No.1104


 7月23日の朝、互助会保証の監査役会に出席する前に日本映画「囁きの河」をシネスイッチ銀座で観ました。同劇場では一条真也の映画館「生きがい IKIGAI」で紹介した北陸能登復興支援映画を観たばかりですが、本作もまた被災した悲嘆に寄り添う静かなグリーフケアの物語でした。
 
 ヤフーの「解説」には、「水害に見舞われた熊本県・人吉球磨地域を舞台に、被災から立ちあがろうとする人たちの姿を描いたヒューマンドラマ。母親の死の知らせを受けて22年ぶりに故郷に帰った主人公が、被災した町で懸命に暮らすかつての友人や息子と再会する。青木辰司による令和2年7月豪雨を題材にした絵本『川があふれた!まちが沈んだ日』に着想を得て、『鶯谷奇譚 UGUISUDANI』などの大木一史が監督を担当。主人公を人吉市出身で『おしゃべりな写真館』などの中原丈雄が演じ、清水美砂、三浦浩一、渡辺裕太などが共演する」とあります。
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「熊本を襲った豪雨から半年後のある日、今西孝之(中原丈雄)は母親(寺田路恵)の訃報を聞いて22年ぶりに帰郷し、変わり果てた町の様子を目にする。孝之は息子の文則(渡辺裕太)とも22年ぶりに再会するが、文則は父親に心を開こうとしなかった。そして、被災者の中には孝之のかつての恋人で旅館の女将の山科雪子(清水美砂)や、彼女の夫で孝之の幼なじみでもある宏一(三浦浩一)もいた」
 
 令和2年7月豪雨は、2020年7月3日から7月31日にかけて、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨です。この映画の舞台となった人吉市では、災害関連死を含めて67人が犠牲となり、今も2人の行方がわからなくなっています。わが社の業界の仲間である人吉冠婚葬祭互助会さんの施設も損傷されて、お見舞いさせていただいたことを思い出しました。
 
 令和2年7月豪雨では、人吉市の旅館が営業できなくなったことをニュースで知りました。その後、旅館を再開したものの、再び豪雨に見舞われて、ついには閉館したニュースも知りました。非常に心を痛めたことを記憶しています。映画「囁きの河」では、三日月荘という旅館の主人(三浦浩一)は早々とあきらめて閉館を決意しますが、彼の妻である女将(清水美砂)がどうしてもあきらめきれず、最後まで閉館に反対する様子が描かれていました。女将の旅館への想いが切なかったです。
 
 三浦浩一演じる旅館の主人は、けっしてやる気がなかったり、いいかげんな人間なのではありません。気象の変化で、人吉が必ず豪雨に見舞われることをよく理解しているのです。閉館を渋る女将に対して彼は「いくら修繕を繰り返しても、来年また同じような大雨が降るぞ。いや、もっとひどい大雨が降るぞ」と言い放つシーンがあるのですが、わたしが同じ立場でも同じことを言うと思います。それにしても長年の思い出が詰まった家業の旅館を閉めるのは彼ら夫婦にとって大きな喪失であり、グリーフでした。
ヤフーニュースより



地球温暖化に苦しむ世界各地で『殺人的大雨」・・・『大気共鳴現象のせい』」という中央日報が22日に配信した記事によれば、韓国では大雨による死亡者が5日間で19人報告されていますが、世界各地でも死傷者を出す記録的な大雨が続いているといいます。専門家は、地球温暖化によって異常気象現象が夏にさらに頻繁に、強く発生する可能性があると警告しています。今年、米国では大雨による洪水被害が相次ぎました。最も被害が大きかったテキサス州では、今月4日(現地時間)に一晩で最大300ミリという猛烈な雨が降りました。これにより少なくとも130人が死亡し、100人余りが行方不明となっています。同月、ニューメキシコ州ルイドソでは、雨が降ってから数分もせずに川が氾濫し、3人が死亡しました。

