No.687
3月6日、一条真也の映画館「丘の上の本屋さん」で紹介したイタリア映画を観た後、同じ劇場で上映されていたフランス映画「エッフェル塔~創造者の愛~」を続けて観てしまいました。シネスイッチ銀座は、ヨーロッパ映画が似合います!
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「パリの観光名所であるエッフェル塔の建造を手掛けたギュスターヴ・エッフェルの伝記ドラマ。資金不足や反対運動に振り回されながらも、エッフェル塔の完成に尽力した彼の姿を描く。監督はマルタン・ブルブロン。『キャメラを止めるな!』などのロマン・デュリス、『ナイル殺人事件』などのエマ・マッキー、『ソーリー・エンジェル』などのピエール・ドゥラドンシャンのほか、アルマンド・ブーランジェ、ブリュノ・ラファエリらが出演する」
ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「アメリカに贈られた自由の女神像の制作に協力した、ギュスターヴ・エッフェル(ロマン・デュリス)。1889年に開催されるパリ万国博覧会を数年後に控え、シンボルモニュメントの制作コンクールが催されるが彼は無関心だった。ところが、あるパーティーで友人の妻アドリエンヌ(エマ・マッキー)から「ぜひ見てみたい。野心作を」と言われて奮起。その席上で『パリの真ん中に300メートルの塔を全て金属で造る』と宣言する。その後もエッフェルが反対運動や資金不足にめげずにまい進する理由には、アドリエンヌとの秘めた過去が大きく関わっていた」
ニューヨークのシンボルである「自由の女神」、パリのシンボルである「エッフェル塔」。その2つの建造物に関わったギュスターヴ・エッフェルは、わたしにとって強く興味を惹かれる人物でした。その名の通り、一般にはエッフェル塔を設計した人物として知られますが、エッフェルはコンテストへのプラン提出責任者、その建設を受託したエッフェル社の代表でした。1832年12月15日一家の長男として、フランスのディジョンに生まれます。家系はアルザスから移住したドイツ系アルザス人。幼少期に目の不自由な祖母と暮した時期がありました。10歳の時、教会と風車がある箱庭を一人で造り、その見事さに人々は驚いたと伝えられています。建築の天才だったのでしょう。
映画の冒頭、「この物語は事実に基づいて想像を重ねた」といったようなことが書かれています。ですので、どこまでが史実なのかわかりませんが、アドリエンヌとのロマンスのエピソードは相当に脚色されているのでしょう。「エッフェル塔~創造者の愛~」は建築映画なのか恋愛映画なのかはっきりせず、またそのどちらも中途半端に描かれている感がありますが、アドリエンヌを演じたエマ・マッキーは非常に魅力的な女優さんでした。彼女は1996年、フランスのル・マンにフランス人の父親とイギリス人の母親の間に生まれました。
17歳で母の故郷イギリスに渡ったエマ・マッキーは、リーズ大学に入学し英文学を学びます。卒業後ロンドンに移り、女優としての活動を開始。2019年からスタートしたNetflixのテレビドラマ「セックス・エデュケーション」の反骨心が旺盛な女子高生メイヴ役に抜擢され、注目を集めました。 一条真也の映画館「ナイル殺人事件」で紹介した2022年の大作映画では、物語の核となるジャクリーン役を演じています。彼女はちょっとマーゴット・ロビーに似た華やかさを持っており、これから注目したいですね。
エッフェル塔は、フランスの首都・パリ7区、シャン・ド・マルス公園の北西に位置します。パリ万国博覧会に際して建設されたのですが、建設工事中のシーンですが、建築の素人にはよく面白さがわかりませんでした。長女の旦那が一級建築士なので、彼なら面白がるかもしれません。映画の中でエッフェルは何度も「わたしの塔ではない、みんなの塔だ」と言うのですが、その割には名称は設計および建設者である彼の名をとった「エッフェル塔」となりました。それにしても、エッフェル塔建設当時のパリ市民の反感ぶりは凄まじいものがありました。あれだけの大バッシングと資金難の中で、壮大な事業をやり遂げたエッフェルの鋼のメンタルには感服する他はありません。
エッフェル塔が完成したのは1889年ですが、フランス革命が勃発した1789年のちょうど100年後です。「ギロチン」から「エッフェル塔」へ......恐怖と混乱の時代を経たフランスにとって、それは自由と未来のシンボルだったのでしょう。そして、エッフェル塔の背後には多くの死者がいます。仏教のストゥーパではありませんが、わたしは天国を連想させる高い塔は墓としての性格を有していると思います。エッフェル塔はフランス革命やナポレオン戦争で命を落とした多くの死者たちに捧げられた墓碑銘のような気がしてなりません。同様に、東京タワーは太平洋戦争の犠牲者、2012年に開業した東京スカイツリーは前年の東日本大震災の犠牲者たちの慰霊・鎮魂のモニュメントであると感じています。エッフェル塔にはこれまで3億人が訪れたそうですが、わたしも3回上りました。今度訪れるのは、果たしていつでしょうか?
エッフェル塔を背景に夜のパリで(撮影:山下裕史)