No.902


 6月22日、ブログ「中尾ミエさんにお会いしました!」で紹介した素敵なレディにお会いした夜、日本映画「九十歳。何がめでたい」をシネプレックス小倉で観ました。役柄と同じく90歳の草笛光子が最高で、すごく面白かったです。大笑いした後にホロリと泣けました。一条真也の映画館「そして、バトンは渡された」「老後の資金がありません」で紹介した映画と同じく前田哲監督の作品です。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「小説家・佐藤愛子のエッセイ『九十歳。何がめでたい』『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』を原作にしたコメディードラマ。断筆していた90歳の作家の人生が、社会への怒りをつづったエッセイによって大きく変わり始める。メガホンを取るのは『大名倒産』などの前田哲。前田監督作『老後の資金がありません!』にも出演した草笛光子、『杉原千畝 スギハラチウネ』などの唐沢寿明のほか、木村多江、真矢ミキらが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「数々の文学賞を受賞してきた小説家の佐藤愛子(草笛光子)は、90歳を過ぎて断筆し、それをきっかけに人付き合いも減り、鬱々とした気持ちを抱えながら日々を過ごしていた。そんな彼女のもとへ編集者の吉川真也が訪ねてきて、エッセイの執筆を依頼する。依頼を受けた愛子は、世の中に対して感じる怒りを『いちいちうるせえ!』などと赤裸々につづるが、そのエッセイは評判を呼び、彼女の人生は大きく変わり始める」
 
 原作である佐藤愛子著『九十歳。何がめでたい』のアマゾンの「出版社からのコメント」には、「歌舞伎役者で人間国宝の二代目・中村吉右衛門さんは、本書について『週刊ポスト』16年10月28日号のインタビューで『人間として守るべきものを教えてくれる本』と評してくださいました。実は佐藤愛子さんは吉右衛門さんの大ファン。吉右衛門さんの言葉に殊の外喜んでいらっしゃいました。収録されたエッセイの中には、15年に大阪・寝屋川市で起きた中学1年の少年少女殺害事件や、16年に発覚した広島・府中市の中学3年生の『万引えん罪』自殺問題から、高嶋ちさ子さんのゲーム機バキバキ事件や橋下徹元大阪市長のテレビ復帰に至るまで、折々の出来事と世間の反応について歯に衣着せぬ物言いで迫ったものもあります。とりわけそうした時評からは、怒れる作家と称される佐藤さんのあたたかな眼差しが心に沁み入ります。世間で論じられていた視点とは全く違う、佐藤さんならではの視点にも注目してください」と書かれています。
 
 映画「九十歳。何がめでたい」は、作家業界の裏話としてもすごく面白かったです。断筆宣言をした主人公に編集者たちがエッセイ連載の依頼に訪れるのですが、いずれも行列ができる人気店のサブレやどら焼きなどの手土産を持参します。草笛光子演じる佐藤愛子は、それらの手土産をしっかり受け取りながら「連載はお断りします!」と言い放つのですが、わたしは正直言って「ちょっとエゲツないなあ」と思いました。ハナから書く気がないなら編集者とは会わず、手土産も受け取るべきではないのでは?
 
 この映画で主人公の佐藤愛子が口にする正論の数々には、胸のすく思いがしました。近頃の若い者は何でもスマホで答えを得ようとすることへの不満にも共感しました。彼女のふるまいは一見、「老害」のようにも見えます。しかし、人間社会の普遍性をよくとらえている賢者の言葉だと思いました。そもそも、「老害」などという言葉は、人は老いるほど豊かになる「老福」をめざすべき、というわたしの考え方とは相容れません。そして、作家である彼女が幸せに生きる秘訣は、やはり書くことにありました。
 
 この映画は、作家と編集者との関係性という意味でも興味深かったです。わたしも多くの編集者の方々とお仕事をしてきましたが、作家と編集者というのは仕事を超えた人生のパートナーという思いがあります。この映画では、昔ながらの頑固な編集者・古川真也を唐沢寿明が演じています。「人生100年といいますが、あと50年もある」との発言から、この編集者の年齢は約50歳であることがわかりますが、実際の唐沢寿明はわたしと同じ61歳です。映画の中で、彼が愛子先生に「俺、いい爺さんになれますかね?」と訊ねるシーンでは、愛子の「いい爺さんなんかつまらない。面白い爺さんになりなさい!」という答えがナイスでした。わたしも、面白い爺さんになりたいです!
 
 この映画を観て、いろんな想いが心の中で錯綜しました。愛子の愛犬ハチのエピソードは、わが愛犬ハリーを思い出して泣けてきました。また、愛子も古川も亥年とのことですが、昨年米寿を迎えたわが父も亥年です。父は現在88歳ですが、すっかり体力が衰えてしまいました。この映画のラストは愛子が旭日小綬章を受章して、その記者会見のシーンで終わります。彼女が古川へのメッセージを語る素敵な記者会見でした。愛子と同じく旭日小綬章を受章した父には、なんとか90歳の卒寿を迎えてほしいです。

町田先生に90歳まで書いていただきたい!



 あと、断筆宣言をして生きる屍のようになっていた愛子がエッセイの連載を引き受けたことによって生き生きと蘇ったことには感動をおぼえました。やはり、作家とは書くための存在であり、作家にとっては書くことが生きることそのものなのです。現在わたしが今最も期待している作家さんは、ブログ「町田そのこ氏と対談しました」で紹介した本屋大賞作家の町田そのこさんです。一条真也の読書館『52ヘルツのクジラたち』『ぎょらん』『夜明けのはざま』で紹介した名作のように、町田作品は多くの人々を心ゆたかにしてくれます。どうか佐藤愛子先生のように、町田先生には90歳まで書き続けていただきたい!