 同記事によれば、気象学者は、今夏は「100年に一度」「1000年に一度」レベルの大雨が同時多発的に発生していると話しています。今月16日から韓半島(朝鮮半島)に降っている大雨も、200年に一度の降水量でした。米ペンシルベニア大学のマイケル・マン教授は、「もともと『1000年に一度』というのは、地球温暖化がなかったときの発生確率を意味する」とし、「地球温暖化のためにこのような事象がはるかに頻繁に発生している」とCNNの取材に語っています。テキサスに降った大雨は、メキシコ湾の海水温の上昇が原因とされています。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の気候研究者ダニエル・スウェイン氏は、「夏の間ずっと異常に暖かかったメキシコ湾と大西洋西部からの湿った空気が北上し、ロッキー山脈の東にある米国全域のあらゆる大気層で異例の高湿度が形成された」と説明しました。

 さらに同記事には、驚くべき内容が書かれています。昨年10月、スペインでも大雨で200人以上が死亡。スペイン気象庁によると、バレンシア地域のチーバでは8時間で1年分の雨が降り、史上最悪の洪水が発生しました。主要道路や地下鉄が浸水し、セビリアやマラガなど南部地域でも被害が大きかったそうです。気象学者は、突発的な寒波と地中海の暖かい海水が出会って強力な雨雲が形成され、暴風がその雨雲をスペインに運んだと分析しました。さらに、地球温暖化が暴風をさらに強力にしていると指摘。昨年の地中海の海水温は28.9度で、過去最高でした。ルーマニア、ポーランド、チェコ、オーストリアなどでもこれによる大雨で20人余りが死亡しています。マン教授は、「20世紀中盤以降、夏季にこのような気象パターンの発生率が3倍に増加した」とし「これは極端な気象現象に対する予測の不確実性を高める」と話しています。

 アメリカのドナルド・トランプ米国政府は、これまで中断していた洪水リスク予測プログラムの開発を再開したとCNNが報じています。これに先立ち、トランプ政権は数百人の気象予報官を解雇するなど人員削減と予算削減を推進し、その結果被害を拡大させたとの批判を受けていました。映画「囁きの河」を観たのは東京の映画館ですが、東京も過去最高レベルの猛暑が続いています。日本中いや世界中が異常気象で逃げ場がない感じですが、もともと生命というものを発生させ、生命を育ててくれた水が、豪雨や洪水や津波などに形を変えて人の命を奪うことが何ともやりきれません。それでも、山々に囲まれた盆地で霧が発生しやすい人吉では、素晴らしい茶葉が取れるのです。そのエピソードを、わたしはこの映画で知りました。自然界の水はコントロール不可能ですが、水から作られる茶という飲み物は人間の叡智そのものであるような気がしました。改めて、茶道の奥の深さを痛感します。
 
 映画「囁きの河」で主演を務めた俳優の中原丈雄(73)は、物語の舞台となった熊本県人吉市出身です。自分の人生を見詰め直す寡黙な主人公を演じた中原は、熊本のテレビでレギュラー番組を持ち、球磨焼酎の大使を務めるなど郷土愛が強いことで知られています。本作では、「人吉だけではなく、どこにでもあり得る話」と受け止め、地元での撮影に臨んだそうです。物語は父子の確執を軸にした群像劇ですが、中原は「孝之と文則の親子関係だけではなく、群像劇ですよね」と中原。「誰かが何かを声高に言うわけではないが、登場人物が発する一言一言が集まって、何か大きなことを言わんとしている。そんな物語だと感じた」と語っています。味わいのある一言ですね。
 
 中原丈雄は、人吉市での先行上映の舞台挨拶で「最初は『人吉市で映画を撮るので、出身者として何らかの手伝いをしてほしい』との依頼だった。中途半端に協力するのは嫌だなと思っていたら、改めて主演でお話を頂きました」と明かしました。また、「孝之は多くを語らないけれど、それがこの男の人生の大事な部分になっていて、演じがいがあると感じました。しかも、舞台は自分の生まれ育った町。他の人にはやらせたくないと思いました」とも語りました。水害からの復興をテーマとするだけに、「観光映画になったら意味がないと思った。そこは(脚本も書いた)監督がすごくよく分かってくださっていた」そうです。映画には、中原自身もかつて親しんだ球磨川の風景が幾度となく登場します。中原は、「一度も青空の下の(美しい)清流が出てこないんです。でも、登場人物のちょっとした笑顔が、それ(球磨川の美しい景色)に代わるものになっている。ご覧になった方が、それぞれの思いの中でテーマを考えられる作品になったと思います」と語るのでした。