No.1052


 羽田空港にしてからモバイルPCの調子が悪く、ブログ更新をあきらめかけました。しかし、なんとか復旧したので、この記事をUPいたします。14日の夜、アメリカ映画「天国の日々」の4K版をヒューマントラストシネマ有楽町で観ました。絵画のような映像美に魅了されました。

 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『ツリー・オブ・ライフ』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したテレンス・マリックが、1978年に発表した監督第2作。20世紀初頭のテキサスの広大な農場を舞台に、時代に翻弄(本楼)される若者たち4人の青春、希望、挫折が描かれる。主演は、『シカゴ』『HACHI 約束の犬』のリチャード・ギア。人口的な光を極力避け、その場の状況次第で撮影を行うなど、映像へのこだわりが強いマリック監督の初期作品に注目したい」

 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「第1次世界大戦が始まったころ、シカゴの製鉄工場で働くビリー(リチャード・ギア)は仕事を辞め、妹のリンダ(リンダ・マンズ)と恋人のアビー(ブルック・アダムス)と共にシカゴを飛び出す。テキサスの農場で麦刈り人として働くことになったビリーだが、若き農場主チャック(サム・シェパード)がアビーに目を付けたと知り......」
 
 20世紀初頭のテキサスの農場を舞台に、雇われた労働者達の姿と、人間の弱さと脆さを描いた名作です。じつは、わたしは初めて鑑賞したのですが、この映画の2つの評判については以前から知っていました。1つは、「最も美しい映画である」こと。もう1つは、「内容が薄っぺらい」こと。実際に鑑賞してみて両方とも納得しました。とにかく映像が美しい。風にそよぐ麦畑はアンドリュー・ワイエスの絵画のようですし、マジックアワーにただずむ農民たちの姿は神々しいほどです。ストーリーはつまらないですが、この映画は映像美だけを楽しめばいいと思いました。そして、この、あまりにも美しい映画は絶対に劇場で観なければなりません。
 
「天国の日々」は、徹底したリアリスティックで美しい映像が最大の魅力ですが、これは名カメラマンとして名高いネストール・アルメンドロスによって実現しました。彼は1930にスペインのバルセロナで生まれ、1992年にニューヨークでエイズのために亡くなっています。パリで、エリック・ロメールの元でカメラマンの代理を偶然に務めたことがきっかけとなり、カメラマンとしてのキャリアを歩みだしました。ロメールをはじめ、フランソワ・トリュフォーや、ジャン・ユスターシュといったヌーヴェルヴァーグ派の映画作家と親交を深め、その作品を数多く担当しました。いずれも名作揃いです。
 
 アルメンドロは、自然光をたくみに使い、映画、絵画、写真などの博識な芸術知識を活かした斬新で芸術的な映像美は注目を集め、特にフランソワ・トリュフォーとのコンビネーションは、フランス国内のみならず、海外でも評判を集めました。1970年代からはアメリカ映画にも進出、撮影を担当した「天国の日々」でのリアリスティックで芸術的な映像美によりアカデミー撮影賞を受賞したのです。「天国の日々」は"最も美しい映画"と呼ばれるまでの伝説的な作品となりました。
 
 その後もアルメンドロは、ロバート・ベントン、マイク・ニコルズ、マーティン・スコセッシなどとコンビを組みました。特に、ロバート・ベントンとは、社会現象ともなった1979年の「クレイマー、クレイマー」や1984年の「プレイス・イン・ザ・ハート」をはじめ、5本の作品を担当しています。名作として名高い「クレイマー、クレイマー」は、エイヴリー・コーマンの小説を原作としてロバート・ベントンが監督と脚本を担当した。主演はダスティン・ホフマン。第52回アカデミー賞作品賞ならびに第37回ゴールデングローブ賞 ドラマ部門作品賞受賞作品。原題は「クレイマー(原告)対クレイマー(被告)の裁判」の意で同じ名前の人が争っている裁判、つまり離婚裁判を題材にした物語です。
 
「天国の日々」の奇跡のようなマジックアワーの映像を観て、わたしは一条真也の映画館「ノマドランド」で紹介した2020年のアメリカ映画を思い出しました。この映画にも美しいマジックアワーが描かれているのです。ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション小説を原作に、「ノマド(遊牧民)」と呼ばれる車上生活者の生きざまを描いたロードムービーです。金融危機により全てを失いノマドになった女性が、生きる希望を求めて放浪の旅を続けます。彼女は現代の「ノマド」として一日一日を必死に乗り越え、その過程で出会うノマドたちと苦楽を共にし、ファーンは広大な西部をさすらうのでした。
 
 わたしは「天国の日々」のオリジナル作品を観ていませんが、4K鑑賞できて良かったです。雄大な景色とマジックアワー、水平線の夕陽も美しく、静謐で詩情溢れるタッチも本当に素晴らしい。一方で、ストーリーはつまらないですが、わたしは第一次世界大戦が起こる前の20世紀初頭の時代が好きなので、その意味では結構楽しめました。当時の機関車、自動車、バイク、飛行機などの乗り物が登場するのも嬉しかったです。農民たちが祭りなどで着飾る場面では、一条真也の読書館『舞踏会へ向かう三人の農夫』で紹介したリチャード・パワーズの小説を思い出しました。あの小説も1914年のアメリカ西部の物語でしたが、あの名作をまた読み直したくなりました。