イナゴが全地を覆ったので、太陽の光もさえぎられて薄暗くなりました。雹の害を免れた作物は全部イナゴに食べられてしまいました。エジプト中の木や草が食い尽くされ、緑のものは何ひとつ残りませんでした。
イナゴは同じ『旧約聖書』の「ヨエル書」にも登場します。「ヨエル書」は、まさにイナゴの大群によってユダ王国に飢饉がやってきたときに記された書で、世の終わりのことがイナゴになぞらえながら書いてあります。終わりの日にやってくる災いはイナゴのように突然やってきて、あらゆるものを食い尽くしてしまうというのです。その後には神様の恵みがあるわけですが、イナゴが「世界の終わり」のシンボルであることは間違いありません。「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」にイナゴが登場する理由は、滅亡したはずの恐竜をバイオ・テクノロジーによって蘇らせることは、同じくバイオ・テクノロジーによって巨大イナゴを作って人類を滅亡させることに等しい、すなわち、どちらの「神への冒涜」であるということが言いたいのでしょうか?
「蝗害(こうがい)」という言葉があります。イナゴなどのバッタ類の大量発生によって起こる災害のことです。「蝗」という漢字は、バッタやイナゴと読みます。増殖したバッタは草木を食い荒らし、さらなる食料を求めて移動しながら、農産物などを食べ尽くしてしまいます。2020年2月頃には東アフリカを中心にサバクトビバッタが大量発生し、ソマリア政府は国家非常事態を宣言。被害はアフリカだけに収まらず、その後中東やアジア20カ国以上にまで広がっている。そんな危険な虫を巨大化する実験をするなど、まさに神への冒涜と言えますが、わたしはこれは「新型コロナウイルス」のメタファーであるとピンときました。イナゴの品種改良を企むバイオシン社の研究所は、武漢のウイルス研究所を連想させます。なお、新型コロナウイルスの発生とサバクトビバッタ大量発生には因果関係があるという説もあります。
でも、「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」の主役はイナゴではなく、やはり恐竜たちです。幼い頃にテレビの洋画劇場や映画館で観た「恐竜100万年」(1966年)、「恐竜時代」(1969年)、「恐竜グワンジ」(1969年)などの恐竜映画が大好きだったわたしにとって「ジュラシック」シリーズのリアルな恐竜たちの造形や動きはたまりません。ただ、これまでのシリーズ作品に比べて、恐竜よりも人間や企業の闇にスポットライトが当たっていた感はありました。それでも、カーチェイスならぬ恐竜チェイスはド迫力でしたし、ラスト近くの肉食恐竜同士の最強対決も見所満点でした。プロレス好きであるわたしは最強対決というと、昭和のプロレスを連想してしまいます。そして、T-REXはスタン・ハンセン、アロサウルスはブルーザー・ブロディ、そして今回登場する大型肉食恐竜ギガノトサウルスはアンドレ・ザ・ジャイアントの往年の雄姿に重なりました。彼らが繰り広げるバトルロイヤルはもう圧巻です!
『ハートフル・ソサエティ』(三五館)
最後に、クローン技術について。
この映画に登場する恐竜たちはクローン技術で太古から蘇った存在ですし、映画にはクローン技術で誕生した人間も出てきます。拙著『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の「神化するサイエンス」にも書きましたが、「クローン人間はできるか」という問題はすでに答えが出ています。文部科学省がインターネット上に設けたホームページは「可能」であることを前提にメリット、デメリットをあげています。もともと体外受精なども一種のクローン技術なのですが、羊やブタで成功したクローン技術を人間に応用するメリットは、人の発生や寿命、形態などの研究に役立ちます。子どもができない夫婦がどちらかの遺伝子を持つ子を持つことができるなどですね。
しかし、同時にクローン技術は私たちに倫理的な問題を鋭く突きつけます。男女が関わって、「天のはからい」というか、偶然性の中で子どもをつくるという倫理観の崩壊が予想されるほか、生まれてくる人の遺伝情報があらかじめわかることで、優れた資質を選ぶ優生思想を助長する可能性があるからです。また、特定の目的で人をつくり出すことで、人を道具とみなす危険も生じます。安全面でも、クローン動物の寿命は短いとも言われており、成長や老化に異常はないかなど、まだまだ不明の点が多いです。いずれにしろ今後は、クローン技術をはじめとした遺伝子テクノロジーが情報技術を含む他のテクノロジーすべてを圧倒して発展するでしょう。「ジュラシック」シリーズで描かれた世界が現実になる日も近いかもしれません。