No.1242


 東京に来ています。日本映画「ゲキ×シネ『紅鬼物語』」をTOHOシネマズ日比谷で観ました。200分の作品でしたが、時間を忘れて物語に没頭しました。「劇団☆新感線」は久々に観ましたが、やっぱり面白い!
 
 本作「ゲキ×シネ『紅鬼物語』」は、「劇団☆新感線」の劇団45周年興行として2025年初夏に東京、大阪で上演された「紅鬼物語」を、同劇団の舞台を映画館のスクリーンで堪能できる「ゲキ×シネ」作品として映像化したものです。宝塚歌劇団退団後初舞台となった元・花組トップスターの柚香光を主演に迎え、鬼に生まれ、人を愛した女の宿命を描いた、新感線流の「お伽噺」が展開されます。
 
 昔々、そのまた昔。都に鬼が現れ、人々を襲っていた時代。貴族である源蒼の家臣・坂上金之助も鬼に襲われますが、反撃して鬼を撃退します。これを蒼に報告すると、それを聞いた同じく家臣の碓井四万は、蒼の奥方が神隠しにあったのも、鬼の仕業ではないかと言い出します。10年前のある朝、蒼の奥方・紅子と娘の藤がこつ然と姿を消し、庭には鬼のものらしき足跡が残っていたのです。10年経った今でも「紅子と藤は生きている」と信じる蒼は、鬼の根城を探し出して2人を取り戻そうと決意し、金之助らとともに陰陽師・阿部辺丁迷のもとへ向かいます。その頃、紅子と藤、紅子の両親は、シノナシ国の小さな村に身を寄せていました。紅子は村長の八十八に村を訪れた経緯を語り始めるのでした。
 
 わたしは「劇団☆新感線」の《ゲキ×シネ》が大好きで、多くの作品のDVDを持っています。でも、今回、本当に10年ぶりぐらいに映画館で楽しみました。《ゲキ×シネ》とは、演劇〈エンゲキ〉の迫力を映画館〈シネマ〉で体感するエンターテインメントです。「演劇」というライブ空間で体験できる迫力や興奮、感動をもっともっと多くの人に知ってほしいという思いから、「劇団☆新感線」は演劇の映像を映画館で上映する《ゲキ×シネ》をスタートさせたそうです。《ゲキ×シネ》は、「劇団☆新感線」の作品を上映しています。壮大なストーリーに、笑いや涙、歌や踊りを散りばめ、本格的なアクションとスピード感あふれる殺陣、コンサートばりの照明・音響を駆使して彩られるエンターテインメント性満載のド派手な舞台は、幅広い観客層から熱狂的に支持をされており、演劇を体感するのにふさわしい人気作ばかりです。何十台ものカメラワークを駆使して、画面いっぱいに広がる迫力の映像は、見る人を惹きつけ、映画館であることさえ忘れるほどの舞台の緊張感と臨場感を体感できます!
 
 公式HP「作品紹介」には、「舞台と映画館がひとつになった新感線の熱狂――鬼に生まれ、人を愛した女の宿命が、今、紅く燃え上がる。常に緩急のある飽きさせない表現で観客を楽しませ、古参ファンから若年層まで幅広い世代から支持を獲得する劇団☆新感線。とどまるところを知らない新感線が今回お届けするのは、はるか昔、鬼が棲まう世を舞台にした、まるで"お伽噺"のようなファンタジー作品!」と書かれています。続けて、「主演は、宝塚歌劇団を退団し、退団後初舞台となる元花組トップスター・柚香光。男役の衣を脱ぎ、新境地に挑むその熱演は、舞台上のみならず映画館の大スクリーンでも圧倒的な輝きを放つ。初参加キャストには、ゴールデンボンバーの喜矢武豊、スーパー戦隊シリーズの主演でデビューした一ノ瀬颯、元乃木坂46の樋口日奈が名を連ね、それぞれの個性とアクション、演技が交錯。さらに、新感線の準劇団員・早乙女友貴、6度目の登場となる大ベテラン千葉哲也、7年ぶりに新感線へ凱旋する鈴木拡樹らが加わり、確かな実力を持つキャスト陣が、重厚で見応えのある舞台を作り上げた。その興奮は、ゲキ×シネならではの映像演出によってさらに拡張。キャストの息遣い、殺陣の迫力、舞台美術の細部に至るまで、緻密なカメラワークと磨き上げられた音響が、"舞台の臨場感"を余すことなく再現。そこへ、作品の世界観により深く没入できるような演出効果もプラスされることで、より深化した『紅鬼物語』がここに鮮やかに甦る」と書かれています。
 
