No.1025


 2月28日は新作映画の公開ラッシュでしたが、わたしはアメリカ映画「シンパシー・フォー・ザ・デビル」をシネプレックス小倉で観ました。非常に理不尽な胸糞映画で、カタルシスは感じませんでした。わたしと同い年のニコラス・ケイジの狂気に満ちた演技は真に迫っていましたけど。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「目的も行き先も分からないカージャックの行方を描くアクションスリラー。見知らぬ人物に突如車に乗り込まれ、運転を強要された男性が悪夢のような一夜を体験する。メガホンを取ったのは『マヤの秘密』などのユヴァル・アドラー。『マッシブ・タレント』などのニコラス・ケイジが主演とプロデューサーを兼任し、彼によって命懸けのドライブに巻き込まれる男性を『THE INFORMER/三秒間の死角』などのジョエル・キナマンが演じる」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「妻の出産に立ち会うため、ラスベガス中心部の病院へ車で向かっていたデイビッド(ジョエル・キナマン)。ところが病院の駐車場で、突如見知らぬ男(ニコラス・ケイジ)が後部座席に乗り込んでくる。拳銃を突きつけられて車を出すように指示され、やむなく従ったデイビッドだったが、やがて狂気をあらわにした男の暴走はエスカレートし、立ち寄ったダイナーで大惨事を引き起こす」
 
 この映画、テンポはすごく良いです。90分という上映時間も良いと思います。主人公デイビッドは妻の出産に立ち会うために到着した病院の駐車場で、後部座席に乗り込んできた見知らぬ男(ニコラス・ケイジ)から拳銃を突きつけられます。この時点で病院の駐車場から出ずにわざと事故を起こすとか何か方法はなかったかと考えましたが、実際に後ろから拳銃を突きつけられたら逆らうのは難しいでしょうね。その後も何度か逃げ出すチャンスはあったように思えてイライラしましたが、実際は相手の要求に従うしかないのでしょう。
 
 カージャックの男は最初は冷静に話しかけてきますが、次第に興奮し、デイビッドが仕掛けたある作戦のために激怒します。それ以降はかなり凶暴になり、食事をするために立ち寄ったダイナーでも、デイビッドと話が嚙み合わなくなると暴力をふるいます。ダイナーの従業員や他の客にも無法行為を繰り返し、「こいつは本物の異常者だな」と思いました。ただ、ネタバレにならないように書くと、この物語は不条理なように見えて、じつは不条理ではなかったというところがミソです。でも、観ていて不愉快になる胸糞映画であることに違いはありませんが。
 
 カージャックから脅されて車を走らせている最中、デイビッドはパトカーから追跡され、警官から「車から降りろ」と命令されます。しかし、銃を持ったカージャックの男は警官に従わず、恐ろしい出来事が起こります。このくだりは、同様のシーンのあった一条真也の映画館「ドント・ムーブ」で紹介したNETFLIX映画を思い出しました。ホラー映画の巨匠であるサム・ライミが製作したサスペンス映画です。悲しみに暮れる女性が、苦痛から逃れようと人里離れた森の奥地に来ていました。そこで出会った見知らぬ男に、筋弛緩剤を打たれてしまう。徐々に体の自由が奪われていく中で、彼女が生き延びるためには、全身の神経組織が完全に停止してしまう前に、逃げて、身を隠し、戦わなければなりませんでした。
 
 また、謎の相手から殺意を向けられるカーアクション映画ということでは、「激突!」(1971年)を思い出しました。SF作家リチャード・マシスンの短編小説を当時25歳のスティーブン・スピルバーグがTV用に監督したサスペンス・アクションです。知人から借金を取り立てるためにカリフォルニアのハイウェイを南下していたデイビッドは、途中で1台の大型タンクローリーを追い抜きます。すると、そのタンクローリーがデビッドに嫌がらせを始めるのでした。日本やヨーロッパでの上映時間は90分でしたが、「シンパシー・フォー・ザ・デビル」の上映時間も90分ちょうどです。また、両作品の主人公の名前は同じデイビッドです。もしかすると、「シンパシー・フォー・ザ・デビル」は「激突!」へのオマージュ的作品なのではないでしょうか? 相手の顔が見えないぶん、「激突!」の方が怖かったですが......。
 
 主演ニコラス・ケイジのインタビュー映像では、本作での役どころから"初挑戦"となった二人芝居について「僕が演じるのは得体の知れず説明しにくい、謎に包まれた男だ。共演のジョエル・キナマンが演じる運転手はふたつの顔を持っていて、彼の凶悪な裏の顔を暴こうとする。また今作の特徴はもうひとつある。ジョエルとの二人芝居だからほぼ全編ふたりきりの会話なんだけど、そこに魅力を感じた。目新しいと思ったし僕も初めての経験だった。評判次第だけど、今回みたいな危なっかしい役は今後の演技にも生かせると思う。もしかしたら髪型で僕の役柄が分かる人もいるかもね。どうかな? 乞うご期待」と語っています。
 
 それにしても、ここ最近のニコラス・ケイジの"怪優"ぶりは「どうしちゃったの?」と言いたくなるぐらい凄い! 一条真也の映画館「ドリーム・シナリオ」で紹介した2024年のアメリカ映画では、他人の夢に現れる主人公を演じました。平凡な大学教授のポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)は、世界中の何百万人もの夢に一斉に現れて一躍有名人になります。しかし、ポールが人々の夢の中で悪事を働いたことから、現実世界でも嫌われ始め、悪夢のような日々を過ごすことになります。最初は何も行動しなかったポールですが、次第に暴力やレイプ、殺人などの凶行を繰り返します。人々はポールを恐れ、忌み嫌うようになります。レストランで食事をすることも、娘が出演する舞台を鑑賞することもできません。愛車は落書きされ、街を歩けば暴行を受けます。彼は「ぼくは何もしていないのに、どうしてみんなから忌み嫌われるんだ?」と絶望します。

 そして、3月14日には待望のアメリカ映画「ロングレッグス」が公開されます。「恐怖の映画史が覆った」「全米興収2024年第1位(独立系として)」「過去10年全米最高興収ホラー映画(独立系として)」という超話題のホラー映画です。新人のFBI捜査官リー・ハーカー(マイカ・モンロー)は、未解決のままの一家連続殺人事件の捜査を指示される。10件の連続殺人事件に共通するのは、自身の家族を殺害した父親が後に自殺していること、そしてロングレッグス(ニコラス・ケイジ)という謎の人物からの暗号文が現場に残されていることでした。不可解な謎と少ない手がかりを頼りにリーは少しずつ事件の真相へと迫っていく不気味な物語です。鑑賞するのが今から楽しみでなりません。ニコラス・ケイジは、わたしと同学年の61歳です。ぜひ、彼にはこれからも一番イカレた親父、最高にアブない親父を演じてほしいものです!