No.1024
2月26日の朝、出版打ち合わせの後、互助会保証の監査役会まで少し時間があったので、日本映画「かなさんどー」をTOHOシネマズ日比谷のスペシャルシートで鑑賞しました。沖縄が舞台のヒューマンドラマです。ちょっとストーリーが強引に感じられて、そこまで感動はしませんでしたが、映画全体から沖縄愛が伝わってきました。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「お笑いコンビ『ガレッジセール』のゴリこと照屋年之がメガホンを取ったドラマ。故郷の沖縄に帰った女性が、亡き母の日記を見つけたことをきっかけに夫婦の過去や母の思いを知る。『賭ケグルイ』シリーズなどの松田るか、『夜明け』などの堀内敬子、『首』など浅野忠信のほか、上田真弓、Kジャージ、松田しょうらが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、「母の町子(堀内敬子)を亡くし、父の悟(浅野忠信)が認知症を患っている美花(松田るか)。母が亡くなる間際、彼女からの助けを求める電話を取らなかった悟を許せずにいたが、職を失ったことをきっかけに故郷の沖縄に戻る。折り合いの悪い父との関係を見直そうとしない美花だが、母がつけていた日記を見つけ、そこにつづられた母の思い、聞かされていなかった夫婦の過去などを知り、ある決意を固める」となっています。
映画「かなさんどー」は、沖縄での先行上映に続いて全国公開を迎えました。その公開記念舞台挨拶で、照屋監督は「スタッフの汗と努力が混ざった作品がようやくみなさんに観てもらえます。さらに(公開前の)よいタイミングで浅野さんがゴールデングローブ賞を受賞し、本当にいい追い風で、乗っかり商売させてもらいます(笑)」と浅野に深々とお辞儀しました。出演を決めた理由を尋ねられた浅野は「僕は沖縄が大好きで、何か沖縄に恩返しできるようなことはないかと考えていました」と答えています。
ヒロインの美花を演じた松田るかは沖縄出身ですが、「方言を使えたのがやはりすごくうれしくて。まさかこれが力になって、しかも故郷・沖縄で撮った作品で真ん中に立たせていただけるというのが、すごく光栄に思います」と思いを伝えました。美花の母・町子を演じた堀内敬子は町子について「照屋監督のお母様をモデルにされているとお話を伺ったので、とてもプレッシャーもありました。でも家族をすごく愛そうという気持ちを強く持ちながら演じさせていただきました」と語っています。
照屋監督の前作は 一条真也の映画館「洗骨」で紹介した2019年の日本映画ですが、これも沖縄愛の強い作品でした。土葬または風葬した遺体の骨を洗い再度埋葬する「洗骨」の風習を通じ、バラバラだった家族が再生していく物語です。新城家の長男・剛(筒井道隆)が、4年前に他界した母・恵美子(筒井真理子)の洗骨のため故郷の粟国島に戻ります。実家に住む父・信綱(奥田瑛二)は母の死後、酒に溺れており生活は荒んでいました。「洗骨」の信綱も「かくしごと」の孝蔵も、ともに最愛の妻を亡くして抜け殻のようになった点は共通していました。
沖縄を舞台にした映画は多いですが、わたしが一番好きなのは一条真也の映画館「涙そうそう」で紹介した2006年の土井裕泰監督作品です。日本中で愛されている名曲「涙そうそう」をモチーフにした感動ドラマで、沖縄で生まれ育った血のつながらない兄妹が織りなす、切ない愛の物語を描いています。素朴で優しい兄・洋太郎を妻夫木聡が、兄の愛情を一身に受けてまっすぐに育った妹・カオルを長澤まさみが好演しています。2人は血のつがっていない兄と妹を演じましたが、どんな困難に直面しても、「なんくるないさ〜」と笑う兄の前向きさと、そんな兄を心から慕う妹の可憐さが印象的でした。
映画「涙そうそう」の最大のハイライトは、なんといっても兄妹の別れのシーンです。無理がたたって亡くなった兄の葬儀を終え、砂浜に座って海を見つめる妹に、平良とみ演じる祖母が優しく声をかけ、「兄さんはニライカナイで幸せに暮らすんだよ」と言います。そして、妹の元に亡くなった兄から荷物が届きます。それは妹の成人式用の着物でした。兄は、たった1人の妹に成人式の晴れ着を買ってやるために、無理をして働いていたのですね。そんな兄の深い愛情は妹の心にしっかりと届くのでした。「涙そうそう」は沖縄の冠婚葬祭を見事に映画いた名作ですが、結婚式や葬儀のシーンが登場する「かなさんどー」も似ていると思いました。「かなさんどー」とは「愛しいぞー」という意味の沖縄の方言ですが、まさに冠婚葬祭の根幹をなす家族愛を象徴する言葉だと思いました。
最後に、「かなさんどー」は家族愛を描いてはいますが、浅野忠信演じる悟の生き方については疑問が残りました。妻の町子が病気になると彼は愛人を作ります。夜は愛人の家に入り浸りになるのですが、携帯電話を取りません。町子の具合が悪くなっても連絡がつかなかったので、娘の美花は父を責めます。しかし、町子は「わたしが病気になって、お父さんはセックスをあきらめたのよ!」と美花に告げ、だから父が愛人宅に通うのは仕方ないのだと言うのです。これは、ちょっと夫婦愛とは違うなと思いました。町子が亡くなった夜も悟は愛人のところにいて、町子からの電話を取りませんでした。そんな父と美花は縁を切ります。それでも、父の余命が宣告されてから帰郷し、父の最期を看取ります。最後に父と娘が一緒に外出して美しい思い出を作るのですが、ブログ「父と神社へ」で紹介したように、わたしの父の生前最後の外出は北九州市門司にある 皇産霊神社でした。わたしが同行して車椅子を押しましたが、良い思い出になりました。そのときのことを思い出して、ちょっとセンチメンタルな気分になりました。
父との最後の外出