No.730


 東京に来ています。いくつかの打ち合わせを終えた後で、TOHOシネマズシャンテで映画「探偵マーロウ」を観ました。今年で銀幕デビュー45周年、映画界の第一線で活躍し続けるリーアム・ニーソンが記念すべき100本目の出演作ということでこの映画をかなり楽しみにしていたのですが、画面が暗くて眠たくなり、上映時間中は睡魔との戦いという残念な結果となりました。
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『MEMORY メモリー』などのリーアム・ニーソン主演のミステリー。私立探偵のフィリップ・マーロウが、ある女性から失踪した愛人の捜索を依頼されたことをきっかけに映画産業の闇に飲まれていく。監督は『グレタ GRETA』などのニール・ジョーダン。『女は二度決断する』などのダイアン・クルーガー、『素敵な遺産相続』などのジェシカ・ラング、『スーサイド・スクワッド』などのアドウェール・アキノエ=アグバエのほか、ダニー・ヒューストン、アラン・カミングらが出演する」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「1939年、ロサンゼルス。私立探偵フィリップ・マーロウ(リーアム・ニーソン)のもとに、裕福そうな金髪の美女が現れて、突如姿を消した愛人を捜してほしいと依頼する。依頼を引き受けて愛人の足取りを追うマーロウだが、調べを進めるうちに映画産業の闇を知る」
 
 主人公のフィリップ・マーロウといえば、ハードボイルドの代表的作家であるアメリカの推理小説家レイモンド・チャンドラーが生み出した、ロサンゼルスの私立探偵です。シャーロック・ホームズと並んで世界的に有名な探偵界のアイコンであり、「ハードボイルド探偵」のシンボルでもあります。その風貌は身長183センチに体重86キロ、濃い褐色の髪に茶色の目をした二枚目俳優ケーリー・グラントを思わせる好男子です。これにトレンチコートを着て帽子をかぶり、好きなキャメルのタバコをふかしている姿は、ダンディなハードボイルド探偵のイメージとしてすっかり定着しました。
 
 主演の二ーソンがこの映画の出演時に71歳だったので、「ちょっとヨボヨボでは?」と思いましたが、原作ではフィリップ・マーロウの年齢は72歳であることを知りました。ハードボイルド探偵のシンボルは「おじいちゃん探偵」だったのですね。映画の中で、ハリウッド女優の母娘と同席していたとき、マーロウは母親から「娘は枯れ専だから、あなたを気に入るかもよ」と言われます。「デブ専」というのはよく聞きますが、「枯れ専」というのは初めてです。しかし、ひどいことを言うものですね。
 
 アクションシーンもありましたが、さすがにマーロウの年齢が72歳の設定で、演じるニーソンも71歳とあっては迫力満点とはいきません。一条真也の映画館「MEMORY メモリー」で紹介したニーソン主演の前作映画はアクション映画で、見どころは銃撃戦などでした。それなりに迫力はありましたが、主人公を演じたニーソンが高齢なので、やはりヨボヨボ感が気になりました。彼を捕まえたメキシコの地元の刑事から「警官殺しの罪は重い。刑務所でカマを掘られ続けろ!」と言われるシーンがあるのですが、わたしは「おいおい、メキシコの刑務所って、おじいちゃんのカマを掘るのかよ!」と思ってしまいました。
 
 マーロウはダンディズムの象徴なので、女性にモテるようです。でも、「探偵マーロウ」では、マーロウが美女とダンスするシーンはありましたが、ラブシーンはありませんでした。原作の彼は金や女性などいかなる誘惑にも屈しない誇り高き正義の騎士で、しかもハンサムなためいつも女性からは人気がありますが、依頼人とは必要以上に親しくならないのが彼の流儀だそうです。「MEMORY メモリー」では、ニーソン演じるアレックスがホテルのBARで知り合った美女とラブアフェアをするシーンを「何だかなあ...」と思いながら観ていたので、「探偵マーロウ」に色恋シーンがなかったのは救われた思いがしました。やはり、男も70代になったら枯れないと!
 
 フィリップ・マーロウを演じたリーアム・ニーソンは名優です。1952年生まれの彼は、ダブリンのアビー・シアターの一員になり、舞台俳優としてキャリアをスタートさせました。映画監督ジョン・ブアマンに見出されて、1981年に「エクスカリバー」で映画デビュー。1993年公開のスティーヴン・スピルバーグ監督映画「シンドラーのリスト」でオスカー・シンドラーを演じてアカデミー主演男優賞にノミネート。また、同年には「アンナ・クリスティ」でブロードウェイデビューを果たし、トニー賞にノミネートされています。1996年公開の「マイケル・コリンズ」でマイケル・コリンズを演じてヴェネツィア国際映画祭の男優賞を受賞。1999年公開の「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」ではジェダイマスターのクワイ=ガン・ジンを演じました。
 
 村上春樹氏が自ら翻訳を手掛けるほど、こよなく愛する巨匠作家レイモンド・チャンドラー。そのチャンドラーが1930年代に生み出した私立探偵フィリップ・マーロウはタフで孤独なジェントルマンです。『大いなる眠り』『さらば愛しき女よ』『高い窓』『湖中の女』『かわいい女』『長いお別れ』『プレイバック』の7長編といくつかの中編に登場しますが、そのほとんどが映画化され、中でも名優ハンフリー・ボガードが演じたマーロウは大変な人気を集めました。特に、ハワード・ホークス監督のサスペンス映画「三つ数えろ」(1946年)に主演したことが有名で、共演はローレン・バコールでした。原作はチャンドラーの『大いなる眠り』ですが、プロットが大変込み入っていることでも知られています。「三つ数えろ」は、1997年にアメリカ国立フィルム登録簿に登録されました。
 
 マーロウはオレゴン大学に在籍後保険会社の調査員を経て、ロサンゼルス地方検察局のタガート・ワイルド検事の調査員として働いていましたが、「口答えが多い」という理由で一方的に解雇。そのことをきっかけにして独立し、ハリウッド・ブルーヴァードのビル7階に私立探偵事務所を開業します。警察に対しても服従しないのがポリシーですが、金や政治という複雑な背景があって私立探偵という商売が成立している面も認識しており、慎重に事件を調べる癖があります。反面、弱い者に対して非情に切り捨てる事ができないために悪党に弱みを握られることもあります。拳銃を所有しているが、普段は携行しておらず、滅多に撃つことはありません。次にマーロウを演じる俳優は誰でしょうか?