No.836
延岡から帰ってきた夜、シネプレックス小倉で日本映画「カラオケ行こ!」のレイトショーを観ました。雪も降った厳寒の夜にもかかわらず、5番シアターはほぼ満席近い状態。ネットでの評価も非常に高いのですが、実際に観た感想は「うーん、まあまあかな?」でした。シナリオに難はありましたが、主演の2人は良かったです!
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「ドラマ『夢中さ、きみに。』やアニメ『女の園の星』の原作などで知られる和山やまの漫画を実写映画化。とある事情から歌がうまくなりたいヤクザと、彼の歌の指導をすることになってしまった中学生の交流を描く。『オーバー・フェンス』などの山下敦弘がメガホンを取り、『罪の声』などの野木亜紀子が脚本を担当。中学生に歌の指導を頼むヤクザを『ヤクザと家族 The Family』などの綾野剛、彼に歌を教える中学生をオーディションで抜てきされた齋藤潤が演じる」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「合唱コンクールの強豪校・森丘中学校合唱部部長の岡聡実(齋藤潤)は、ある雨の日、ヤクザの成田狂児(綾野剛)から突然カラオケに誘われる。狂児は組主催のカラオケ大会で最下位になった者への罰ゲームを回避するため、何としても歌がうまくなりたいと言い、聡実に歌の指導を頼み込む。不本意ながらも狂児に歌のレッスンを行う聡実だったが、やがて二人の間に奇妙な友情が芽生えていく」
この映画、ツッコミどころは多いですが、まず「歌がうまくなりたいヤクザ」という設定の成田狂児を演じた綾野剛が歌がうまいこと。(笑)映画の中で彼が最初に歌うシーンとなる「紅」の歌い出しはフツーにうまいですし、サビで音程が狂う箇所もわざと下手に歌っている感じでした。齋藤潤演じる岡聡実から「もっと、狂児さんの声や音域に合った歌を選曲した方がいい」とアドバイスされて歌ってみた寺尾聡「ルビーの指輪」、斉藤和義「歩いて帰ろう」、井上陽水「少年時代」なんか、ものすごくうまかったです!綾野剛その人に歌唱力があるのは明らかで、狂児役の俳優は本物の音痴を起用すべきだったのでは?
それにしても、狂児が親の仇のように固執する「紅」は非常に難易度の高い歌ですね。じつは、わたしはカラオケ・レパートリーが1000曲以上あるのですが、「紅」は歌ったことがありませんし、歌っても自分に合わないと思います。この歌は作者であるYOSHIKIが父親を思って書いた曲とされています。彼が10歳のとき、彼の父は自死しました。それに対し、YOSHIKIは「父に対して、愛、恋しさ、怒りがミックスされている」と語っています。一種の鎮魂歌だと言えますが、エンドロールでLittle Glee Monsterが歌った「紅」は優しいグリーフケア・ソングのように聴こえました。
漫画が原作ということもあってか、「カラオケ行こ!」のストーリーはちょっとリアリティに欠けるところがあります。カラオケ好きのヤクザの組長の誕生日に組員全員参加のカラオケ大会が開催され、最も歌が下手だった者には組長自身から恥ずかしい絵柄の刺青を彫られるというのです。それを避けるべく、ヤクザたちはみんなカラオケの練習に励むのですが、どいつもこいつも音痴ばかり。この面子の中にあっては、狂児は最下位どころかダントツでナンバーワンだと思うのは、わたしだけではありますまい。あと、組長のレパートリーは絶対に歌ってはいけないことというルールは納得できるものの、サブちゃんこと北島三郎の歌もタブーだそうです。その理由は、組長がサブちゃんを心から尊敬しているからだとか。それは、わたしと同じですね。ちなみに、サブちゃんの数多くの名曲の中でも、わたしのカラオケ十八番は「まつり」です!
綾野剛のヤクザ役はぴったりハマっていました。彼は黒づくめのヤクザ・ファッションが本当によく似合いますね。彼は一条真也の映画館「ヤクザと家族 The Family」で紹介した2021年公開の日本映画で主演していますが、オワコンとなったヤクザ稼業の哀れさを見事に表現していました。彼の役者人生も少し前まで危機的状況にありました。例の「ガーシー騒動」です。元参議院議員の「ガーシー」こと東谷義和容疑者が逮捕されたきっかけのひとつに、彼から誹謗中傷の被害を受けた著名人が訴え出たという経緯があります。その中の1人が俳優の綾野剛でした。ガーシー容疑者がYoutubeで暴露を続けていたなかで、特に被弾を浴びていたのが綾野だったのです。ガーシーが逮捕されて、彼はホッと胸を撫で下ろしたことでしょうね。
中学校合唱部部長の岡聡実を演じた齋藤潤は、すごく良かったです。彼は現在16歳ですが、その才能を綾野剛が絶賛しています。「クランクイン!!」のインタビューで、「綾野さんから見て、齋藤さんはどのような印象ですか? 弟みたいな感覚でしょうか?」という質問がありましたが、綾野は「弟みたいな目線で見ているということではないです。1人の役者として尊敬しています。年齢は離れていますが、1人の役者として、今後も注目し続けますし、お互い成長した姿でまた共演したいです。ドラマに潤くんが出ていると観てしまうんです」と語っています。また、齋藤潤が語ったところによると、彼自身に聡実と共通点がいろいろとあったので、自分と重ね合わせながら演じていきたいと思っていたそうです。さらに齋藤は、「作品の中で聡実が1番多くのキャラクターと関わりますし、思春期で感情がぐちゃぐちゃになるシーンもあったので、丁寧に考えてお芝居をしたいと思い、人との関係性や距離感を繊細に演じようと」と言います。
「ご自身との共通点はどういったところに感じていらっしゃったのですか?」というインタビュアーの質問に対しては、齋藤は「聡実は合唱部の部長で、変声期で声が出ないことに責任を感じていますが、僕はこの映画の主人公を務めさせていただくという責任がある。聡実と狂児が主軸となってこのお話は回っていきますが、その1人を僕が任されているというプレッシャーや覚悟とリンクするものがありました」と答えています。最後に、狂児と聡実はずっとLINEで繋がっていましたが、あるとき、狂児のLINEが繋がらなくなります。心配する聡実に対して、彼の友人が「その人、幻だったんじゃないの?」と言うシーンが印象的でした。わたしも現在、大切な人たちとLINEで繋がっていますが、突然交流が絶たれて「あの人、幻だったのか?」と思うことを想像しただけで悲しくなります。LINEで繋がっている人を大切にしたいと思いました。
シネプレックス小倉のエレベーター