No.1156
11月7日、いくつかの打ち合わせをした後、フランス・ベルギー映画「モンテ・クリスト伯」をTOHOシネマズシャンテで観ました。壮大なスケールのヒューマンドラマでしたが、上映時間178分は長過ぎた!
ヤフーの「解説」には、「アレクサンドル・デュマの小説『巌窟王』を原作に描く復讐劇。無実の罪で投獄された男性が脱獄して財宝を手に入れ、自分を陥れた者たちへの復讐を開始する。監督を務めるのは『フェイク・ライフ‐顔のない男‐』などに携わってきたアレクサンドル・ド・ラ・パトリエールとマチュー・デラポルト。『ブラックボックス:音声分析捜査』などのピエール・ニネ、『12日の殺人』などのバスティアン・ブイヨンのほか、アナイス・ドゥムースティエ、ロラン・ラフィットらが出演する」とあります。
ヤフーの「あらすじ」は、「無実の罪で投獄された若き航海士ダンテス(ピエール・ニネ)は、獄中で次第に無気力になっていく中、脱獄を計画する老司祭と出会う。やがて少しずつ未来を信じられるようになっていったダンテスは学問と教養を司祭から伝授され、さらにテンプル騎士団の隠し財宝のありかを打ち明けられる。そして投獄されてから14年後、彼はついに脱獄に成功する」となっています。
『巌窟王』は『ああ無情』(『レ・ミゼラブル』の児童版)とともに海外児童文学の定番なので、わたしも小学校の頃に読んでいました。しかしながら、大人の映画である「モンテ・クリスト伯」は株価操作とか生々しい話が多くて、ちょっとロマンがなかったですね。児童版の『巌窟王』ではもっと牢獄での描写が詳しかったように思いましたが、この映画での牢獄のシーンは「4年後」とか「10年後」とか景気よく時間が過ぎ去るので、「3時間もあるんだから、もっと牢獄の場面をしっかり描けよ!」と思ってしまいました。
原作者のアレクサンドル・デュマは19世紀フランスを代表的する作家です。『椿姫』を書いた息子アレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)と区別して、「大デュマ」と呼ばれます。1802年、パリ近郊に生まれ、劇作家になることを夢見てパリへ。シャルル・ノディエに才能を見出され、ユゴー、ミュッセらと交流。ヴォードヴィル演劇から出発して最初に成功した『アンリ三世とその宮廷』(1829年)、『ネールの塔』(1832年)、『キーン』(1836年)などの歴史ドラマを書き、一躍有名になります。その後、小説『三銃士』(1844年)、『二十年後』(1845年)、『ブラジロンヌ子爵』(1847年)の三部作を始め、『モンテ・クリスト伯』(Ⅰ844-1846年)などの歴史小説を発表、さらに『王妃マルゴ』(1845年)、『モンソローの婦人』(1846年)など多作家として一世を風靡しました。大いなるフランスの国民作家です。
『モンテ・クリスト伯』と同じく『三銃士』も何度も映画化されていますが「バイオハザード」シリーズのポール・W・S・アンダーソン監督が映画化したアクション・エンターテインメントが「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(2011年)です。17世紀フランス、銃士にあこがれを抱きパリにやってきたダルタニアン(ローガン・ラーマン)は、気が強く向こう見ずな性格が功を奏したか、あることがきっかけで三銃士の仲間入りを果たすことに。その後、フランス国王側近の裏切りで奪われた王妃の首飾りを取り返すため、イギリスへ向かうことになりますが、彼の前には事件の鍵を握るバッキンガム公爵(オーランド・ブルーム)と正体不明の美女ミレディ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が立ちはだかるのでした。
また、アレクサンドル・デュマの小説の映画化では、「王妃マルゴ」(1994年)が有名です。宗教革命に揺れる動乱の16世紀フランスの宮廷を舞台に、「アデルの恋の物語」のイザベル・アジャーニが、愛に生きた女--王妃マルゴを演じた一大ラブ・ロマンスです。16世紀末、野望渦巻くフランス宮廷。国王を擁する旧教徒カトリックのヴァロワ家と、新教徒プロテスタントのブルボン家との間で内乱が勃発。事態を鎮静化するため、ヴァロワ家の母后は実娘マルゴ(イザベル・アジャーニ)の美貌を利用し、新教徒の指導者アンリ(ダニエル・オートゥイユ)との政略結婚を画策しますが、初夜を頑なに拒んだマルゴは宮殿を抜け出し深夜の町へ。そこで運命の男ラ・モール(ヴァンサン・ペレーズ)と出会うのでした。
総じて「時間ばかり長くて、あまりピンとこなかった」と感じた「モンテ・クリスト伯」ですが、スクリーンの中に絶世の美女を発見しました。主人公エドモン・ダンテス(後のモンテ・クリスト伯)に命を救われたヒロイン・エデを演じたアナマリア・ヴァルトロメイです。「MUSE」の取材で、現在26歳の彼女は「どういう物語かは知っていたんですが、じつは私自身は原作小説を読んだことがなく、今もまだ読まずにとってあるんです。監督は私が演じるキャラクターを小説とはだいぶ違う描き方にすることを決めていて、"読んでいないならそのままで"と言われました。それで読んでいないんですが、父がこの小説の大ファンで(笑)。ものすごく喜んでくれましたし、正直言って今でもこの作品に関われたことが信じられない気分です」と語っています。
アナマリア・ヴァルトロメイは、1999年生まれ。フランスとルーマニアの国籍を持っています。エバ・イオネスコ監督の「ヴァイオレッタ」(2011年)で子役としてデビュー。写真家の母親が5歳から13歳の頃の娘を撮影し、ヌードも含まれた官能的な写真集を発表したスキャンダラスな実話を、当事者の娘が監督となり映画化したドラマです。エスカレートしていく母親の要求に、被写体である幼い娘が母に気に入られようと大人っぽいポーズにも挑み、退廃的な少女へと変わるさまを綴ります。監督は、女優でもあるエヴァ・イオネスコ。母親を演じるのはイザベル・ユペール。過激な役どころを果敢に演じるアナマリア・ヴァルトロメイの、当時10歳とは思えない繊細な演技に驚嘆します。
驚いたのは、アナマリア・ヴァルトロメイが一条真也の映画館「タンゴの後で」で紹介した2025年公開のフランス映画に主演していたことです。1972年製作のベルナルド・ベルトルッチ監督作「ラストタンゴ・イン・パリ」に出演した女優の人生に迫る人間ドラマです。19歳のマリア・シュナイダー(アナマリア・ヴァルトロメイ)は、新鋭監督のベルナルド・ベルトルッチと出会います。そして彼の監督作「ラストタンゴ・イン・パリ」への出演によりまたたく間に彼女はトップスターへと上り詰めます。しかしその一方で、48歳のマーロン・ブランド(マット・ディロン)との過激な性描写シーンの撮影により、彼女はその後の人生で大きなトラウマを抱えることになるのでした。このときにシュナイダーを演じたのがアナマリア・ヴァルトロメイだったとは、まったく気づきませんでした。同作での彼女の美貌はあまり記憶に残っていないのですが、本作「モンテ・クリスト伯」のエデ役は輝くばかりの美しさでした。


