No.1190
日本のアニメ映画「この本を盗む者は」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。12月26日からの公開で、今年最後の劇場鑑賞映画となります。よほどの話題作でない限りはアニメ映画は観ないのですが、タイトルに惹かれました。「本」がテーマの物語なら、気になります。ネットでの評価は高いようですが、わたしはちょっと苦手な内容でした。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「深緑野分の本屋大賞ノミネート小説を原作に、書物の街を舞台に二人の少女が謎を解くために本の世界を旅するファンタジーアニメ。本が好きではない主人公が物語の世界に飲み込まれた街を救うために、突然現れた不思議な少女と共に本にかけられた呪いを解くべく立ち上がる。監督を『結城友奈は勇者である』シリーズなどの福岡大生、アニメーション制作をかごかんが担当。ボイスキャストには片岡凜、田牧そら、東山奈央、諏訪部順一などが名を連ねる」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「書物の街・読長町に住む高校生の御倉深冬は、曽祖父が創立した巨大な書庫『御倉館』を代々管理する一家に生まれながら、自身は本が好きではなかった。しかし、御倉館の本が盗まれたことをきっかけに、街は本にかけられる呪い・ブックカースをかけられ、物語の世界に飲み込まれてしまう。呪いを解く鍵を物語の中から見つけ出すべく、深冬は不思議な少女・真白と冒険の旅に出る」
深緑野分のファンタジー小説『この本を盗む者は』は、KADOKAWAより2020年10月8日に刊行。2021年本屋大賞にノミネート。また、紀伊國屋書店主催のキノベス!2021で第3位に選出されました。メディアミックスとして、空カケルによるコミカライズが2021年から2023年にかけて連載。そして劇場アニメの本作が公開されたわけです。なお、深緑の短編集『空想の海』には本作のスピンオフ短編「本泥棒を呪う者は」が収録されています。
「本」がテーマのファンタジーということで楽しみにしていたのですが、残念ながら、わたしのハートにはヒットせず。全体がRPGみたいというか、物語の設定そのものは悪くないのに、キャラクターの魅力のなさ、安易な魔法ファンタジーの緩用なども気になってしまいました。何よりも物語が軽いです。これこそが本屋大賞にノミネートされたにもかかわらず受賞には至らなかった最大の原因ではないかと思います。一条真也の映画館「52ヘルツのクジラたち」で紹介した2024年の日本映画の原作を書いた町田そのこ先生をはじめ、本屋大賞を受賞する作家の物語を創る力は凄まじいですから。
主人公が本の世界に入って行くという設定は、1984年のアメリカ・西ドイツ映画「ネバーエンディング・ストーリー」を連想しました。「U・ボート」のW・ペーターゼン監督が多額の製作費をかけ、ミヒャエル・エンデの原作を映画化したファンタジー大作です。いじめられっ子の少年バスチアン(バレット・オリヴァー)は、悪ガキ三人に追いかけられて、古本屋に逃げこんだ。そこで『はてしない物語』という本を見つけますが、主人のコレアンダー氏(トーマス・ヒル)は意地悪く売ってくれそうもありません。コレアンダー氏が電話に出ているすきに、バスチアンは本をつかむと店を出て学校の屋根裏部屋へ行き、本を読み始めました。それは空想の国を舞台にした冒険物語でしたが、いつしか不思議な力に導かれバスチアンは本の中の世界に入っていくのでした。
価値のある希少本を盗む本泥棒の話なら、一条真也の映画館「ビブリア古書堂の事件手帖」で紹介した2018年の日本映画が思い浮かびます。シリーズ累計640万部を突破した三上延原作のベストセラーミステリー小説を実写映画化した作品です。北鎌倉の古書店「ビブリア古書堂」の店主である篠川栞子(黒木華)は極度の人見知りでありながら本に対して並外れた情熱と知識を持っていました。彼女は、五浦大輔(野村周平)が持ち込んだ祖母の蔵書(夏目漱石著『それから』)を手に取って見ただけで、大輔の祖母が死ぬまで隠し通してきた秘密を解き明かしてしまいます。そんな栞子の推理力に圧倒された大輔は、足を怪我した彼女のために店を手伝うことに。やがて大輔は、栞子が所有する太宰治『晩年』の希少本をめぐり、大庭葉蔵と名乗る謎の人物が彼女を付け狙っていることを知るのでした。
「ネバーエンディング・ストーリー」も「ビブリア古書堂の事件手帖」も実写映画ですが、「この本を盗む者は」と同じくアニメ映画で、しかも原作が同じKADOKAWAから刊行されている本がテーマの作品があります。「図書館戦争 革命のつばさ」(2014年)です。作家・有川浩の人気シリーズ小説で、2008年にTVアニメ版も放送された「図書館戦争」を映画化。公序良俗を乱す表現を取り締まるため制定された「メディア良化法」の下で行われる不当な検閲に対し、良書を守るため戦う「図書隊」所属の笠原郁と堂上篤は、デート中に緊急招集がかかってしまいます。続発するテロ事件の手口が小説家・当麻蔵人の作品内容と酷似していることから、メディア良化委員会が当麻を捕えようとしており、郁と堂上は当麻の身辺警護を任されます。しかし、良化隊との戦いで堂上が重傷を負ってしまうのでした。バトルシーンが多くRPGを連想させるのは「この本を盗む者は」と共通していますね。


