No.791
Netflix韓国映画「バレリーナ」(独占配信中)を観ました。今年はすでに130本近くの映画を観ていますが、ほとんどは映画館での鑑賞で、Netflix映画を観るのは久々です。映画評論家の町山智浩氏がYouTube動画で推薦していたので、観てみたいと思いました。93分と短い映画ですが、シンプルな復讐劇で面白かったです。ヒロインの暴れっぷりにスカッとしました。
「CALL/ザ・コール」(2020年)などのイ・チュンヒョン監督がメガホンを取っています。「バーニング 劇場版」(2018年)などのチョン・ジョンソが主演、「その恋、断固お断りします」(2022年)などのキム・ジフンや、一条真也の映画館「ドライブ・マイ・カー」で紹介した2021年の日本映画のパク・ユリムが共演しています。10月6日より配信が開始され、前週のランキングでは初登場3位を記録。2週目にして、本国・韓国や日本をはじめ、ブラジル、ジャマイカ、香港、台湾、シンガポールなど17の国と地域で第1位を獲得し、89の国と地域でトップ10入りを果たしました。
「バレリーナ」は、凄腕の元要人警護員オクジュ(チョン・ジョンソ)が親友の仇を討とうとする復讐劇です。彼女が残した最期の願いをかなえるため、美しく壮絶な復讐計画を実行に移し始める。再会をきっかけに友情を深め、親友となったオクジュと同級生チェ・ミニでしたが、ある日、ミニは自ら命を絶ってしまいます。親友を守ることができず、深い悲しみに暮れるオクジュ。親友が残した最期の願いをかなえるべく、オクジュは美しく壮絶な復讐計画を実行するのでした。
この映画、女性が韓国のヤクザのような悪い奴らから性加害を超えた残酷な仕打ちを受ける話なのですが、そのために自殺した親友の仇を討とうとする主人公オグジュがとにかく強いのです。コンビニに強盗が入る冒頭シーンから、ずっと強い女であり続けます。素手での格闘シーンも、銃撃シーンも非常に様になっていて、チョン・ジョンソが希代のアクション女優であることを示していました。
わたしは男ですが、強い女を見ると嬉しくなってきます。この映画を観て、わたしと同い年のクエンティン・タランティーノの映画を連想しました。タランティーノは寡作な監督で、1990年代前半、入り組んだプロットと犯罪と暴力の姿を描いた作品で一躍脚光を浴びました。そして、彼は女性を主人公、強い存在として描いてきました。「ジャッキー・ブラウン」(1998年)も「キル・ビルvol.1」(2003年)、「キル・ビルvol.2」(2004年)も、みんなそうです。「キル・ビル」は香港映画、特にブルース・リーへのオマージュといえるアクション超大作で、主演ユマ・サーマンの好演もあって世界的に大ヒットしました。「バレリーナ」のチョン・ジョンソの姿がユマ・サーマンのそれに重なりました。
今年、わたしはある日本映画を観て「なんか、タランティーノっぽいなあ!」と思ったのですが、それは一条真也の映画館「リボルバー・リリー」で紹介した東映のアクション超大作です。行定勲監督作品で、大正時代の東京を舞台に女性スパイが躍動します。1924年。関東大震災から復興する東京には、モダンな建物が増え、繁華街は賑わっていました。3年で57人の殺害に関与した元スパイの百合(綾瀬はるか)は、銘酒屋の女将をしていました。彼女はある日、家族を殺され、父親に託された陸軍資金の鍵を握る少年に助けを求められるのでした。まさにハードボイルドそのものの映画です。ハードボイルドといえば男の世界と相場が決まっていましたが、「リボルバー・リリー」は「男が作った不完全な世界を女が終わらせる物語」です。「強い女」を描くタランティーノの精神は日本映画や韓国映画に受け継がれたのかもしれません。
