No.901
6月21日の夜、この日から公開されたホラー映画「ザ・ウォッチャーズ」をシネプレックス小倉で観ました。製作がかのM・ナイト・シャマランだとして嫌な予感はしましたが、監督と脚本は娘のイシャナ・ナイト・シャマランが務めており、パパの映画に比べればだいぶんマシでしたね。
ヤフーの「解説」には、「『シックス・センス』などのM・ナイト・シャマランが製作、彼の娘であるイシャナ・ナイト・シャマランが監督・脚本を務めたホラー。地図にない森に迷い込んだアーティストが、奇妙なルールが存在するガラス張りの部屋の中で正体不明の存在に監視される。『17歳のエンディングノート』などのダコタ・ファニングが主人公を演じ、『バーバリアン』などのジョージナ・キャンベル、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』などのオルウェン・フエレのほか、アリスター・ブラマー、オリヴァー・フィネガンらが出演する」とあります。
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「28歳の孤独なアーティスト、ミナ(ダコタ・ファニング)は贈り物を届けるために指定の場所へ向かう途中、地図にない森に迷い込んでしまう。そこで見つけたガラス張りの部屋には3人の男女がおり、彼らによると、その部屋は謎の存在によって毎晩監視されているという。そしてその部屋には、日が暮れたら部屋を出てはいけない、監視者に背を向けてはいけない、決してドアを開けてはいけないという三つのルールがあった」
M・ナイト・シャマランの監督作品はオチが命なので(とはいえ、いつもショボいので困ってしまいますが)ネタバレ厳禁です。よって、詳しいストーリーは書けません。でも、今回の「ザ・ウォッチャーズ」はこれまでのシャマラン作品に比べて、意外な展開が待っていました。最初はサイコ・ホラー、次第にアクション・ホラーとなり、最後はファンタジーといった印象でしょうか。地図にない森に跋扈するクリーチャーの造形もなかなか良かったです。
もともと、わたしはシャマランの「シックス・センス」(1999年)が大好きで、映画館での鑑賞のみならず、DVDでも何度も観ました。ブルース・ウィリス演じる精神科医のマルコムは、かつて担当していた患者の凶弾に倒れます。リハビリを果たした彼は、複雑な症状を抱えたコールという少年の治療に取り掛かるのですが、コールには死者を見る能力としての「シックス・センス(第六感)が備わっているのでした。マルコムはコールを治療しながら、自身の心も癒されていくのを感じますが、最後には予想もつかない真実が待ち受けていました。サスペンス・スリラー映画の最高傑作であるのみならず、コールの死者への接し方にはオカルトを超えた仏教的な世界観さえ感じました。この映画を観たとき、わたしは「シャマランは天才だ!」と思いました。
シャマランが脚本・監督を務めた「シックス・センス」が商業的にも大成功で、アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされました。その後、「アンブレイカブル」(2000年)、「サイン」(2002年)も興行的には成功し、「シックス・センス」ほどではないにしろ、それなりに面白かったです。しかし、「ヴィレッジ」(2004年)あたりから様子がおかしくなってきて、「レディ・イン・ザ・ウォーター」(2006年)では最悪の事態が待っていました。この映画は興行的にも大失敗で、製作費も回収できませんでした。また評論家にも酷評され、さらにシャマランは第27回ゴールデンラズベリー賞で最低監督賞と最低助演男優賞を受賞したのです。
「ハプニング」(2008年)は興行的に成功しましたが、批評家には不評。続く「エアベンダー」(2010年)では、シャマランはこれまでのオリジナル脚本ではなく脚色を担当しました。その結果、興行収入は全世界で3億ドルを超えましたが、批評家支持率は過去最低の6%を記録し、第31回ゴールデンラズベリー賞では最低作品賞、最低監督賞、最低脚本賞を含む5部門を受賞しています。そして、ジェイデン・スミスとウィル・スミス主演の「アフター・アース」(2013年)では初めてデジタルでの映画撮影を行いました。人類が放棄して1000年が経過した地球を舞台に、屈強な兵士とその息子が決死のサバイバルを展開する物語です。さらに「ヴィジット」(2016年)を発表します。休暇を利用して祖父母の待つペンシルバニア州メイソンビルへと出発した姉弟の恐怖体験を描きました。ホラー映画として、なかなか好評でした。しかし、一条真也の映画館「スプリット」で紹介した2017年の映画はどうしようもない駄作でしたね。
