No.934


 8月1日の夜、この日から公開された映画「ツイスターズ」をシネプレックス小倉で観ました。本当はIMAXで鑑賞したかったのですが、小倉にはIMAXの劇場がないので仕方ありません。それでも竜巻のシーンは迫力満点でした。ただし、映画そのものはちょっと期待外れでしたね。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『ミナリ』などのリー・アイザック・チョンが手掛ける竜巻を題材にしたアクションアドベンチャー。気象学の天才と目される女性が、友人らと共に巨大竜巻を破壊する計画に挑む。『恋するプリテンダー』などのグレン・パウエル、『ザリガニの鳴くところ』などのデイジー・エドガー=ジョーンズ、『トランスフォーマー/ビースト覚醒』などのアンソニー・ラモスのほか、ブランドン・ペレア、キーナン・シプカらが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「気象学の天才と目され、ニューヨークで世界各地の自然災害予測と被害防止に努める仕事に就くケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は、故郷のオクラホマで巨大竜巻が連続発生していることを知る。ある仕掛けを竜巻の内部に投入して竜巻自体を破壊する計画を立てた彼女はオクラホマへ向かい、学生時代の友人ハビ(アンソニー・ラモス)、新たに出会ったインフルエンサーのタイラー(グレン・パウエル)と共に、巨大竜巻を追跡する」
 
「ツイスターズ」に登場する竜巻モンスターは凄まじいです。なにしろ、富士山よりデカく、新幹線よりも速いのです。ただ、わたし自身が竜巻に遭遇したことがありませんし、そもそも日本では竜巻があまり発生しないので、映画に描かれた巨大竜巻にどこまでリアリティがあるかがわかりませんでした。つまり、この映画は単なるパニック映画なのか、それともSF映画なのかということです。映画の「解説」を読むと、アクションアドベンチャー映画となっています。ということは、こういった竜巻が実際に起こりうるということですね。
 
 竜巻は、積乱雲の下で雲から地上へと細長く延びる高速な渦巻き状の上昇気流のことです。トルネードとも呼ばれます。ハリケーンや台風と混同されやすいですが、それらとは全く異なります。竜巻とは突風の一種で、規模が小さく寿命が短い割に、猛烈な風を伴うのが特徴です。地上で強い竜巻が発生すると、暴風によって森林や建物などに甚大な被害をもたらすことがあり、災害をもたらす典型的な気象現象の1つとされています。 竜巻の水平規模は平均で直径数十メートル、大規模なものでは直径数百メートルから千メートル以上に及びます。その中心部では猛烈な風が吹き、ときには鉄筋コンクリートや鉄骨の建物をも一瞬で崩壊させ、人間を含む動物や植物、大型の自動車なども空中に巻き上げてしまうことがあります。映画「ツイスターズ」でも、そんなシーンが描かれていました。
 
 映画「ツイスターズ」で描かれた竜巻が過ぎ去った後の被災地の様子は、地震の被災地と同じように見えました。わたしは、今年の1月1日に発生した能登半島地震後に訪れた珠洲市の正院町を思い出しました。「ツイスターズ」の主人公ケイトは学生時代に竜巻を消滅させる実験を行いますが、その結果、恋人や親友を失います。この映画は、愛する人を亡くしたケイトが再生していくためのグリーフケアの物語でもありました。ケイトを演じたデイジー・エドガー=ジョーンズは非常に魅力的でした。「どこかで見た顔だな」と思ったら、一条真也の映画館「ザリガニの鳴くところ」で紹介した2022年の映画で主演を務めていました。ケイトはいつもノースリーブのわりと露出度の高い服を着ていましたが、竜巻の現場というのはいろんな物が飛んできて怪我をする危険性が高いので、もっと生地の厚い頑丈な服を着た方がいいのにと思いました。
 
 映画「ツイスターズ」に登場する竜巻は人命を奪い、町を破壊する、まさにモンスターです。でも、わたしは「竜巻」というと危険な自然災害というより、見知らぬ場所に連れて行ってくれるロマンティックな奇跡のようなイメージを抱いていました。それは、やはり子どもの頃にテレビの洋画劇場で観たアメリカ映画「オズの魔法使」(1939年)の影響が大きいと思います。名作の誉れも高いミュージカル作品ですが、大竜巻に巻き上げられた少女ドロシーが辿り着いたのは、夢の国オズでした。彼女は故郷のカンザスに帰るため、臆病者のライオン、脳のないカカシ、そして心のないティンマンと共に、魔女の住むというエメラルド・シティ目指して出発します。主題歌『オーバー・ザ・レインボー』はアカデミー主題歌賞を受賞しました。その歌詞のように「虹の彼方に」行く方法こそは、まさに竜巻だったのです。「ツイスターズ」では、ドロシー、カカシ、ブリキ男といった単語も登場し、「オズの魔法使」へのオマージュとなっていました。
「愛の不時着」の竜巻シーン



 また、ブログ「愛の不時着」で紹介したNetflixにおいて世界190ヶ国で配信された韓国ドラマでも、竜巻がロマンティックに描かれていました。ある日、パラグライダーに乗っていた韓国の財閥令嬢が、突如竜巻に巻き込まれ、非武装地帯を越境してしまい、北朝鮮に不時着したところを、北朝鮮の軍人に救助され、真実の愛に不時着するラブストーリーです。同作は、当初2019年秋の企画段階の期待感がかなり高かったそうです。しかし、パラグライダーに乗って北朝鮮へと越えていくという設定は「話にならない」として不評だったようです。わたしも第1話を観たとき、「おいおい、それはないだろう」と思いましたが、主人公のセリが竜巻に飲まれて車や豚が空中を舞っているのを目撃する場面で、名作「オズの魔法使」でドロシーが竜巻に飲まれてエメラルドの国へ行くシーンを連想しました。第1話の竜巻のシーンは明らかに「オズの魔法使」へのオマージュか、あるいはパロディであり、「この話は、基本的におとぎ話ですから、そこのところヨロシク!」というメッセージだと思いました。
 
 映画「ツイスターズ」の先駆けとなる作品が、「ツイスター」(1996年)です。スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮、マイケル・クライトン脚本に加え、「スピード」(1994年)でメガヒットを飛ばしたオランダ人監督のヤン・デ・ボンがメガホンを取ったパニック・スペクタクル映画です。竜巻内に調査用のセンサーを送り込む事で早期警報の実現を図ろうとする研究者グループと、それに対抗するグループとの競走を、迫力のCGを駆使した竜巻の映像で描きます。気象予報士のビル(ビル・パクストン)は、妻のジョー(ヘレン・ハント)から離婚届けを受け取るために、現役ストームチェイサーであるジョーの「職場」である竜巻追跡の現場を訪れます。
 
 ジョーのチームは画期的な竜巻観測システム「ドロシー」の実用化に向けた運用実験を行うところであり、その発案者であるビルも内容には興味がある。そんな中で竜巻が発生し、ビルもジョーのチームに同行することにするのでした。ちなみに「ツイスター」の28年後に作られた「ツイスターズ」にも竜巻観測システム「ドロシー」の名前が出てきます。「ツイスターズ」は「ツイスター」の続編的な作品であることがわかりました。いずれの作品も、竜巻の映像と音響の迫力が圧巻です。日本人には馴染がありませんが、アメリカ人にとって竜巻というのは日常的な恐怖の対象なのだと理解できました。