ネットでは、チョン・ジョンソ扮するオグジュが大人数の男たちを相手に戦う近距離でのガンアクションを、キアヌ・リーヴス主演の「ジョン・ウィック」(2014年)の女性版と見る意見も多いようです。じつは、わたしは「ジョン・ウィック」を観ていないので何とも言えないのですが、本家「ジョン・ウィック」シリーズのスピンオフとなるアナ・デ・アルマス主演の映画「バレリーナ(原題)」が、2024年6月7日から公開されるそうです。「ジョン・ウィック パラベラム」(2019年)のシェイ・ハッテンが執筆した脚本をもとに、「ダイ・ハード4.0」(2007年)や「トータル・リコール」(2012年)のレン・ワイズマンが監督。アルマス演じる主人公の女性が、愛する家族を殺害した殺し屋たちへの復讐を果たすべく暗殺者としてのスキルを開花させていく物語で、キアヌ・リーブスもジョン・ウィック役で出演するとか。
韓国版「バレリーナ」の出演者では、チョン・ジョンソの他に、キム・ジフンの存在感が光っていました。彼は1981年5月9日生まれ、慶尚北道出身。アイドルをめざして音楽事務所MSエンターテインメントの練習生となり、東方神起のユンホやキム・ジュンスらとレッスンしていたこともあったとか。しかし、歌手としての限界を感じて俳優へと転向します。2002年、ドラマ「Loving You」で俳優デビュー。多くのロマンス作品で活躍し、「週末ドラマのプリンス」として人気者となりました。わたしは、彼を見て、かつて日本でフジテレビの月曜午後9時のドラマである「月9」の代名詞であった(有吉弘行は『月9バカ』と呼んだ)木村拓哉を連想しました。
特に、「バレリーナ」でキム・ジフンが演じた女たらしのヤクザ者は長髪のイケメンで、かつてのキムタクにそっくりでした。キムタクは「何を演じてもキムタク」とか「カッコばかりつけている」などと言われていますが、キム・ジフンは違います。「週末ドラマのプリンス」として知的で甘い役が続いた彼ですが、2018年には事務所を移籍。「バベル~愛と復讐の螺旋~」(2019年)、「悪の花」(2020年)での悪役演技で高く評価され、新境地を切り開きました。「悪の花」でキム・ジフンが演じたのは、過去の殺人事件をめぐる重要人物。イ・ジュンギ扮する主人公を追い詰める悪役として、鮮烈な印象を残しました。続くNetflix「ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え」(2022年)でも、キム・ジフンは物語の大きな鍵を握る強盗団の1人、ストリートファイター出身のデンバーを怪演しています。
それに引き換え、キムタクは50歳になった今もカッコいい主人公にこだわっている感があります。旧ジャニーズ事務所の後輩である岡田准一も、二宮和也も、事務所からの退所を決めたのは俳優として一人で生きていく覚悟の表れかと思いますが、キムタクにはそれもありません。工藤静香という妻がそれを許さないのかもしれません。比較しては酷でしょうが、一条真也の映画館「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」で紹介した206分の超大作映画で主演したレオナルド・ディカプリオの役者魂は凄いです。二枚目の役が多いのに、これ以上ないほどダメな男の役も演じ切っていました。しかも元々はFBIの視点でストーリーが進む予定で、ディカプリオは捜査官役でオファーされていたそうです。それを自ら汚れ役のアーネストを演じたいと申し出たとか。キムタクにも見習ってほしいものですね。
Netflix「バレリーナ」本編より
最後に、久々に観たNetflix映画でしたが、早々に字幕の間違いを発見してしまい、白けてしまいました。主人公のオグジュが親友のバレリーナの部屋に入り、箱に入ったバレエシューズを見つけるシーンがあります。箱の中には一緒に手紙が入っており、そこにはハングル文字でメッセージが綴られていました。Netflixの翻訳では「必ず復習して」となっているのですが、これは明らかに「必ず復讐して」の間違いでしね。実際、予告編の字幕では「復讐して」にちゃんと直っていました。間違いに気づいたのなら、本編の字幕も修正するればいいのに、意外とネトフリも杜撰ですね。こういうのは観ていて引いてしまうので、本当に気をつけた方がいいと思います。
Netflix「バレリーナ」予告編より