No.903


 6月23日の日曜日、T・JOYリバーウォーク北九州で日本映画「朽ちないサクラ」を観ました。映画.comの同作の特集記事には「【すんげえ好き!映画.comスタッフの"私的"推し映画】」「全サスペンス・ミステリー好きへ責任をもってオススメ」とあり、例によって熱度が高いのですが、映画.comスタッフとは温度差を感じつつも、それなりに面白く鑑賞しました。なにより、杉咲花をはじめとする俳優陣が素晴らしかったです!
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「柚月裕子の小説『朽ちないサクラ』を実写化したサスペンス・ミステリー。県警の広報職員の女性が、親友の殺害事件を独自に調べるうちに思わぬ真相と背後にうごめく公安警察の存在にたどり着く。監督を務めるのは『帰ってきた あぶない刑事』などの原廣利。『52ヘルツのクジラたち』などの杉咲花、『美しい彼』シリーズなどの萩原利久のほか、豊原功補、安田顕らが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「愛知県のある町に暮らす女子大生が、執拗なストーカー被害を受けたのち、ある神社の長男に殺される。その後、地元新聞のスクープによって、警察が女子大生からの被害届の受理を遅らせ、その間に慰安旅行に行っていたことが暴かれる。県警の広聴課に勤める森口泉(杉咲花)は、親友の新聞記者・津村千佳が記事にしたのではと疑うが、千佳は身の潔白を証明すると告げた1週間後に死体で発見される。彼女を疑ったことが事件につながったのではと自責の念を抱く泉は、自らの手で犯人に迫ろうとする」
 
 原作の『朽ちないサクラ』は、柚月裕子による警察小説です。徳間書店の雑誌「読楽」に掲載され、徳間書店から2015年に単行本、2018年に徳間文庫版が発売されました。第5回徳間文庫大賞受賞。アマゾンの内容紹介には、「警察のあきれた怠慢のせいでストーカー被害者は殺された!? 警察不祥事のスクープ記事。新聞記者である親友に裏切られた......口止めした森口泉は愕然とする。情報漏洩の犯人探しで県警内部が揺れる中、親友が遺体となって発見された。警察広報職員の泉は、警察学校の同期・磯川刑事と独自に調査を始める」とあります。
 
 この映画、サスペンス・ミステリーのネタバレになるので詳しいことは書けません。警察や新聞社で働く人々の内面が描かれますが、彼らの仕事に共通していることは「正義」だと思いました。萩原利久が演じる若い警察官の「警察官とは、自分の正義を貫くこと」という言葉は印象的でした。それから警察と新聞社に共通する目標は「真実」でしょう。殺人事件の真相を追求し、犯人を暴くことは、何よりも犠牲者の供養になりますし、遺族のグリーフケアにもなります。失われた命は戻ってはきませんが、「なぜ、死んだのか?」「どのように殺されたのか?」「なぜ、殺されなければならなかったのか?」を突き止めることは、遺された者が最も知りたいことなのです。
 
 この映画、警察の不祥事がテーマです。登場人物が「警察官って何だろうな?」と後輩に問うシーンもあります。警察に対する不信感は多くの人が抱いているでしょうが、じつは、この映画を観る直前、わたしは交番を訪れて警察官の方と話しました。というのも、整体治療院の専用駐車場に車を停めて治療を行ったのですが、約1時間後に戻ってみると、車の左側の扉部分に一文字の傷が付けられていたのです。早速、小倉北署の富野交番に直行。器物損害の被害届を出しました。映画「朽ちないサクラ」は、被害届の受理が大きなテーマになっていたので、ちょっと驚きました。ちなみに、富野交番の警察官の方はとても親切で、仕事に対して真摯でした。
 
 この映画にはオウム真理教の残党を思わせる宗教団体や公安といった組織も登場し、世間を騒がせたテロ事件を起こすようなカルト宗教の残党たちを危険視するのは当然ですが、彼らを監視する公安の描き方があまりにも極端であると思いました。一歩間違うと「トンデモ映画」になりかねないストーリーなのですが、そこは杉咲花、安田顕、豊原功補といった実力派俳優3人の信用力が大きかったです。なんというか、「この3人が出演している映画なら間違いはないし、もし駄作だとしても仕方ないな」と思えてしまうのです。実際、3人の演技力は素晴らしかったです。
 
 特に、主演の杉咲花の演技には特筆すべきものがありました。わたしが彼女に注目したのは、 一条真也の映画館「法廷遊戯」で紹介した日本映画で杉咲花の怪演を見てしまったからでした。まるで「エクソシスト」の登場する悪魔憑きの少女のような彼女の表情を見て、「これは大変な女優に化けたな」と思いました。彼女をスクリーンで見たのは一条真也の映画館「湯を沸かすほどの熱い愛」で紹介した2016年の日本映画が最初で、次が一条真也の映画館「無限の住人」で紹介した2017年の木村拓哉主演でした。その頃はまだ少女という印象だったのに、「法廷遊戯」ではすっかり大人の女性になっていました。その後、一条真也の映画館「市子」「52ヘルツのクジラたち」で紹介した名作で、彼女はさらに進化を遂げました。そして、今回の「朽ちないサクラ」では貫禄さえ感じさせます。今や、すっかり日本映画を代表する実力派女優になりましたね!