No.1016
2月18日の昼過ぎ、東京から北九州に戻ってきました。その夜、コロナシネマワールド小倉で日本映画「大きな玉ねぎの下で」を観ました。ネットでの評価が非常に高かったので気になっていたのですが、素晴らしい感動作でした。後半は涙が止まりませんでした。一条賞の有力候補作です。出張帰りで疲れていたけど、鑑賞して本当に良かった!
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「ロックバンド『爆風スランプ』の楽曲『大きな玉ねぎの下で』にインスパイアされた物語で、手紙やノートでのやりとりを通して芽生える恋を描いたラブストーリー。アルバイトの連絡用ノートを介して日本武道館の屋根の下で初めて会う約束をする男女と、同じ約束を30年前にした男女の物語が交錯する。出演は『彼女が好きなものは』などの神尾楓珠、『交換ウソ日記』などの桜田ひよりなど。監督を『世界でいちばん長い写真』『彼女が好きなものは』などの草野翔吾が務める」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「大学生の堤丈流(神尾楓珠)と看護学校生の村越美優(桜田ひより)は、昼はカフェ、夜はバーになる飲食店『Double』で働いていた。業務連絡用のノートで趣味や悩みなども共有するようになった二人は、日本武道館の大きな玉ねぎの下で初めて会う約束をする。一方、あるラジオ番組では、30年前に文通相手と日本武道館で待ち合わせた男女の思い出が語られる」
いやあ、この映画、本当に泣けました。冒頭はラブコメ感が丸出し(それも、朝寝坊した女子中学生が食パンをくわえたまま通学路を走って男の子にぶつかり、その後に2人が恋をするみたいなベタなラブコメ)だったので、「なんだ、この脚本は!」と思いました。しかし、物語が進むにつれ時代を超えた2組の男女が惹かれ合い、恋に落ちていくさまが見事に並行して描かれており、「素晴らしい脚本だ!」と思った次第です。ちなみに、脚本は高橋泉が担当しています。それにしても、文通とか交換日記とかいいですね。現在ではLINEなどのデジタルなコミュニケーションが主流ですが、アナログも良いものです!
アナログといえば、一条真也の映画館「アナログ」で紹介した2023年の日本映画を思い出しました。ビートたけしが書いた初の恋愛小説を映画化したラブストーリーです。デザイナーの水島悟(二宮和也)は自身が内装を手掛けた喫茶店「ピアノ」で美春みゆき(波瑠)と出会います。手作りの模型や手書きのイラストなどにこだわる悟は、携帯電話を持たないみゆきに自分と似たものを感じます。悟とみゆきは、毎週木曜にピアノで会い、ゆっくりと距離を縮めていく。しかし、みゆきは突然店に姿を見せなくなるのでした。「大きな玉ねぎの下で」にも喫茶店が登場します。もっとも夜はBARになる店ですが、両作品とも「会いたいと思い続ける」ことの大切さを訴えた名作です。
映画「大きな玉ねぎの下」は、主人公の堤丈流(神尾楓珠)がなんといっても最高に良かったです。何が良いかといえば、顔が良い。彼の名前だけは知っていましたが、スクリーンでじっくり見たのは初めてでした。本当に綺麗な顔をしていますね。旧ジャニーズ事務所の所属かと思いましたが、違いました。こんな綺麗な顔の俳優さんを見たのは亡くなった三浦春馬以来であり、一発で、わたしは神尾楓珠ファンになりました。相手役の村越美優を演じた桜田ひよりも美人なのですが、わたし好みの顔ではありません。わたしは、彼女がアルバイトしていた喫茶店の経営者を演じていた山本美月の方が好みです。でも、丈流と美優のすれ違いの恋は甘酸っぱい気分にさせてくれました。
