No.1043
3月30日の日曜日、インド映画「デーヴァラ」をシネプレックス小倉で観ました。上映時間は172分です。長いですが、167分くらいまではまったく飽きずに夢中で観ていました。残念だったのは、最後の5分ぐらいで急に有り得ない展開となり、怒涛のドラマが一気にトーンダウンしたこと。それでも、全体的にはすごく面白かったです!
ヤフーの「解説」には、「『RRR』などのNTRジュニアが主演を務めたアクション。凶悪な密輸団の拠点として恐れられ、長年むごたらしい抗争が続く土地を舞台に、愛と正義を貫いた英雄・デーヴァラを巡る伝説を描く。監督・脚本は『ジャナタ・ガレージ』などでNTRジュニアと組んでいるコラターラ・シヴァ。そのほか『グンジャン・サクセナ -夢にはばたいて-』などのジャンヴィ・カプール、『ヴィクラムとヴェーダ ヒンディー語版』などのサイーフ・アリー・カーンらが出演する」とあります。
ヤフーの「あらすじ」は、「1996年、クリケットのワールドカップ開催を控えたインド。警察本部は巨大犯罪組織による破壊工作の情報をつかみ、組織のリーダーを追う捜査班が凶悪な密輸団の拠点である『赤海』と呼ばれる村へ向かう。むごたらしい抗争が長く続くその土地で、捜査班は愛と正義を貫いた英雄・デーヴァラ(NTRジュニア)にまつわる伝説を知る」となっています。
これまで日本で公開されたインド映画の中で、わたしが最も好きなのは、 一条真也の映画館「RRR」で紹介した2022年の作品です。映画の持つ可能性を最大限に発揮したウルトラ・スーパー・エンターテインメント超大作でした。1920年、イギリスの植民地政策下にあるインド。野性を秘めた男・ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr)はイギリス軍に連れ去られた村の少女を救うため、仲間と共にデリーへ向かいます。そこで、ある出来事をきっかけに内なる怒りを燃やす男・ラーマ(ラーム・チャラン)と出会い、互いの身分を知らないまま親友となります。しかしラーマはイギリス軍の警察官であり、ビームの本当の目的を知った彼は友を投獄するのでした。
「RRR」でも主演を務めたN・T・ラーマ・ラオ・Jrが、本作「デーヴァラ」では、主人公の英雄・デーヴァラを演じます。彼は1983年5月20日生まれの41歳。インドのテルグ語映画で活動する俳優、プレイバックシンガー、クチプディ・ダンサー。「Jr.NTR」「Tarak」の通称で知られています。俳優としてテルグ語映画で活動し、政治家としてアーンドラ・プラデーシュ州首相も務めたN・T・ラーマ・ラオ(NTR)の孫です。1996年に「Ramayanam」で子役デビューし、2001年に「Ninnu Choodalani」で俳優デビュー。以後、多くの作品で高い評価を得てきました。
デーヴァラは伝説の海の英雄です。彼の先祖は海上で祖国を守る活動をしており、彼はそれをとても誇りに思っていましたが、彼自身は生活のために密輸の手助けをします。そのことを心の底で恥じており、息子であるヴァラに対して「お前のじいさんは国のために戦った英雄だけど、わたしは英雄じゃない」と言います。あるとき、デーヴァラたちがが密輸を手伝った武器によってバスの襲撃事件が起こり、村の青年が殺められます。その青年は、海で亡くなったデーヴァラの仲間の息子でした。デーヴァラは父のいないその子が教師になる夢を叶えるために援助しますが、無情にも殺されてしまったのです。また、海上警備隊の隊長から「おまえたちの祖先は国を守ったが、その祖先は国に逆らっている」と言われ、デーヴァラは密輸から手を引くことを誓ったのでした。
『なぜ、一流の人はご先祖さまを大切にするのか?』
拙著『なぜ、一流の人はご先祖さまを大切にするのか?』(すばる舎)にも書きましたが、わたしたちは、先祖、そして子孫という連続性の中で生きている存在です。遠い過去の先祖、遠い未来の子孫、その大きな河の流れの「あいだ」に漂うもの、それが現在のわたしたちにほかなりません。その流れを意識したとき、何かの行動に取り掛かる際、またその行動によって自分の良心がとがめるような場合、わたしたちは「こんなことをすれば、ご先祖様に対して恥ずかしい」「これをやってしまったら、子孫が困るかもしれない」と考えるのです。デーヴァラは、先祖や子孫に対する「恥」や「責任」の意識が特に強い人物でした。
インド映画といえば、ダンスシーンが見どころですが、本作「デーヴァラ」でも見事な首振りダンスが披露されました。"タラク"ことNTRジュニアは最高のダンス・テクニックの持ち主ですが、彼のダンスは「クチプディ」と呼ばれます。この名前はアンドラ・プラデッシュ州のクチプディという村の名に由来します。もともとは、シヴァ・プラーナ、ラーマーヤナ、マハーバーラタをテーマにした古典舞踊であり、舞踊劇の形式を取っています。この踊りのエキスパートたちがクチプディ村に集まり、古典舞踊の芸術的な価値、宗教的な踊りとしての純粋さを保ち、後世に残すためにグループ「ブラーフマナ・メーラー」を結成。これは男性のみで構成されていました。歌や踊りを通して神への信仰を高めるもので、このことから彼らは「バガヴァトゥル」と呼ばれました。
ダンスの他にも映画「デーヴァラ」には大きな見どころがあります。武器祭礼というお祭りで繰り広げられる決闘です。これは「赤海」と呼ばれる地域の4つの村から2人ずつ戦士が選ばれて闘うのですが、インド相撲でもするのかと思ったら、ガチのMMA(総合格闘技)なのです。それも初期のUFCを彷彿とさせるような"何でもあり"の死闘で、当然ながら怪我人が続出し、ついには死者まで出る始末です。それで決闘は中止されるのですが、わたしは「中止するぐらいなら、相撲をすればいいのに」と思いました。日本でも、相撲の起源として知られる野見宿禰(のみのすくね)と當麻蹶速(たいまのけはや)の天覧相撲はMMAに近いものでしたが、次第に現在のような相撲に競技化されていきました。相撲は祭礼と深い関係にありますが、赤海の武器祭礼もインド相撲をすればよかったのに!