No.642
10月23日の日曜日、シネプレックス小倉でインド映画「RRR」を観ました。インドのみならず全米でも大ヒットした作品だそうですが、もう最高に面白かったです。上映時間が約3時間と長いのですが、まったく退屈しないで一気に観ました。映画の持つ可能性を最大限に発揮したウルトラ・スーパー・エンターテインメント超大作であり、今年の「一条賞」の最有力候補です!
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『バーフバリ』シリーズなどのS・S・ラージャマウリ監督によるアクション。イギリス植民地時代のインドを舞台に、イギリス軍に捕らえられた少女を救う使命を帯びた男と、イギリスの警察官が育む友情と闘いを描く。互いの事情を知らないまま親友となる男たちを、『バードシャー テルグの皇帝』などのN・T・ラーマ・ラオ・Jrとラージャマウリ監督作『マガディーラ 勇者転生』などのラーム・チャランが演じる」
ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「1920年、イギリスの植民地政策下にあるインド。野性を秘めた男・ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr)はイギリス軍に連れ去られた村の少女を救うため、仲間と共にデリーへ向かう。そこで、ある出来事をきっかけに内なる怒りを燃やす男・ラーマ(ラーム・チャラン)と出会い、互いの身分を知らないまま親友となる。しかしラーマはイギリス軍の警察官であり、ビームの本当の目的を知った彼は友を投獄する」
最近、一条真也の映画館「スペンサー ダイアナの決意」や「プリンセス・ダイアナ」で紹介した映画などを観て、英国王室に興味を持っていたのですが、まあこの「RRR」ほど大英帝国をボロクソに描いた映画も珍しいでしょう。植民地時代のインドの物語ですから、侵略国を悪く描くのは当然でしょうが、観ているわたしまで「イギリスって、本当にとんでもない国だな!」と思いました。「RRR」には、ラーマとビームという2人の主人公が登場します。1920年代の「反英闘争」において活躍した、実在の英雄コーマーラム・ビーム、アッルーリー・シーターラーマ・ラージューをモデルにしているという設定で、エンドロールにはビームとラージューの写真も出てきます。しかし、この「RRR」という映画は歴史を再現したドラマなどではありません。荒唐無稽というか、有り得ない出来事の連続で、ファンタジー映画と呼ぶのがふさわしいかも?
このラーマとビームは、とにかく強いです。ラーマは、たった1人で1万人の暴徒と闘って制圧するほどの戦闘力で、大山倍達の数千倍は強いように感じました。一方のビームは森の中で狼や虎と闘うような野生児で、インドの金太郎といった感じです。こんなに強い2人は、あるレスキューシーンで初遭遇するのですが、何か通じ合うものがあったのでしょう、意気投合して兄弟のように仲良くなります。2人が海辺で筋トレをするシーンがあるのですが、髭モジャで筋肉ムキムキの彼らは、かつてプロレス界で活躍した「超獣」ことブルーザー・ブロディと「飛獣」ことジミー・スヌーカのタッグチームのようでした。
ラーマとビームの強さはもはや神がかっていますが、じつは彼らのキャラクターはインド神話の2大叙事詩である『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』に登場する英雄と重ね合わされています。すなわち、ラーマは『ラーマーヤナ』の主人公ラーマ王子で、彼はヴィシュヌ神の化身です。弓を持ち、現代ではオレンジ色の衣を纏った修行者の姿で表現されます。「RRR」でラーマの婚約者の女性はシーマという名前ですが、『ラーマーヤナ』にも、シーマ姫が登場します。魔王ラーヴァナにさらわれ、魔王の城に閉じ込められ、ラーマの助けを待ちます。彼女を探し出すのは、猿の将軍・ハヌマーンです。ちなみに、ラーマとシーターはインドでは理想的な夫婦だと考えられています。
『ラーマーヤナ』と並ぶインド神話の叙事詩が『マハーバーラタ』です。これは、神の子である正義の5人の王子と悪の王子たちとの王位継承争いの物語ですが、ヒンドゥー教の聖典である「バガヴァッド・ギーター」(ギーター)が含まれています。『RRR』の主人公ビーマと重なるのは、5人の王子の1人であるビーマ王子です。5人の中では最もパワフルな王子で、大食漢でもあり、木を引っこ抜いてブンブン振り回したりします。彼の実の父親は、風の神ヴァーユ。『ラーマーヤナ」のハヌマーンと父が同じで、ビームはハヌマーンの弟ということになります。また、『マハーバーラタ』には、ハヌマーンとビーマが出会うシーンもあります。
このように、『RRR』という映画は歴史をベースにしながらも、英雄の活躍を神話にまで昇華して普遍的な物語にしているわけです。監督の手腕には感服するしかありません。監督のS・S・ラージャマウリは、インドのカルナータカ州ライチュール出身で、1973年10月10日生まれの49歳。父親は脚本家のK・V・ヴィジャエーンドラ・プラサード、妻は美術デザイナーのラーマ・ラージャマウリです。10月21日の「RRR」の公開舞台挨拶で、来日したラージャマウリ監督は、「『RRR』は泣いたり、笑ったり、踊りたくなったり、10分ごとに皆さんの感情を揺さぶることを約束します」と発言。
