No.931
7月25日、互助会保証株式会社の取締役会が15時過ぎに終わり、次の打ち合わせが19時の予定。それで隙間時間を使って、ヒューマントラストシネマ有楽町でフランス映画「クレオの夏休み」を観ました。6歳の少女が主人公のとても可愛い映画でした。上映時間はわずか83分ですが、誰かのことが好きでたまらないという純粋な想いが描かれており、ラストではしみじみと泣けました。
ヤフーの「解説」には、「第76回カンヌ国際映画祭で上映された、少女と乳母の絆を描いたドラマ。突然帰郷してまった乳母に再会しようと、6歳の少女がたった一人でパリからアフリカ大陸の北西に浮かぶ島国カーボベルデへ渡る。メガホンを取るのは『獣たち』などの脚本を手掛けたマリー・アマシュケリ。ルイーズ・モーロワ=パンザニ、イルサ・モレノ・ゼーゴらが出演する」とあります。
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「パリで父親と生活する6歳のクレオ(ルイーズ・モーロワ=パンザニ)は、いつもそばにいてくれる乳母のグロリアを慕い、グロリアも彼女を自分の娘のように思っていた。だが、グロリアが故郷であるアフリカ大陸西岸沖の島国カーボベルデへ帰ることになってしまい、クレオは突然の別れに戸惑う。そんな彼女の姿を見たグロリアは故郷の自宅に彼女を招待する。夏休みを迎えたクレオはグロリアに再会しようと、たった一人でカーボベルデへ旅立つ」
映画「クレオの夏休み」の冒頭には、はじめてのメガネを作るクレオの視力検査の様子などが登場します。検査では、乳母のグロリアが助太刀して正解をクレオの耳元で囁くというインチキをしますが、とても微笑ましく描かれています。クレオには母親がいません。死別か離婚か、その理由は映画ではわかりませんでしたが、まだ幼いクレオがグリーフを抱えていることが明らかです。そのグリーフをケアしてくれるのがグロリアでした。クレオはグロリアのことが好きで好きで仕方ありませんが、そんなグロリアに母親の訃報が届き、彼女は故郷であるアフリカ大陸西岸沖の島国カーボベルデへ帰ることになるのでした。
突然のグロリアとの別れに深い悲しみを抱いたクレオは、夏休みにカーボベルデへと旅し、グロリアと再会するのでした。母親がいないこともあって、乳母のもとから離れようとしない幼女の姿は可愛くもあり、哀れでもあります。わたしは、松柏園という旅館(現在の松柏園ホテル)で生まれ、幼少期はその中で育ったのですが、多くの中居さんたちから可愛がってもらいました。チエさん、エミさん、タケちゃん......今でも彼女たちの名前を記憶していますが、みんな、忙しかった母の代わりに面倒を見てくれる乳母のような存在でした。ですから、グロリアに対するクレオの気持ちはなんとなくわかります。子どもにとって乳母とは母親代わりであり、家族そのものですね。
カーボベルデで、クレオはいろんな体験をします。はじめての旅、はじめての飛行機、はじめての赤ちゃん、はじめての魚、はじめての海......見るもの、聞くもの、すべてが6歳の少女にとっては初体験で、珍しいものばかりです。ラスト近くでクレオは海にダイブするのですが、その瞬間、スクリーンはアニメーションに一変します。そして、クレオの近くを大きなクジラが泳ぐのですが、わたしは映画化もされた一条真也の読書館『52ヘルツのクジラたち』で紹介した町田そのこ氏の小説に出てくる世界一孤独なクジラを連想しました。ちょうど、このときのクレオは孤独の淵にいたのです。なお、グロリアが母親の死を知ったときも画面がアニメーションに変わり、海が荒れ狂います。ここでは、深い悲しみが見事に表現されていました。
さて、クレオは白人であり、グロリアは黒人です。ここには、移民の女性がナニーとしてフランスの少女を育てるという、現在の欧州に見られる経済格差の構図があります。白人の乳母を黒人が務めるという設定から、一条真也の映画館「風と共に去りぬ」で紹介した映画史に輝く最高傑作に登場するスカーレット・オハラとマミーの関係を連想しました。黒人の乳母マミーは、当時のアメリカ南部には人種差別が強く存在していた史実を浮かび上がらせています。マミーというのは「乳母」という意味で、固有名ではありません。乳母を演じたハッティ・マクダニエルは、アカデミー賞の助演女優賞を受賞。黒人のアカデミー賞受賞は初めてであり、「ありえなかった」事件でした。最近のハリウッド映画におけるポリコレはちょっと行き過ぎですが、ハッティにオスカーを与えた政治的判断は素晴らしかったですね。
