No.964


 11月9日の土曜日、アメリカのホラー映画「イマジナリー」をシネプレックス小倉で観ました。わたしはホラーには目がないのですが、これは大ハズレ。予告編を見たときから嫌な予感はしていましたが、本当につまらなかったです。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「幼い少女と友情を育むテディベアが巻き起こす恐怖を描いたホラー。『M3GAN/ミーガン』などのジェイソン・ブラムが製作陣に名を連ね、『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』などのジェフ・ワドロウがメガホンを取った。主人公を『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』などのディワンダ・ワイズ、テディベアと心を通わせる少女をドラマ『エリン&エロン』などのパイパー・ブラウンが演じるほか、トム・ペイン、テーゲン・バーンズ、ベロニカ・ファルコンらが共演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「夫と継娘二人と共に暮らす絵本作家・ジェシカ(ディワンダ・ワイズ)は、悪夢に悩まされるようになったことから、幼いころに暮らしていた家へと引っ越す。あるとき次女・アリス(パイパー・ブラウン)が地下室で古びたテディベアを見つけ、チョンシーと名付けてかわいがるようになる。彼女が親友・チョンシーと秘密の遊びを楽しむうちに、家族の周囲で不可解な現象が起こり始める」
 
 地下室で見つけたホコリまみれのテディベアのぬいぐるみ。明らかに不衛生だと思うのですが、それを少女アリスは大切に抱きかかえて、遊びます。彼女の実の母親は精神を病んでおり、継母のジェシカと一緒に暮らしているので、チョンシーと名付けられたテディベアと遊ぶことは、アリスにとってグリーフケアになったのかもしれません。それでも、次第に不気味な出来事が起こり始めます。
 
 大人には見えない邪悪な存在と子どもが無邪気に遊ぶホラー映画というのは多いです。かの「悪魔の棲む家」(1979年)をはじめとした悪魔が登場するオカルト・ホラー、あるいは幽霊屋敷モノには、そういった場面がよく登場しますね。ただ、この「イマジナリー」では、邪悪なるものの正体が悪魔でも悪霊でもなく、子どもの想像力が生み出したイマジナリーフレンドという設定になっています。でも、チョンシーがアリスを傷つけようと働きかける場面は、ちょっと強引で無理があるように感じました。
 
 イマジナリーフレンドとは、心理学、精神医学における現象名の1つです。学術的にはイマジナリーコンパニオン(IC)という名称が用いられます。「想像上の仲間」や「空想の遊び友達」などと訳されることが多いですが、インターネット上ではIFと略されることもあります。主に長子や一人っ子といった子どもに見られる現象だとされますが、イマジナリーフレンドは実際にいるような実在感をもって一緒に遊ばれ、子どもの心を支える仲間として機能します。その存在は親や兄弟や友だちなどにはほぼ打ち明けられず、やがて消失するといいます。
 
 イマジナリーフレンドは5〜6歳あるいは10歳頃に出現し、児童期の間に消失します。子どもの発達過程における正常な現象です。姿は人間のことが多いですが、人間ではない動物や妖精などの場合もある。 また、本作「イマジナリー」のように本人と対話ができるぬいぐるみなど、目に見えるモノをイマジナリーフレンドに含むのかについては研究者によって意見が異なります。このぬいぐるみなどの擬人化されたモノについては、Personified Object(PO)という呼び方がされることもあります。それに対し、目に見えないイマジナリーフレンドをInvisible Friendと呼ぶ研究者もいます。
 
 イマジナリーフレンドを題材にした作品に、一条真也の映画館「屋根裏のラジャー」で紹介した2023年のアニメ映画があります。A・F・ハロルドの小説『ぼくが消えないうちに』が原作ですが、子どもたちの想像から生まれたイマジナリーフレンドたちが暮らす想像の世界と、現実の世界が交錯します。少女アマンダの想像から生まれた少年ラジャーの姿は、彼女以外の誰にも見えません。「イマジナリ」と呼ばれるラジャーのような存在は、人間に忘れられると消えていく運命にありました。その後ラジャーは、人間に忘れられたイマジナリたちが暮らす町へとたどり着きます。
 
 イマジナリーフレンドという題材そのものがハズレだったのか、シナリオが悪かったのか、映画「イマジナリー」はつまらなかったです。製作にジェイソン・ブラムが関わっているというので期待していたのですが、残念でした。彼が関わった作品の中では、一条真也の映画館「M3GAN/ミーガン」で紹介した2023年のホラー映画を連想しました。子どもの良き友達となるように開発されたAI人形「M3GAN(ミーガン)」の愛情が暴走するスリラーです。ミーガンに心を奪われる少女は、交通事故で両親を亡くし、深い悲嘆を抱えていました。ぬいぐるみにしろ、AI人形にしろ、喪失感を埋めるために溺愛する子どもが裏切られる姿を見るのは辛いですね。



 ところで、この日に訪れたシネプレックス小倉で嬉しい出来事がありました。新作映画のチラシ・コーナーに拙著『愛する人を亡くした人へ』(PHP文庫)を原案とする映画「君の忘れ方」のチラシが置かれていたのです。この映画は、"死別の悲しみとどう向き合うか"をテーマに、恋⼈を亡くした構成作家の⻘年が、悲嘆の状態にある⼈に寄り添う「グリーフケア」と出会い、⾃らと向き合う姿を描いたヒューマンドラマです。来年1月17日に全国公開ですが、ここシネプレックス小倉でも上映されるとわかって、飛び上がるほど嬉しかったです。もうすぐ、同館で「君の忘れ方」の予告編も流れることでしょう。