わたしはシャマランの映画をほとんど観ていますが、毎回、奇妙な出来事がノンストップで起きて、最後はその謎が解き明かされるのですが、「?」というオチが少なくありません。彼の作品には、必ず「どんでん返し」が用意されています。「シックス・センス」のときはそれが大成功し、映画史に残る印象的なラストシーンが生まれました。しかし、その後のシャマランは「シックス・センス」の成功体験の呪縛にかかったようで、どうも「ドンデン返しを用意しなければ!」という強迫観念にとらわれているような気がします。それがまた、スベることが多いのです。「サイン」や「ヴィレッジ」のどんでん返しも賛否両論でしたが、わたしにはギリギリ許せるレベルでした。しかし、「スプリット」のドンデン返しはいただけません。「それが、どうした?」という感じで白けきってしまい、まったく驚きもしませんでしたね。
一条真也の映画館「オールド」で紹介した2021年の映画にもシャマラン流のドンデン返しが用意されています。正直言って、「スプリット」に比べればまだマシかもしれませんが、「なるほど、そうだったのか!」と納得できるようなラストとは言い難かったです。この映画でリゾートホテルの客室にチェックインしたとき、ガエル・ガルシア演じる一家の父親が、そのホテルを所有しているのが某製薬会社であることに気づくシーンがあります。その後の一連の奇妙な出来事はそのことと深く関わっていたのです。製薬会社といえば、コロナ禍のまっ真っ最中だった頃、ワクチンを製造しているモデルナやファイザーやアストラゼネカといった製薬会社の名前を聞かない日がありませんでしたが、それらの会社が邪悪な陰謀に関わっていたとしたら、これほど怖いことはありませんね。
一条真也の映画館「ノック 終末の訪問者」で紹介した2023年公開のM・ナイト・シャマラン作品は、ポール・トレンブレイによる小説『THE CABIN AT THE END OF THE WORLD』が原作のスリラーです。山小屋で休暇を楽しんでいた一家が、家族の犠牲か世界の終えんかの選択を突きつけられます。幼い女の子と両親は、人里離れた森の中にある山小屋に休日を過ごすためにやって来るのですが、そこへ武器を手にした見知らぬ男女4人が突然現れ、ドアや窓を破って侵入します。謎の人物たちに捕らえられた家族は、自分たちの選択次第で世界は滅びると告げられ、家族の犠牲か世界の終わりかという究極の選択を迫られるのでした。これがまた、信じられないほどつまらないスリラー映画でした。
M・ナイト・シャマランの監督作品を観るたびに、「あの『シックス・センス』の完成度の高さは何だったんだ!?」と思ってしまいます。しかし、ずっとシャマラン監督が新作を作り続けることができて、それが全世界で公開されるというのは「シックス・センス」の貯金のおかげという見方もできますが、別の見方もあることに気づきました。それは、シャマラン作品のオチがズッコケることはもはや「芸」として確立されており、観客もそれを期待しているのではないかということ。わたしだって、「次はどこまで駄作にしてくれるのか?」といった変な興味を抱いていることを正直に告白します。能天気にカメオ出演したシャマランの余裕に満ちた顔を見ると、その推測が当たっているような気がします。
そんな一連の残念なM・ナイト・シャマラン作品に比べれば、今回の「ザ・ウォッチャー」は意外な展開、どんでん返し、奇想天外なラスト・・・・・・これまでのシャマラン映画とは一線を画しています。これはやはり、娘のイシャナ・ナイト・シャマランが監督・脚本を務めたということが大きいでしょうね。彼女は「パパの映画はつまならすぎるわよ」とか「パパの映画を観るたににガッカリするのはもう嫌だわ」などと言ったのかどうかは知りませんが、明らかに娘は父の映画を弱点を知っているように思います。また、「ザ・ウォッチャーズ」は、シャマラン父・娘が、「IT/イット"それ"が見えたら、終わり。」(2017年)や「アナベル」(2014年)といったヒット作を生んだワーナーホラーとのタッグで贈る新感覚ホラーということで、一皮剥けた感はしました。
あと、「ザ・ウォッチャーズ」は主演のダコタ・ファニングが良かったですね。彼女は「アイ・アム・サム」(2001年)で天才子役として一躍脚光を浴び、「宇宙戦争」(2005年)ではトム・クルーズ演じる主人公の娘役としてひときわ存在感を示しました。一条真也の映画館「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で紹介したクエンティン・タランティーノ監督の大作映画をはじめ「オーシャンズ8」、「イコライザー THE FINAL」などの話題作にも出演しています。彼女は、、"謎の何か"に毎晩監視される28歳の孤独なアーティスト・ミナを熱演しています。ダコタ・ファニングは1994年2月23日生まれなので、現在30歳なのですね。子役のイメージが強かったですが、今では立派なハリウッド・ビューティーに成長しました。彼女のこれからが楽しみですね。そして、イシャナ・ナイト・シャマラン監督のこれからも楽しみです!