 公式HPの「物語」は、「鬼に生まれた女の哀しみが、 紅く儚く、心を焦がす――」として、「昔々、そのまた昔。都には鬼が現れ、人々を襲っていた。貴族である 源蒼(鈴木拡樹)の家臣、 坂上金之助(喜矢武豊)も鬼に襲われるが、反撃して片腕を斬り落とすと、鬼は捨て台詞を吐いて飛び去った。これを蒼に報せると、それを聞いた同じく家臣の 碓井四万(千葉哲也)は、蒼の奥方が神隠しに遭ったのも、鬼の仕業ではないかと言い出した。10年前のある朝、奥方の紅子(柚香光)と娘の 藤(樋口日奈)は忽然と姿を消した。庭には鬼らしき足跡が一対、残されていたという。それから紅子たちの行方は杳として知れない。それでも『紅子と藤は生きている』と信じる蒼は、鬼の根城を探し出し、二人を取り戻そうと心に決めて、金之助、四万、そして 桃千代 ももちよ (一ノ瀬颯)らと陰陽師の阿部辺丁迷のもとへ。だが、そこに金之助を襲った鬼の栃ノ木(早乙女友貴)がやってきて、桃千代を連れ去ってしまう。栃ノ木を追いかけ、蒼たちはシノナシ国へ向かった。その頃、紅子と藤、紅子の両親は、シノナシ国の小さな村に身を寄せていた。紅子と藤の舞の見事さに村長の 八十八 やそはち (粟根まこと)は感心するばかり。そして八十八に尋ねられた紅子は、村を訪れた経緯を語り始めるが・・・・・・。ともに生きるか、ともに死ぬか――。血の宿命に引き裂かれた二人の、哀しきお伽噺が今、幕を上げる」と書かれています。
 
「ゲキ×シネ『紅鬼物語』」で最も印象に残ったのは、主人公の紅子を演じた柚香光の圧倒的な存在感です。彼女は、2009年に宝塚音楽学校卒業後、宝塚歌劇団に95期生として入団。宙組公演「薔薇に降る雨/Amour それは...」で初舞台。その後、花組に配属。華やかな容姿と圧倒的なダンス力で早くから注目を集め、トップスターへの座へと駆け上がりました。2024年5月26日、「アルカンシェル」東京公演千秋楽をもって、宝塚歌劇団を星風と同時退団。花組トップコンビの同時退団は、1998年の真矢みき・千ほさち以来26年ぶりのことでした。退団後はスターダストプロモーション所属となり、芸能活動を再開しています。
宝塚雪組の元トップスター・彩凪翔さんと


 
「ゲキ×シネ『紅鬼物語』」での柚香光のダンスやアクションシーンは素晴らしく、「さすがは宝塚の元トップスター!」と感心しましたが、わたしは宝塚のトップスターであった女優の彩凪翔さんのことを思い出しました。一条真也の映画館「男神」で紹介した2025年公開のホラー・ファンタジー映画で共演させていただいた方です。ブログ「『男神』公開記念舞台挨拶」で紹介したイベントでもご一緒しました。彩凪さんは、宝塚では雪組の男役スターでした。舞台挨拶で登壇した彼女の姿を初めて見たとき、そのスタイルの良さに目を奪われました。男役のスターだっただけあって、どんな男よりも男らしいというか、凛としています。でも話すと、とても可愛い女性らしさを感じました。
「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)


 
「ゲキ×シネ『紅鬼物語』」は鬼の物語です。当然ながら、「鬼滅の刃」を連想しました。特に、「紅鬼物語」の主人公である紅子は「「鬼滅の刃」の主人公である竈門炭治郎の妹である禰豆子が成長した姿のように思えてなりませんでした。拙著『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)で、わたしは、禰豆子を「鬼と共生する人間」の象徴とし、コロナ禍における「ウィズ・コロナ」の姿や、炭治郎の「利他」の精神を示す存在として高く評価しました。箱に入って移動する禰豆子は、家族の悲嘆(グリーフ)を背負いつつ、人間の心を持ち続ける尊い「供養」の物語の核となっています。
「鬼滅の刃」と日本人』(産経新聞出版)


 
 炭治郎が禰豆子を人間に戻そうと奮闘する姿は、「利他」の精神の溢れる物語として描かれ、鬼となった存在さえも救おうとする「供養」の物語であると指摘しています。「紅鬼物語」で紅子の夫となる源蒼の姿は、丹治郎のそれと重なりました。昨年上梓した『「鬼滅の刃」と日本人』(産経新聞出版)に書きましたが、「鬼滅の刃」は、家族・共同体・儀礼といった炭治郎が喪ったものを、1つ1つ再構築していく物語です。言い換えれば、それは彼自身にとっての「精神的故郷」を再建する物語であるのです。物語の冒頭で炭治郎は一家を喪い、帰るべき家を失いました。しかし鬼殺隊に入り、擬制的な親族関係を築き、死者と交感し、共同体に加入し、さらに儀礼を継承することで、失われた家族は別のかたちで再生されていきます。これらの諸要素はすべて、炭治郎が行う「故郷の再建」として読むことができます。「ゲキ×シネ『紅鬼物語』」にも同じ感想を抱きました。