また、ラージャマウリ監督は、この作品でどうしても実現させたかったという2つのシーンについて「1つ目はラーム・チャランが2009年に主演した『マガディーラ』で描かれた、1対100人の殺陣シーンを超える1対10000人の戦闘シーン、2つ目は勇敢な戦士が野生の虎にも臆せずに対峙する戦闘シーンです。この2つのシーンはラーム・チャラン、N・T・ラーマ・ラオ・Jrという2人のヒーロー以外には演じられなかった」と、怒涛のアクションシーンを振り返り、互いの健闘を称え合いました。わたしは、猛獣の檻をトラックに乗せたビームがイギリス軍の中に突撃し、檻を開いて猛獣たちを解き放ったシーンが好きでした。虎や豹や熊や狼といった猛獣たちは、憎きイギリス軍の兵士たちに飛びかかっていくわけですが、もう最高のカタルシスを覚えましたね。
また、インド映画といえば大勢による群舞が有名ですが、この「RRR」にも圧倒的なダンスシーンが登場します。SNSを中心に、世界でなんと累計4.7億回再生されたミュージカルシーンです。ラーム・チャラン、N・T・ラーマ・ラオ・Jrが歌いながら完璧なシンクロを魅せる、魅惑の高速ダンス「ナートゥダンス」がそれです。このダンスシーンについて、N・T・ラーマ・ラオ・Jrは「撮影は1日12時間、練習はたった3日間、ダンスの撮影は14日間もあり、『ナートゥナートゥ』と聞いただけでも足が痛くなる」と渾身のシーンについて冗談を交えながら話し、「これだけ世界でも話題になって、本当に驚いています」と喜びも語っています。
S・S・ラージャマウリはハイ・ファンタジー作品を多く手掛けていますが、代表作の1つに、一条真也の映画館「マッキー」で紹介した2013年の映画があります。ハエに転生した青年が愛する彼女を守るため、自分を殺した建設会社社長にしてマフィアの男に立ち向かっていく奇想天外なアクションコメディーです。ハエが前世のリベンジのために、強大な敵に戦いを挑む姿が描かれるのですが、CGと実写を絶妙なバランスで織り交ぜ、ハエ対人間の壮絶バトルが展開されます。人間から見れば無力なハエがさまざまなアイデアでトレーニングし、知恵を巡らせ戦うさまが笑いと感動を誘う秀作でした。「マッキー」とは、インド語でそのまま「ハエ」という意味ですね。
また、S・S・ラージャマウリの代表作といえば、「バーフバリ」全2部作です。伝説の戦士バーフバリの宿命を映したインド発のアクションで、祖父、父、そして息子の3代に続く因縁の戦いを活写します。前編となる「バーフバリ 伝説誕生」(2015年)は、主人公の青年シヴドゥ(プラバース)が、大きな滝の下にある集落で育ち、いつか滝の上にある世界を目にしたいと思っていました。ある日、ついに滝の上にたどり着いた彼は、女戦士アヴァンティカ(タマンナー)と出会い、心を奪われます。彼は、彼女とその一族がバラーラデーヴァ(ラーナー・ダッグバーティ)の治める王国と戦っていることを知り、戦いに参加する。やがて彼は、母親が25年も幽閉されていることと、自分が王国を引き継ぐ運命を背負った王子バーフバリであることを知るのでした。
後編となる「バーフバリ 王の凱旋」(2017年)では、マヒシュマティ王国に住むシヴドゥ(プラバース)が、伝説のヒーロー、バーフバリの息子だということと、父が王座を追われ殺されたことを知ります。その昔、国母シヴァガミより王位継承者の資格を得たバーフバリは、これから統治する国の内情を調べるために、身分を隠して家臣と一緒に視察へ向かう。道中、シヴドゥはクンタラ王国の姫デーヴァセーナ(アヌシュカ・シェッティ)と出会うのでした。全2部作で製作された「バーフバリ 伝説誕生」「バーフバリ 王の凱旋」はそれぞれブリュッセル国際ファンタスティック映画祭、英国映画協会のプレミア上映に招待されるなど国際的にも高い評価を得ました。また、「バーフバリ 伝説誕生」はナショナル・フィルム・アワード 最優秀長編映画賞(英語版)を受賞しました。
10月21日の「RRR」の公開舞台挨拶で、ラージャマウリ監督は「『バーフバリ』で日本の皆さんからたくさんの愛をもらい、それをインドに持ち帰って、この2人のヒーロー(N・T・ラーマ・ラオ・Jr、ラーム・チャラン)に伝えました。日本に戻って来られて本当にうれしいです」と、『バーフバリ』シリーズ以来、約4年ぶりとなった来日の喜びと日本のファンへの感謝を述べました。「RRR」はインドだけでなく、アメリカでも空前の大ヒットを飛ばしたそうですが、アメリカ在住の映画評論家である町山智宏氏によれば、「アメリカ人たちも、『おいおい、トップガンなんかよりずっと凄いじゃん!』と驚いています」と語っています。まあ町山氏の発言は大仰なところがあるとは感じていますが、それでも「RRR」が超名作であることは間違いありません。正直、こんな面白い映画は久々に観ました! まだ観ていない方は、ぜひ!