『儀式論』(弘文堂)
「クレオの夏休み」には、興味深い儀式が登場しました。グロリアの孫となるセバスチャンという赤ちゃんの誕生儀礼です。その儀式にはハサミが登場しますが、赤ちゃんを連れ去る悪い死霊の羽を切るためだそうです。「儀式バカ一代」であるわたしは、初めて見るアフリカの誕生儀礼に心を鷲づかみにされました。拙著『儀式論』(弘文堂)に書きましたが、人間は誕生・成長・成人・結婚・老い・死など、さまざまな人生の場面で「こころ」が不安定になります。それに対応する儀式が日本では初宮祝い・七五三・成人式・結婚式・長寿祝い・葬儀です。
『人生の四季を愛でる』(毎日新聞出版)
拙著『人生の四季を愛でる』(毎日新聞出版)にも書きましたが、常に不安定に「ころころ」と動くことから「こころ」という語が生まれたという説がありますが、「こころ」が動揺していて矛盾を抱えているとき、この「こころ」に儀式のようなきちんとまとまった「かたち」を与えると安定するのです。ちなみにクレオの揺れ動く「こころ」はアニメーションで見事に表現されていました。そして、クレオにとってはカーボベルデへの旅そのものが「こころ」を安定させる儀式であったと思います。クレオの夏休みは、彼女にとっての通過儀礼だったのです!
「クレオの夏休み」に話を戻すと、この映画には、誰かをひたすら慕う気持ち、誰かとずっと一緒にいたい願いが描かれています。ずっと涙を見せなかったグロリアがクレオを見送った後に泣くラストシーンでは貰い泣きしました。同じ劇場で観た一条真也の映画館「コット、はじまりの夏」で紹介したアイルランド映画のラストシーンでの感動を思い出しました。1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中で寡黙に暮らす9歳のコット(キャサリン・クリンチ)は、夏休みを親戚夫婦のショーンとアイリンが営む農場で過ごします。アイリンに髪をとかしてもらったり、ショーンと一緒に子牛の世話をしたりと、緑豊かな環境で穏やかな日々を送りながら、二人からの惜しみない愛情を受けるコット。ショーンたちとの時間を重ねていくうちに、コットは自分の居場所を見つけるのでした。
また、ヒューマントラスト有楽町では、メキシコ・デンマーク・フランス合作映画の「夏の終わりに願うこと」が8月9日から公開されます。父親の誕生パーティーに参加したある少女の姿を捉えた人間ドラマです。病気で療養中の父親との再会を喜ぶ少女の、一日を通して変化する心の揺れを描き出します。病気で療養中の父親トナの誕生パーティーに出席するため、7歳のソル(ナイーマ・センティーエス)は祖父の家を訪れます。父親との久しぶりの再会に心躍らせるソルでしたが、なぜか父親にはなかなか会わせてもらえず、いら立ちや困惑ばかりが募っていきます。ついに父親と念願の再会を果たしたソルは、これまでにない感情を覚えるのでした。予告編を観る限り、ザ・グリーフケア・シネマといった内容であることが予想され、これは必ず観たいです。「コット、はじまりの夏」「クレオの夏休み」「夏の終わりに願うこと」......こう並べてみると、やっぱり夏の主役は少女ですね!
ずっと食べたかったユッチャンの「葛冷麺」
映画が終了したのが18時45分。映画館が入っている有楽町ITOCIAビルを出ると外は雨でした。近くのマツモトキヨシで折り畳み傘を買って、映画関係者との打ち合わせ会食に参加すべく銀座に向かいました。この日の会食場所は、「焼肉 冷麺 ユッチャン銀座店」でした。ハワイのアラモアナセンター近くに店を構える「ユッチャン コリアン レストラン」の日本店で、ずっと行ってみたかった店です。特に、元乃木坂46の白石麻衣もお気に入りだという名物の「葛冷麺」をついに食べることができました。葛冷麺はキンキンに冷えた絶品冷麺で、シャーベット状に凍らせたスープとコシのある黒い細麺が最高でした! 猛暑で疲れ切った身体が癒されましたね。
ついに念願の「葛冷麺」を実食しました!