No.830


 1月13日、日本映画「ある閉ざされた雪の山荘で」をシネプレックス小倉で鑑賞。拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)が原案のグリーフケア映画「君の忘れ方」の主演女優である西野七瀬さんの出演作と知り、観ることにしました。西野さんは魅力的でしたが、映画そのものは面白くなかったです。原作者が東野圭吾氏と知って少しは期待したのですが、シナリオが悪いせいか、ストーリー展開に無理がありすぎましたね。
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『禁じられた遊び』などの重岡大毅が主演を務め、東野圭吾の小説を原作に描くサスペンス。大雪で外部との接触が断たれた山荘という設定の空間に集められた7人の役者たちが、実際に次々と姿を消していく。監督などを担当するのは『宇宙人のあいつ』などの飯塚健。『あまろっく』などの中条あやみ、『笑いのカイブツ』などの岡山天音のほか、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、森川葵らがキャストに名を連ねる」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「オーディションに合格した男女7人の役者が、早春の乗鞍高原のペンションに集まる。大雪に見舞われ、孤立した山荘が舞台の殺人劇という設定の舞台稽古がスタートするが、現実の世界でも一人また一人と参加者たちが消えていく。これは本当に芝居なのだろうかという疑心が、やがて役者たちの間に生まれていく」
 
 ミステリーなのでネタバレするわけにはいきませんが、殺人の首謀者の動機も、殺人方法も、その他の細かい点もすべてに無理があって、リアリティがまったく感じられませんでした。天下の東野圭吾がそんな杜撰な物語を書くかなと思って、原作のレビューなども読んでみました。結果、原作はミステリー小説としてしっかり成立しているのに、シナリオが最悪であることが判明。原作既読の映画レビューもチェックしましたが、どうやら原作の名前を借りただけの別作品だったようですね。これでは、西野七瀬さんをはじめとした出演陣も気の毒ですね。
 
 原作小説は1992年3月5日に講談社ノベルスとして単行本が発行され、1996年に講談社文庫から文庫本が発行されています。もう30年以上の前の小説なわけですから、そのまま映画化するのは難しいですね。タイトルに「閉ざされた雪の山荘」とありますが、実際の作中のシチュエーションは雪など降っておらず閉じ込められてもいません。しかし、劇団の舞台練習という形をとることで、仮想の「吹雪の山荘」というクローズドサークルが形成されるという異色の設定が使われています。でも、映画を観たとき、わたしは「なんだ、本当に閉ざされた雪の山荘が舞台じゃないんだ...」と違和感をおぼえました。小説ならよくても、映画にこのタイトルはまずいと思います。
 
 主人公を含めた7名の若者たちはオーディションに合格した劇団員であり、演出家の厳命により外部との連絡を行えない状況下で、「吹雪の山荘」にいると想定して演技を続けることを強いられます。その演出家の指示の仕方は現代風にアレンジされているのですが、あまりにも芝居がかっていて滑稽でした。演出家の声も芝居がかっており、興覚めしました。しかし、劇団員たちは演出家の機嫌を損ねて、抜擢された役を降ろされることを恐れており、外部と連絡を取ったり帰ったりすることができない心理状態に追い込まれます。不自然な設定ではありますが。
 
 そんな中、1人ずつメンバーが消息不明になっていき、彼らが殺害された状況を説明するメッセージが残されます。最初こそ、残された者たちはそれが「舞台練習のための追加設定」だと思っていましたが、次第に「本当に殺人事件が起こっているのではないか?」と疑うようになっていくのでした。劇中では、アガサ・クリスティの古典ミステリーである『そして誰もいなくなった』が山荘に7冊用意され、彼らはそれぞれ読みます。しかし、その伏線がまったく回収されず、観ていてフラストレーションを感じました。これ以上詳しく説明するとネタバレになるので控えますが、劇中で「頭二つ抜けている」という設定の森川葵の演技はあまりにもオーバーで、笑ってしまいました。
 
 一条真也の映画館「禁じられた遊び」で紹介したホラー映画で主演した重岡大毅がまたも主演を務めていましたが、彼は旧ジャニーズ事務所の所属です。その彼が演じる久我和幸と間宮祥太朗演じる本多雄一がアリバイ作りのために一夜を共にしたとき、「そっちの趣味があったのか? 俺はあっちだけど」「いや、俺もあっちですよ」と同性愛ネタのギャクが展開されたのは笑えました。ただし、ジャニー喜多川から性加害に遭った被害者のことを考えたら不謹慎かもしれませんね。最近では、ジャニーズ事務所だけでなく、吉本興業も性加害スキャンダルで激震していますが、芸能界そのものがブラックであるというイメージが広まってしまいましたね。この映画でも、女優が役を得るために演出家と寝る設定が登場しますが、「劇団あるある」であるにしろ、嫌な気分になりました。