No.1004
1月26日の日曜日、日本映画「サンセット・サンライズ」をシネプレックス小倉で観ました。一条真也の映画館「君の忘れ方」で紹介したわが原案映画と同じ日の公開作品ですが、大変な名作でした。グリーフケア映画としても素晴らしいです。クドカンの脚本ですが、映画における脚本の重要性を痛感しました。シナリオに恵まれた映画は幸せですね。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「楡周平の小説『サンセット・サンライズ』を、『Cloud クラウド』などの菅田将暉主演で実写化したドラマ。勤め先でリモートワークが導入されたことを機に、東京から東北・三陸の町に移住した青年が、趣味の釣りを楽しみながら癖のある住民たちと交流する。監督は『あゝ、荒野』シリーズでも菅田と組んだ岸善幸。『1秒先の彼』などの宮藤官九郎が脚本を手掛けている」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界各地でロックダウンが起きた2020年。東京の大企業に勤務する晋作(菅田将暉)は、会社のリモートワーク導入を機に東北・三陸の海沿いの町へ越す。晋作は家賃6万円で4LDKの物件を借り、仕事の合間を縫っては海に繰り出して趣味の釣りを楽しむ日々を過ごす。持ち前のポジティブな性格で、癖の強い住民たちと心を通わせていくうちに、晋作の人生は大きく変わり始める」
原作は、楡周平の『サンセット・サンライズ』です。アマゾンの内容紹介には、「東北の楽園の神物件で"試し移住"。たくさん笑って、ホロリと泣ける、地方創生爽快エンターテインメント!」「3LDK、家賃8万円、家具家電付きの神物件に一目惚れ!」「東京の大企業に勤める晋作は、コロナ禍を機に田舎への移住を考える。三陸で見つけたのが、広い、安い、おまけに家具家電付きの神物件。早速"お試し移住"を始め、大好きな釣り三昧の日々を過ごすが、地元の人々は東京から来たよそ者の登場に気が気でない。一癖も二癖もある地元民との交流にとまどいながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく晋作。そんな中、ある新事業を思いつき......」と書かれています。なお、原作の「3LDK、家賃8万円」が映画では「4LDK、家賃6万円」になっていました。
拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林・PHP文庫)を原案とした映画「君の忘れ方」は1月17日に公開されましたが、幸か不幸か、同日に素晴らしい日本映画が公開されています。ブログ「室町無頼」で紹介した時代劇がそうですし、本作「サンセット・サンライズ」も名作です。クドカンの名脚本で、何よりもテンポがいいです。東日本大震災、コロナ禍、過疎地の空き家問題、そしてグリーフケアと、さまざまなテーマを無理なく描いているところも見事です。特に、グリーフケアに関しては、ストレートな「君の忘れ方」に比べても、じつに見事に描いています。感服しました。ある意味で、もう1つの、いや「シン・君の忘れ方」と言えるかもしれません。
ただ、「君の忘れ方」も脚本はともかく役者の熱演ぶりでは負けていません。「サンセット・サンライズ」の主人公を坂東龍沙汰が、ヒロインを西野七瀬が演じても違和感はないと思います。実際に主人公の西尾晋作を演じた菅田将暉は、相変わらずの名演技でした。特に、芋煮会を行っている河原で本心を叫ぶシーンが良かったですね。晋作が想いを寄せる町のマドンナ存在の関野百香を演じた井上真央も良かったです。震災で夫と息子たちを失った深い悲しみをリアルに表現していました。しかし、この映画で最も存在感を示したのは、百香の義父である関野章男を演じた中村雅俊でした。慶應ボーイの彼が東北の田舎町の漁師を見事に演じているのを見て、「ああ、いい役者さんだな」と思いましたね、中村雅俊の元付け人だった小日向文世も大企業シンバルの社長役で出演していますが、中村と小日向の共演は初めてだそうです。
「サンセット・サンライズ」は、とにかく腹の減る映画でした。スクリーンには東北でしか味わえない絶品料理の数々に舌鼓を打ち、ひたすら感動し続ける晋作の姿が映し出されていました。竹原ピストルが演じる料理屋の大将が作るイカ大根、モウカノホシ、ハモニカ焼。それらを口にした新作は「もてなしハラスメントっすわー!」と歓喜の悲鳴を上げます。また、百香が作る、タラの一種のどんこをたっぷりと使った三陸海岸地域の郷土料理・どんこ汁も美味しそうでした。さらには、晋作の隣人である茂子さんお手製の旬の地元料理・メバルと筍の煮物も旨そうでした。そして、極めつけは、東北の定番料理で豚肉入りの味噌味で仕上げる仙台風・芋煮汁。これまた、寒い季節に食べると体の芯から温まりそうな感じでした。
ちょっと気になったのは、画面が暗く、屋内のシーンは出演者の顔がわかりくにかったこと。晴天の屋外でも空が暗かったので、わざとスモークがかかるような映像にしたのでしょうか。「君の忘れ方」を観たときも画面が暗く感じたので、もしかすると劇場の映写機の問題かもしれませんね。それでも、「サンセット・サンライズ」はとても面白い映画でした。繰り返しになりますが、クドカンの脚本が素晴らしい。岸善幸監督は、「原作は確かに面白い作品ではあるんですけど、宮藤さんにお願いするということはコメディになるわけですよね。コメディにするとどうなるんだろう、宮藤さんはどこまで原作を変えるんだろう、と思っての『えっ?』でした。それで実際お会いしてプロットを作った時には、もう原作をベースに"宮藤官九郎ワールド" がドンと入ってきていて、本当にしっかりとコメディになっていました。原作も面白いし宮藤さんの脚本も面白かったので、これで行きましょうと。これはやる価値はあるなと思いました」と語っています。実際、やる価値の大いにある作品でした。