No.1103
7月22日の夕方、新橋で打ち合わせをした後、インド映画の「マーヴィーラン 伝説の勇者」をヒューマントラストシネマ有楽町で観ました。日本では、一条真也の映画館「スーパーマン」で紹介したアメリカ映画と同日公開だったのですが、「スーパーマン」と同様に非常に政治的な内容でしたね。しかも国会議員選挙をめぐっての物語で、日本の現状にドンピシャの社会派エンターテインメントでした!
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「自身が描く漫画のヒーローに変身して巨悪と戦う漫画家を描いたアクション。開発地域からの立ち退きと新たに与えられた欠陥住宅に抗議する男性が、自らが描く漫画のヒーローとなって悪に戦いを挑む。監督などを務めるのは『マンデラ』などのマドーン・アシュヴィン。『ラジニムルガン』などのシヴァカールティケーヤン、アディティ・シャンカルのほか、ミシュキン、スニール、ヨーギ・バーブらがキャストに名を連ねる」
ヤフーの「あらすじ」は、「新聞の連載漫画『マーヴィーラン』の作者であるサティヤ(シヴァカールティケーヤン)は気が弱く、勝気な母親が起こしてくるトラブルを収めるのに苦労していた。そんな折、彼らが暮らす地域一帯が開発の対象となったため、立ち退きを余儀なくされる。しかし住人たちに新たに提供された高層マンションは、悪徳政治家ジェヤコディ(ミシュキン)一派が仕組んだ手抜き工事によって建築されたものだった」となっています。
この映画の冒頭では、延々とメッセージが流れます。それは、「この映画に登場する政党や人物は、実在の政党や人物とは一切関係ありません。もし似ていても偶然ですので、そのこのところをよろしく!」といった内容なのですが、これはもう確信犯ですね。「スーパーマン」にドナルド・トランプやイーロン・マスクを連想させるキャラクターが登場するように、この「マーヴィーラン 伝説の勇者」に出てくるスラム担当大臣にもきっとモデルがいるのでしょう。インドの国会議員選挙が間近に迫った頃、スラム街の住人たちは再開発のため立ち退きを命じられます。新築の高層住宅を充てがわれたのですが、それは手抜き工事の欠陥住宅でした。担当大臣は改選目当てで揉み消しを企み、臆病者の売れない漫画家は自分が描く漫画の英雄と化して巨悪に立ち向かうのでした。
インド映画の主人公といえば、神がかった超人が多いです。驚異の身体能力の持ち主が、そのスーパーパワーで悪を退治する話がほとんど。この「マーヴィーラン 伝説の勇者」の主人公であるサティヤも信じられないような力を発揮しますが、それは彼自身の意思からではなく、天から聞こえる声に従ったものでした。非力な漫画家が超常の声によって超人と化すところは、新興宗教の教祖や霊能者のパロディにも見えますが、謎の声に操られるのが漫画家というところがミソです。というのも、まるで漫画のト書きのような説明調の声が、すべてを見切って主人公を導くからです。本来は臆病なサティヤが「ごめんなさい」と謝りながら、敵を片っ端から倒していく様子は爆笑でした。
わたしはインド映画がけっこう好きで、よく観ます。最近では、一条真也の映画館「デーヴァラ」で紹介した作品を観ましたが、面白かったです。「デーヴァラ」は、 一条真也の映画館「RRR」で紹介した大ヒット作品のNTRジュニアが主演を務めたアクションです。凶悪な密輸団の拠点として恐れられ、長年むごたらしい抗争が続く土地を舞台に、愛と正義を貫いた英雄・デーヴァラを巡る伝説を描いています。1996年、クリケットのワールドカップ開催を控えたインド。警察本部は巨大犯罪組織による破壊工作の情報をつかみ、組織のリーダーを追う捜査班が凶悪な密輸団の拠点である村へ向かいます。むごたらしい抗争が長く続くその土地で、捜査班は愛と正義を貫いた英雄・デーヴァラ(NTRジュニア)にまつわる伝説を知るのでした。
この「マーヴィーラン 伝説の勇者」は、映画評論家の町山智浩氏が絶賛していました。町山氏は同日に日本公開された「スーパーマン」と比較しながら、民衆の立場に立って巨悪に立ち向かうのが真のヒーローであるといったことを言われていました。町山氏は政治的な問題もよく話題にされますが、本当に政治的な人は「映画館に行くより、選挙に行けよ!」となるかもしれません。実際に「スーパーマン」や「マーヴィーラン 伝説の勇者」を鑑賞後に参議院議員選挙に行った日本人もいるかもしれませんが、それでもこの両作品は政治的メッセージを超えて極上のエンターテインメントでした。ハッピーエンドの多いインド映画の中で「マーヴィーラン 伝説の勇者」のラストはちょっと意外でしたが、それはそれで物語としての筋は通っていると思いました。インド映画名物の集団ダンスが少ないのは残念でしたけど......。