No.1023


 2月23日の夜、カナダのホラー映画「SKINAMARINK/スキナマリンク」のレイトショーをシネプレックス小倉で観ました。外は気温2度、体感温度-7度で雪が舞う劇場には、わたしを含めて15人の観客。とてもシネコン向きと思えないエンタメ性ゼロのアート寄りの作品でした。終演後、わたし以外の人々は口々に「意味がわからん」「一体これ何ね?」など、小倉弁で愚痴を言い合っていました。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「悪夢についての短編映像をYouTubeに投稿していた映像作家のカイル・エドワード・ボールが、15000ドルの低予算で製作して話題となったカナダ発のホラー。窓やドアもない閉鎖的な空間に取り残された二人の子供が、ゆがんだ時間と空間の中で恐ろしい体験をする。ルーカス・ポール、ダリ・ローズ・テトローなどが出演する」

 ヤフーの「あらすじ」は、「真夜中に目を覚ましたケヴィンとケイリーという名の二人の子供。家の中にいるはずの家族の姿に加えて、家のすべての窓やドアが消え、真っ暗な空間になってしまっていた。取り残された二人はゆがんだ時間と空間に混乱し、暗闇でうごめく何者かと悪夢のような光景に追い詰められていく」となっています。
 
 この映画は、冒頭のシーンからとにかく不穏です。わたしは三度の飯よりもホラー映画が大好きで、古今東西のホラー映画を観ています。ある出版社から『世界で一番怖い映画』という本を書いてほしいというオファーも来ており、その気になっているところです。そんなホラー映画バカ一代(?)のわたしから見ても、この映画は理解不能でした。子どもの悪夢を描いていることはわかるのですが、あまりにも情報量が少なすぎて途方に暮れてしまいます。実験的な映像は、まるで現実と悪夢の境界を彷徨うようでした。また、観客に解釈を委ねるミニマリスティックな演出が怪しい映像体験を生み出します。暗闇に照らされた異様な光景を目の前に、観客の脳内から自然に湧き出てくる想像力が、必然的にさらなる恐怖を求めるのでした。

 それにしても、この映画は疲れます。まず映像が疲れる。人の顔をはっきりと映さず、足ぐらいしか見えません。暗い部屋の中の一部を変な画角で撮影したり、家具や玩具を接写したりします。あと全編を通じてノイズのような「ザーッ」という砂嵐のような音が聞こえており、最初は「まさか、これ最後まで続かないよな」と思っていたら、本当に最後まで続いて驚きました。画面は終始暗いし、セリフはひそひそ声なので、確実に眠くなります。わたしも開始30分後ぐらいに寝落ちしました。ひたすら観客の想像力任せの実験ホラー映画といった印象で、エンタメ性は皆無です。よくシネコンで上映できたものだと感心しました。上映時間は100分ですが、これは長過ぎます。このような実験映画は30分ぐらいの短編で充分だと思いました。

「SKINAMARINK/スキナマリンク」は、「史上最も恐ろしい映画」「本能的な恐怖を思い出す」などとネット上で賛否両論を呼びました。多くのメディアが2023年のベストホラームービーに挙げるなど、バイラル・センセーションを巻き起こし瞬く間に大ヒット。監督のカイル・エドワード・ボールは、人々の悪夢を再現した短編映像をYouTubeチャンネルに投稿し、新鋭の映像作家としてキャリアを重ねる人物で、本作が長編監督デビュー作となります。制作費わずか15000ドルにもかかわらず、692館という異例の規模で北米公開。その勢いはとどまらず、最終興行収入約200万ドルと驚異の数字を叩き出しました。超低予算ホラー映画の金字塔「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999年)、「パラノーマル・アクティビティ」(2007年)を超える、未だかつて誰も体験したことのない「最恐イマジネーション・ホラーの誕生」と騒がれています。うーん、面白くはないけどね。
 
「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」は、超のつく低予算で製作されながらも世界中でメガヒットとなったホラー映画です。1994年10月、モンゴメリー大学映画学科に所属する3人の大学生がドキュメンタリー映画製作のためにメリーランド州ブラック・ヒルズの森に分け入りました。その土地に今なお残る伝説の魔女"ブレア・ウィッチ"をテーマにしていたのです。しかしながら、ヘザー、ジョシュ、マイクの3人はそのまま消息を絶ちました。手掛かりが発見されないままやがて捜索は打ち切られます。そして事件から1年後、彼らが撮影したものと思われるフィルムとビデオが森の中で発見されたのでした。

「パラノーマル・アクティビィティ」は、約100万円あまりの低予算で製作されたにもかかわらず、全米興行収入第1位を記録した話題の密室サスペンス・スリラーです。ある若いカップルの住む一軒家で起きた不気味な現象を、ビデオカメラ映像でドキュメンタリー風に演出した方式で描きます。幸せに暮らすひと組の若いカップル。ある日、家の中の様子がどこかおかしいことに気づき、悪霊がいると感じた2人は家中の至るところにビデオカメラを設置します。そして、2人が眠りに落ちた後に撮影された映像には、背筋も凍るようなものが映っていたのでした。監督は、ゲームデザイナーが本職のオーレン・ペリが務めました。パラマウントがリメイク権を獲得するも、作品を観たスティーヴン・スピルバーグが原作を超えることは困難だと諦めたといいます。凄いエピソードですね。

「SKINAMARINK/スキナマリンク」は"「史上最も恐ろしい映画"と呼ばれていますが、 一条真也の映画館「アントラム/史上最も呪われた映画」で紹介した2018年のカナダ映画を思い出しました。40年近く封印されてきたという呪われた映画にかかわった人々の顛末を描いたホラーです。1970年代にアメリカで製作された映画「アントラム」は、「見た者に不幸をもたらす」「恐すぎる」と噂され、そのまま葬り去られるはずでした。しかし、88年にハンガリーのブタペストで世界初上映が行われると上映中に火災が発生し、多数の犠牲者を出す大惨事となります。その後もいくつかの映画祭で上映が企画されたものの関係者が次々と謎の死を遂げ、「アントラム」は「呪われた映画」として誰も触れようとしない作品となるのでした。
 
「SKINAMARINK/スキナマリンク」は久々に観た海外ホラー映画でしたが、3月14日には待望のアメリカ映画「ロングレッグス」が公開されますね。「恐怖の映画史が覆った」「全米興収2024年第1位(独立系として)」「過去10年全米最高興収ホラー映画(独立系として)」という超話題のホラー映画です。新人のFBI捜査官リー・ハーカー(マイカ・モンロー)は、未解決のままの一家連続殺人事件の捜査を指示される。10件の連続殺人事件に共通するのは、自身の家族を殺害した父親が後に自殺していること、そしてロングレッグス(ニコラス・ケイジ)という謎の人物からの暗号文が現場に残されていることでした。不可解な謎と少ない手がかりを頼りにリーは少しずつ事件の真相へと迫っていく不気味な物語です。鑑賞するのが今から楽しみでなりません!
シネコンの外は雪が舞っていました