No.1248


 4月14日、アメリカのSF映画「カミング・ホーム」をヒューマントラストシネマ有楽町で観ました。異星人が登場する物語ですが、SFというよりファンタジー映画といった印象でした。上映時間は87分と短いですが、心がほんわか温かくなるハートフル・ムービーでした。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「人生の終盤を迎えた男性の希望と再生を描くヒューマンドラマ。娘に認知症を心配されながらも一人暮らしを続けていた男性の庭に不思議な飛行物体が墜落したことをきっかけに、彼の平和な日常が変化する。監督を手掛けるのは『リトル・ミス・サンシャイン』などに携わってきたマーク・タートルトーブ。『ウェルカム トゥ ダリ』などのベン・キングズレー、『コールド・ウォレット 仮想通貨の罠』などのゾーイ・ウィンターズのほか、ハリエット・サンソム・ハリス、ジェーン・カーティンらが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「79歳のミルトン(ベン・キングズレー)は、認知症の初期症状を娘に心配されつつもその現実を受け入れられずにアメリカ・ペンシルベニア州の小さな町で一人暮らしを続けていた。ある晩、彼の庭に謎の飛行物体が空から墜落する。ミルトンがそのことを訴えても全く相手にされない中、飛行物体を共に目撃した同年代の隣人、サンディーとジョイスとの絆が深まっていく」
 
 自宅の庭にUFOが墜落して、異星人が倒れていたとしたら? 誰でもそのことを110番か119番に通報するでしょう。でも、認知症の高齢者扱いされて信じてもらえなかったとしたら? 別にUFOや異星人でなくても、何かを目撃したことを報告したのに、信じてもらえないことは恐ろしいことです。本作「カミング・ホーム」はそんな可笑しさと怖さが描かれています。認知症扱いされる老人の孤独がうまく表現されていました。主人公ミルトンの他に2人の高齢女性が登場するのですが、彼らはいつも町議会に出席して、さまざまな提案をします。映画ではユーモラスに描かれていますが、いずれも達意の提案であり、「老人の知恵、おそるべし!」と思いました。

 ベン・キングズレー演じるミルトンが弱ったエイリアンを自宅に招き、介抱する場面はまさに「コンパッション」の発露だと思いました。エイリアンとのコミュニケーション方法は、これまでのSF映画に比べて、ものすごくユルイのですが、それもまた本作の魅力の1つでしょう。本作のエイリアンは人間の言いたいことをすぐ理解し、ソファーに大人しく座り、なんとリンゴを食べたりします。非常に穏やかな性格の生命体でしたが、一度だけ観客を慄然とさせる場面がありました。彼は「ジュールズ」とか「ゲイリー」などの名で呼ばれますが、わたしは「星の王子さまだ!」と思いました。
 
 サン=テグジュペリの不朽の名作『星の王子さま』に登場する王子さまは異星人です。王子さまは、いろんな星をめぐりましたが、だれとも友だちになることはできませんでした。でも、本当は王子さまは友だちがほしかったのです。7番目にやって来た地球で出会った「ぼく」と友だちになりたかったのです。人間ではない王子さまは、一生懸命に人間と交わり、分かり合おうとしたのです。人間との間にゆたかな関係を築こうとしたのです。それなのに、人間が人間と仲良くできなくてどうするのか。戦争などして、どうするのか。殺し合って、どうするのか。わたしは、心からそう思います。その想いが、「カミング・ホーム」で地球人と心の交流をするエイリアンの姿を見ながら湧き上がってきました。

「カミング・ホーム」を観て、先月観たばかりの一条真也の映画館「プロジェクト・ヘイル・メアリー」で紹介したSF超大作映画の内容を連想しました。同作はアンディ・ウィアーのSF小説を実写映画化した作品です。太陽エネルギーが減少する異常事態が発生し、人類滅亡の危機に瀕した地球。世界中の科学者たちが調査した結果、謎の現象は太陽以外にも宇宙のさまざまな恒星に及んでいましたが、11.9光年先に唯一無事な星が存在することが判明し、宇宙船でそこへ向かい異変の原因究明と解決策を探ることにします。そのプロジェクト『ヘイル・メアリー(イチかバチか)』に選ばれたのは、中学校の科学教師ライランド・グレース(ライアン・ゴズリング)でした。
 
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」には、ロッキーという異星人が登場します。そのロッキーと主人公グレースとの友情の物語として、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は高い評価を得ているようです。「究極のバディ映画」と絶賛するレビュアーもいます。でも、わたしは、エイリアンとしてのロッキーの造形があまり好みではないので、そこまで感情移入できませんでした。というのも、ロッキーは岩でできた蟹みたいな容姿をしているのです。やはり、人間が感情移入できる対象は人間に近い姿が一番です。その点、「カミング・ホーム」のジュールズはヒト型のヒューマノイドでした。

 地球に取り残されたエイリアンを故郷の星に返してあげようと地球人が奮闘する「カミング・ホーム」のストーリーは、明らかに「E.T.」(1982年)を意識しています。地球の探査にやって来て一人取り残された異星人と少年の交流を暖かく描き上げたSFファンタジー映画の名作です。森の中に静かに降り立つ異星の船から現れる宇宙人たち。だが彼らの地球植物の調査は人間たちの追跡によって中断されます。宇宙船は急いで空に舞い上がりますが、1人の異星人が取り残されていました。森林にほど近い郊外に住む少年エリオットは裏庭でその異星人と遭遇、彼をかくまう事にするのでした。

「E.T.」のメガホンを取ったスティーヴン・スピルバーグ監督は、じつに約半世紀ぶりに人類と異星人についての映画を作りました。7月公開予定の「ディスクロージャー・デイ」です。「開示の日」という意味のタイトルは、人類が宇宙で孤独ではないという真実が明かされる壮大な物語を予感させ、世界中が注目する作品です。「もし人類が宇宙で一人でなかったら?」という根源的な問いを扱い、人類の前提を覆すような「開示(ディスクロージャー)」が描かれます。天気予報キャスター(エミリー・ブラント)が伝える天気予報の声に異変が起き、スタッフが動揺します。特報映像には、森の動物たちが一斉に特定の方向へ集まる不可思議な光景が映ります。そして、「全人類はその真実を知る権利がある。 "開示(ディスクロージャー)"する/全世界に一斉に」というセリフで、人類史を揺るがす瞬間の到来を示唆するのでした。

「カミング・ホーム」は2023年の作品ですが、大きな話題となっている「ディスクロージャー・デイ」の公開に先駆けて日本公開されたことは深い意味があるような気がします。「カミング・ホーム」のマーク・タートルトーブ監督は「リトル・ミス・サンシャイン」(2006年)、「ラビング 愛という名前のふたり」(2016年)など、数々のアカデミー賞ノミネート作品をプロデュースしています。79歳の主人公ミルトンを演じるのは、スピルバーグ監督の感動大作「シンドラーのリスト」(1993年)などで知られるアカデミー賞俳優、ベン・キングズレー。米批評サイトRotten Tomatoesでは批評家スコア86%・観客スコア90%の高評価を獲得。奇想天外な騒動の中で、誰もが年老いた先に直面する不安や孤独を温かな優しさと感動で照らしだす、珠玉のヒューマンドラマが誕生しました。