美優は看護学校生なのですが、病院で研修を行っています。その病院には丈流の母親(西田尚美)が入院していました。病院でも丈流と美優はすれ違いますが、最初の出会い(冒頭のラブコメ)が最悪だったため、2人は心を通わせることはできません。病院といえば、美優がいろいろと試行錯誤しながら1人前の看護師になっていく様子を見ていると、昨年亡くなった父が入院中にお世話になった小倉記念病院の看護師さんたちの顔が思い浮かんできました。「いつも笑顔だったけど、彼女たちも大変だったんだな。いろんな悩みを抱えていたんだな」と思えて泣けてきました。劇中で美優が「看護師は患者さんもケアするけど、そのご家族もケアしなければいけない」というセリフを口にするのですが、その言葉が心に残りました。入院していた丈流の母はずっと会いたかった人に会った後、人生を卒業していきます。良き最期の日々でした。
この映画に悪人は登場しません。みんな善い人ばかりです。「これは夢物語。現実にはありえない」などというのは野暮で、映画だからそれでいいのです。それに、この世界には悪い奴や卑怯な奴が多すぎて、そういう現実を忘れるためにもこういう善人ばかりが登場する映画の存在意義があると思います。わたしは、とにかく泣けました。わたしを入れて観客が4人で劇場がガラガラだったこともあって、後半はもう顔をクシャクシャにして泣きました。思春期の男子高校生みたいにピュアな心で泣きました。映画を観て泣くことは珍しくないのですが、この日の涙はとても温かく、心地よく、優しい気持ちになることができました。この作品がネットで高評価を得ていることがよく理解できました。人に対して優しくなれる映画です。
この映画は爆風スランプの名曲「大きな玉ねぎの下で」にインスパイアされて作られたそうですが、劇中で流れたとき、改めて「いい曲だな」と思いました。爆風スランプは1982年に結成して、1984年にデビューしたロックバンドです。スキンヘッドとサングラスがトレードマークのボーカルのサンプラザ中野くんは、1960年生まれ。わたしより3歳上ですが、早稲田大学政経学部に通っていたこともあり、わたしは「先輩」という意識を持っていました。「大きな玉ねぎの下で~はるかなる想い」は1989年に発売された爆風スランプ15枚目のシングル。1985年発売2ndアルバム『しあわせ』収録「大きな玉ねぎの下で」のリメイクです。表題曲の題名の「大きな玉ねぎ」とは、日本武道館の屋根の上に乗っている擬宝珠です。その擬宝珠が「大きな玉ねぎ」に見えるというところからタイトルが付けられたわけです。
「大きな玉ねぎの下で~はるかなる想い」は、ライブの日に武道館で待ち合わせを約束したペンフレンドの女の子が予定の時間に結局来ずに終わった、という歌詞の失恋ソングです。作詞者の中野くんは、爆風スランプ初の武道館ライブを翌1985年に行うことをレコード会社が1984年に決めた際、満員にしろと言われたものの、武道館という大ホールへのプレッシャーに悩んだあげく「自分たちで武道館が満員になるわけがないから、席が空いていることの言い訳になるような歌を作ろう」という考えに至ったことがきっかけで作詞したと述べています。さらに、歌い出しのこの歌詞から入れば「ペンフレンドなんかいるんだ?」みたいにまずファンの笑いはつかめるだろうと考えたそうですが、曲を作っていくうちに「いい歌になっちゃった」とも話しています。この歌は、第40回NHK紅白歌合戦でも歌われ、また1990年初め頃にはコスモ石油のCMソングに使われました。なつかしいですね!
この爆風スランプの名曲をカバーしたのが、asmiです。年齢非公開の女性シンガーソングライターです。この映画のラストでは、彼女の武道館コンサートのシーンが流れます。2019年7月、音楽活動開始。同年10月、SPACE SHOWER MUSICより配信限定シングル「osanpo」でデビュー。2020年、十代才能発掘プロジェクト「十代白書」にてグランプリを獲得。2023年1月より、テレビアニメ「うる星やつら」オープニングテーマを担当。同年4月14日から、asmi feat. Chinozoとしてテレビアニメ「ポケットモンスター」リコとロイ編のオープニングテーマを担当しています。わたしのような還暦越えのオヤジはまったく彼女の存在自体を知りませんでしたが、彼女が歌う「大きな玉ねぎの下で」は爆風スランプよりも耳に優しかったです。