No.1108


 7月26日、一条真也の映画館「私たちが光と想うすべて」で紹介した作品に続けて、ユナイテッドシネマなかま16で日本映画「この夏の星を見る」を観ました。ネットの評価が高かったのでたまたま観る気になった作品ですが、非常に感動しました。ある場面では涙しました。

 ヤフーの「解説」には、「辻村深月の小説を実写化した青春ドラマ。新型コロナウイルス流行によって行動を制限された高校生たちが、望遠鏡で星を捉えるスピードを競う『スターキャッチ』のコンテストを開催する。監督は『うちうちの面達は。』などの山元環。『大きな玉ねぎの下で』などの桜田ひより、『おいしくて泣くとき』などの水沢林太郎、『怪物』などの黒川想矢のほか、堀田茜、近藤芳正、岡部たかしらが出演する」と書かれています。
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「2020年。新型コロナウイルスが流行し、茨城県立砂浦第三高校の2年生・溪本亜紗(桜田ひより)と凛久たちは、行動を制限されて鬱屈とした夏を過ごしていた。そんな中、亜紗たちは望遠鏡で星を捉えるスピードを競う『スターキャッチ』のコンテスト開催に向けて奔走し始める。孤独な東京の中学生・真宙と同級生の天音、コロナ禍で実家の観光業が打撃を受けたことに心を痛める長崎・五島に住む円華など、全国の学生たちがオンライン上でつながり、コンテストに参加する」

 主人公の亜紗は茨城県立砂浦第三高校の2年生。顧問の綿引先生のもと、天文部で活動しています。亜紗を演じた桜田ひよりがすごく良かったです。彼女を初めてスクリーンで観たのは 一条真也の映画館「ブルーピリオド」で紹介した映画で、美大生の役でした。次は一条真也の映画館「大きな玉ねぎの下で」で紹介した恋愛映画で主役を演じていました。そして、本作「私たちが光と想うすべて」での亜紗役ですが、いずれも見事に演じていました。彼女の大きな瞳に代表されるキラキラ感がいいですね。亜紗と一緒に天文部に入部した飯塚凛を演じた久水沢林太郎も良かったです。彼が電車の中である告白をする場面は泣けました。
 
 東京では、渋谷区立ひばり森中学の1年生である安藤真宙が紋々としていました。彼はサッカー少年だったのですが、入学した中学では27人しかいない新入生のうち、唯一の男子でした。そのため、サッカー部も廃部になります。ショックを受けた真宙は腐って「長引け、コロナ」と日々念じているのですが、同じクラスの女子が「理科部に入らない?」と誘うのでした。真宙を演じた黒川想矢は一条真也の映画館「怪物」で紹介した2023年の映画で問題を抱えた少年役を、一条真也の映画館「国宝」で紹介した2025年の映画では吉沢亮演じる立花喜久雄の少年時代を演じています。彼は2009年12月5日生まれの15歳ですが、すでに大物俳優の貫禄さえありますね。

 茨城、東京に続くもう1つの舞台は長崎の五島です。ここでの主要人物は、中野有紗が演じる佐々野円華。彼女は高校3年生で、吹奏楽部に所属しています。実家は旅館なのですが、そこに他県からのお客が泊っていることで親友から距離を置かれ、やりきれない思いを抱えています。そんなとき、クラスメイトの男子から天文台に誘われ、「スターキャッチ」のコンテストに参加することになるのでした。コンテスト開催を発案したのは茨城の高校2年生である亜紗ですが、彼女が天文部顧問の綿引先生から「参加してほしい所あるか?」と訊かれたとき、「長崎。修学旅行で行くはずだったから」と答えるシーンがありました。ちなみに、わたしは8月9日の「長崎原爆の日」には長崎を訪れようと思っています。今年は戦後80年という大きな節目ですが、長崎に落ちた原爆は本来は小倉に投下されるはずでした。これまでの「長崎原爆の日」にはずっと小倉の地で祈りを捧げてきたわたしですが、長年の想いを叶えて今年は現地で祈りたいと思います。
 
 中学生にしろ、高校生にしろ、人生で一度しかないかけがえのない時間を新型コロナウイルスによって奪われた現実には、心が痛みます。でも、主役の亜紗を演じた桜田ひよりは「SPA!」のインタビューで「桜田さんがコロナ禍で大変だった時期はいつ頃でしたか?」という質問に対して、「高校2年、高校3年のときでした。なので卒業式は合同ではできなかったんです。ひとクラスずつ、教室内での卒業式でした」と答えています。「それはちょっと切ない思い出ですね。いまはコロナ禍ではありませんし、私は高校生でもないので本作の状況とは異なりますが、それでもこの物語から、いまの自分に勇気をもらいました」と言うインタビュアーに対しては、「自分が目標に向かって努力していたことができなくなる瞬間って、コロナ禍だけじゃないと個人的には思います。誰しもそれによって虚無感に襲われるときってありますよね。そんなとき『発想の転換』というのも大事だなと思います」と答えています。
「西日本新聞」2020年4月21日朝刊



 また、桜田ひよりは「今回みたいに、コロナによって道が途絶えてしまったけれども(コンテストの中止)、発想の転換によって、オンラインでやればいいんだと繋がりました。そして新しくもう一回、目標に向かって進んでいけることって、いまでも通じることだなと思います。自分の運命を受け入れて、そこからどうやって動いていくかは、発想の転換や、何気ない誰かのひと言だったり、行動で突き動かされるんだなというのは、改めて感じました」とも語っています。桜田ひよりの「発送の転換」というのは、わたしが父ゆずりの信条としている「何事も陽にとらえる」ということに通じると思います。当時のパンデミックを陽にとらえ、前向きに考えるとどうなるか。それは、何と言っても、世界中の人々が国家や民族や宗教の枠を超えて、「宇宙船地球号」の乗組員だと自覚したことに尽きるのではないでしょうか。新型コロナウイルスに人類が翻弄される現状が、わたしには新しい世界が生まれる陣痛のような気がしてなりませんでした。
心ゆたかな社会』(現代書林)



 考えてみれば、新型コロナウイルスのパンデミックほど、人類が一体感を得たことがあったでしょうか。戦争なら戦勝国と敗戦国があり、自然災害なら被災国と支援国があります。しかし、コロナ禍は「一蓮托生」です。その意味で、「パンデミック宣言」は「宇宙人の襲来」と同じかもしれないと思いました。新型コロナウイルスも、地球侵略を企むエイリアンも、ともに人類を「ワンチーム」にする存在なのです。残念ながら、ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・ガザ戦争など、コロナ禍後も世界で戦争は起こっており、現在も続いています。わたしの考えは甘いのかもしれませんが、それでも「パンデミックで人類がワンチームの意識を持った」ことは紛れもない事実であり、この意識を拡大して実体化することを諦めてはなりません。そんなことを拙著『心ゆたかな社会』(現代書林)に書いたのですが、同書の帯には「コロナからココロへ」というキャッチコピーが踊っています。
コロナ禍中の北九州空港で